1-17 サスケコートと前期末試験(2)
7月4日木曜日。
いよいよ前期末試験開始だ。中等部は午前で、高等部の俺たちは午後から。雨がけっこう降ってるけど、今日は練習しないし、天気は気にならない。
初日の科目は、現代文Bと世界史B。読書量は少なくないし、小説も下手なりに書いているが、現代文はわりと苦手だ。世界史は勉強量に比例して手応えは十分だ。
5日の金曜日は、日本史Aに数学ⅡとBの総合。苦手だった(単なる時間不足)日本史は楽勝だったが、数学は基礎がおろそかになっているから、いまいちの出来。それでも簡単な問題は確実に解けた。
6日土曜日は試験はなし。つまり学校に行かなくていい。
だけど朝は雨。昼近くになって雨は止んだ。
杉浦さんに電話してみると、コートの雨は捌けてるとのこと。
美那に連絡してみると「やる、やる!」と二つ返事が返ってきたので、サスケコートで軽く汗を流した。
7月7日日曜日はしとしと雨。せっかく七夕なのに。
俺は思うんだけど、元々の旧暦なら8月だろうから、もっと晴れる日が多いはずだ。
織姫と彦星が可哀想すぎる。
ちょっと気になって調べてみたら、国立天文台に「伝統的七夕」のページがあって、今年2019年ならちょうど一カ月後の8月7日だ。
その日なら、もしかすると晴れるかもしれないよな。
午後になって、美那からお茶の誘いがあった。
いつもの喫茶店で落ち合うことに。今日に限っては悩みとかなさそうだ。
予想通りほとんど雑談で、単なる試験期間中の気分転換に俺を付き合わせただけみたいだ。
俺も美那の笑顔で癒される。
帰り際になって、美那は思い出したように、17日水曜日の夜に川崎で行われる3on3のプロの試合を観に行こうと誘ってきた。
ルールは3x3と若干違うらしいけど、上手い人のプレーを生で見ておいたほうがいいということだ。それはそうだ。
考えてみれば、まともな生のバスケの試合なんて美那が出場した公式戦くらいしか観たことがない。
テニスだってテレビで観るのと生で観戦するのではえらい違いだったもんな。
7月8日月曜日。
今日は、古典Bに地理A、物理基礎。古典はわりと得意で楽勝、地理も勉強してあるのでまあまあだった。
物理は嫌いじゃないんだけど、基礎ができてないから不得意で、いつも成績は悪いのだけど、勉強したぶんだけ今回はマシな感じだ。
7月9日火曜日。
ついに試験最終日。科目は英語総合のみ。
試験の終了はいつだって待ち遠しいもんだけど、今回はちょっと違う。
早く終わってプレーしてえ!
かーちゃんが翻訳をしていて基礎をしっかり教わっているから、もともと英語は得意。
いままでは英語と古典、暗記系の科目で総合得点を稼いできた。
今回は勉強時間をたっぷり取ったから、英語の高得点を期待できそうだ。
3時に試験終了。終わったー!
トータルでいつもよりできた予感だ。
そして、この開放感。最高だぜ‼︎
クラスメートは、仲のいいグループで、「どこそこ行こうぜ!」とか盛り上がっている。
美那たちのグループも、「カラオケ行く?」とか、「スイーツ行こう」とか、喋りながら、教室から出ていった。
俺のところにはかろうじて柳本が来て、「お前どうだった?」って訊くくらい。
「まあまあかな」「俺も」と内容のない会話だ。
柳本はすぐにほかの奴のところに行ってしまう。
雨は降ってないけど、曇り空。さすがに今日はちょっと疲れを感じている。でもひと眠りしてひとりでサスケコートに行くか。
1時間ほど家で寝て、それからZ250を奥から出す。
エンジンをかけて、少しだけアクセルを開けてから、奥に戻す。
14日のライディングスクールを終えれば、ようやく乗れる。
もうちょっとの我慢だ。
夕方の5時半から練習開始。
サスケコートでのひとり練習は初めてだな。
ドリブルは毎日の練習の成果で、利き手の逆の左手でもだいぶうまくなってきた。
でも左手でのシュートはまだ全然ダメだ。だから今日は左手でのシュートを練習だ。
美那相手の実戦的な練習だとつい右手に頼ってしまうから、今日はちょうどいい。
左手のレイアップを集中的に練習する。しかしぜんぜん入らん。
結局日暮れまでやって、左手で入ったのは3本だけ。いやはや。いまごろ美那はカラオケでも楽しんでいるのだろうか?
家に帰って、飯食って(最近はかーちゃんに作らせてばかり)、ソファでひさしぶりにテレビを見てたらいつの間にか眠っていて、かーちゃんから起こされて気がついた。
「美那ちゃんから電話。あんたの携帯に何度もかけたけど、でないって」
そりゃそうだ。自分の部屋に置きっぱなしだった。
かーちゃんから家電の子機を受け取る。
「ごめん、すっかり寝てた」
「起こしちゃった?」
美那の口調がやけに優しい。
「いや大丈夫、ソファでうたた寝だから」
「今日はごめんね。なんか連絡できるタイミングがなくて」
「え、別にいいよ。サスケコートでひとりで練習したし」
「今日も行ったんだ?」
「早くプレーしたくてうずうずしてたしな。おまえは?」
「わたしたちはカラオケ行って、スイーツ食べて、カフェでダベって今帰ってきた。帰り道に電話したんだけど」
「わりい。部屋に置きっぱなしだった。なんか用事?」
「別に特にないけど、明日どうする? 何時頃出る? 1時半からだから11時半ごろ出れば間に合うけど」
「それだと昼飯食う時間もないな。あ、そうだ。外用のテニスシューズがぼろぼろになってるのを見兼ねたかーちゃんが、新しいのを買いなさいって1万円くれた。買うの付き合ってくれる?」
「え、いいよ、べつに」
と、美那はちょっと驚いた感じで答える。
「俺はよく知らないし、こないだの店かな?」
「そうだね。どうせ横浜を通るし。じゃあお昼も食べるとなると、9時ごろ出る?」
「ああ。朝練はどうする?」
「午後に3時間あるし、体力を温存しておいたほうがいいかも。オツさんもだいぶ火が入ってきたみたいだから」
「わかった。じゃあな」
「うん。おやすみ」
「ああ。おやすみ」
なんか美那のやつ、ずいぶん淑やかじゃねえか。
おやすみ、とか言われたの最近じゃ初めてかも。
また好きな男でもできたのかな。
それともナオさんの影響か?




