Review.4:聴取。
五月になっての初投稿です(笑)
照りつける日差しと蝉時雨を浴びながら、オレと綾瀬は校内の図書館へ向かっていた。
常平学園付属図書館。
四階建てのレトロな雰囲気漂う赤レンガの洋館である。
まぁ、中身は現代風の造りなんだけどな。
とぼとぼと歩くオレの後を、綾瀬は監視するようについてくる。
なんとまぁ、なかなか気まずい雰囲気だ。
状況を打開しようと、オレは歩く速度を落とし、綾瀬と並んだ。
「なぁ、今回は何で呼び出されたんだ?」
綾瀬は更にスピードを落とし、オレの後ろに回る。
「さぁ?私も今朝急に部長から、間君を捕まえておいてくれって言われただけだから……」
「あ、あぁ、それは分かった、良しとしよう。……だがだ、綾瀬。何故に下がるんだ?」
「間君こそ」
「オレはお前と話すためだろうが」
「もう言うべきことは話したわ」
……かってぇな相変わらず。綾瀬らしいや。
「早く行きましょ」
すました綾瀬に促されるままに、オレは図書館へと足を踏み入れた。
空調で冷やされた空気が火照った身体に心地良い。
場所は、図書館二階の談話室である。
部屋の隅、窓際の席に見知った顔を見つける。
「お待たせしました部長」
綾瀬が声をかけると、その人物はついと顔を上げた。
中肉中背、精悍な顔立ちに銀縁の眼鏡をかけている。
「やや、よく来たね。さぁ、かけてくれ」
高等部二年生、大西 義彦。
博学才穎、温和な性格の文科系青年であり、我らが〈現象研究会〉の部長である。
そして、その横には見知らぬ顔があった。
「部長、彼はどちらさんで?」
椅子に腰掛けながら、オレは言う。
手を入れてない芝のような頭髪、顔面に宿る空ろな双眸、締まった痩躯。
どこかで見たことあるような…。
「彼はだね、〈七不思議〉のひとつで今回我々が探究する〈大階段の野獣〉の第一目撃者にて、私のクラスメイト、須藤 恭介君だ。聞き覚えくらいあるだろう?」
確かに。
脳内の情報を検索する。
……これだ。
須藤 恭介。
高校一年生の時、市内で起きた殺人事件を解決に導いた若き名探偵である。
その容貌と、事件のおかげで彼を知らない者は、この町内にはまずいないだろう。
それくらい有名な、男子生徒である。
「どうも初めまして先輩。高等部一年、綾瀬と申します」
「同じく高等部一年の間です」
二人分の挨拶を、コクリ一つで受け流し、先輩は一言、
「須藤だ」
と言った。
「すみません、もう一度お聞きして失礼ですが、須藤先輩は何をご覧になったと?」
情報を整理するのが好きな綾瀬が、部長、先輩誰ともなしに問いかける。
「〈大階段の野獣〉だ」
須藤先輩が面倒臭げに言う。
部長がそれに続いた。
「最近現象化してきた〈現象〉の一つだよ。校内を貫く大階段があるだろう?あそこに狼とも熊ともつかない大きな獣が徘徊していたらしい」
それを、この須藤先輩が見たと。
「今にも襲い掛かられそうでひやひやしたがな。しばらく睨み合ってると消えていった」
たいした野郎だこの人も。
一睨みで現象を退散させるなんて。
ま、この憂い秘めた孔の如き瞳で睨まれたら、〈現象〉といえでもたまらないか。
「外見は…?」
綾瀬が考え込みながら言う。
それに対し、須藤先輩は無表情に首を振った。
「すまない、分からなかった。あまりにもぼんやりとしていてな、形状さえ曖昧だった」
殺人事件を解決するほどの伊達じゃない観察眼を持ちながらも、判らない、か。
それは、まだ完全に具現化していないということか。
昇華させるなら、今が手頃かもしれない。
識別し、討つことが出来れば、被害が出ずに済むのだが。
ここらでちょいと説明しておくが、普通、学校の七不思議と言えば、全て知ると呪われてしまうなどと言う噂がある訳だが、常平では違うんだ。
ここでは、害ある怪異現象は〈不思議〉とカテゴライズして呼ばれ、とりわけ酷いものが七不思議に認定される。
よって七不思議は当然全員に認知されているし(それで呪われる事も無い)、時によって変動することもある。
ま、気にしすぎてちゃあ玖刻市では暮らせないってことだな。
浮世離れした凄い場所だよここは。
「話がないようなら、そろそろ失礼する」
ぎり、と椅子を軋ませながら須藤先輩が立ち上がる。
「すまないな須藤。助かったよ」
「あぁ、あとは任せた。頑張ってくれ」
須藤先輩は、世の中を見捨てたような視線をオレらに向けてから、少々猫背気味で談話室を去っていった――
この「須藤」というキャラは友人の作中キャラです。
ゲスト出演していただきました。
さて、今回は〈玖刻〉の〈現象・不思議〉のシステムについて黙雷が説明していましたね。
〈玖刻〉は、そういう街です。
これからも、どうぞよろしくお願いします。




