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Review.3:夢現。


――授業だ。


最後の、時間。

この一時間をしのぎければ、今日は開放される。

「ジェヴォーダンの獣というのは―――」

教壇では、若森という国語の教師が授業からずれ、雑談をかましていた。

そういうのは大好きなんだが、今日は身体になんとも形容し難い倦怠感が絡みついていたので(深夜までラジオを聴きながら読書をしていた為)、申し訳ないがスルーさせてもらう。

目の前の席に座る空島も、若森の話を聞く気は全く持って無いらしく、窓の外の澄んだ青空をボンヤリと眺めていた。


『僕は空が好きだ。晴れの日のスカッとした青空も、雨の日のどんよりとした曇り空もね』


中学のときに、奴が言ったことを思い出す。

その時は、へぇよっぽど空が好きなんだな、ぐらいにしか思わなかったが、今では分からないことも無い。

刻々と変わりゆく青と白のコントラスト。

一瞬も同じ姿でいることは無く、飽きることが無い。

オレも空島に倣う。

青い空地を、流れるボンドのように白く透明な雲を、さんさんと照り輝くお天道様を、気持ち良さそうに飛ぶ鳥たちを、何ともなしに眺める。

「であるから、十八世紀のフランスは――」

若森の声を耳から閉め出し、心を無に浸す。


雲が途切れ、紡がれ、また途切れ…………


「よし、今日の授業はここまで。終礼」

「っと…」

いつの間にか寝ていたようだ。

「起立、気をつけ――、礼」

『ありがとーございましたー』

斉唱。

ようやく、昼までとはいえ大事な大事な夏休みを削ってまで来る意味の分からない課外授業の一日が終わった!

「さぁて空島、帰るか!」

教科書やら筆記用具やらを鞄につめ、意気揚々元気一杯に席を立つ。

「そ――」

そうだな、と空島が言い切る前に、第三者の声が介入してきた。


「間君」


ギクリ。

「か、空島、帰るぞッ、帰ってカキ氷でも――」


「間君ったら」


ギク…。

「黙雷、綾瀬さんが呼んでるけど?」

く、空島ッ、余計な事を。

オレはしぶしぶと声のした方を振り返る。


そこには、凛とした態度の女生徒がいた。


アーモンド形の瞳の上の眉をキリリとさせ、

口は不満げに引き結ばれている。

「オ、オレに何か用かな綾瀬?」

オレのぎくしゃくした反応に、綾瀬は口の形をはぁ?にさせた。

「何って…そりゃ部活でしょう?」

そう、この同じクラスの女子、綾瀬(あやせ) 理沙(りさ)はオレと同じ部に属しているのだ。

その名も〈現象研究会〉。

オレ達が住む玖刻市内で起こる怪異現象を探求・解明する事により知識・見聞を深める事を目的とした、摩訶不思議で奇想天外奇妙奇天烈な部活動組織である。

「今日は暑いから学園図書館だそうよ」

「…そっか、分かった」

一応の承諾。

綾瀬が出て行ったら、チャンスだ。

逃走して、そのまま帰宅するという算段である。


――だが。


「……綾瀬、先に行ってても構わないんだけど?」

綾瀬は律儀にもオレの机の前で待っている。

「間君が逃げたら困るもの」

「…う」

お見通しかよ。


「それに、どうせなら一緒に行っても良いじゃない…」


あらぬ方を向いてつぶやく綾瀬。

何を言ったのか良く聞き取れなかった。

「何だって?」

「き、気にしないでッ、準備が出来たのなら行くわよ!」

待っていたと言うくせに綾瀬は、そそくさと教室を出て行ってしまった。

「悪ぃな、空島。先、帰っててくれ」

友人に別れを告げた後、オレは綾瀬の後を追った。



残された空島は、しばらくの間ぼんやりと空を眺めていたが、やがて、

「僕もそろそろ〈部活〉に行くかな――」

教室を、後にした。


黙雷君、決して授業態度が良いとはいえないようですね(笑)

まぁ、自分もそうですが(^_^;)

授業中、外の景色眺めるの大好きです(苦笑)

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