Review.13:さよなら。
大階段の野獣を追って、四日目。
――決着の日。
祝日だったため、課外は休みだ。
それでも、オレは学校に向かう。
扇夕さんが、来ているためだ。
部室に向かうように、当然のごとく保健室に向かう。
中には、すでに皆が勢揃いしていた。
部長、綾瀬、藍造時先生、若森先生、扇夕さん。
そして、大人三人には知覚できていないであろう椿さん。
「そろったわね」
扇夕さんが、手元のバッグからファイルを取り出しながら言う。
「昨日、みなさんが帰った後、間君に言われたことを調べてみたわ。〈大階段の野獣〉に関係すると思われるのは、この二記事よ」
ファイルのあるページを開いて、全員に見せる。
それは、戦争に関する記事。
第二次世界大戦にて、玖刻市より出発する兵達たちの壮行会の様子が記されてある。
そして、その記事の中には、更に興味深いものが。
――写真である。
「これは…」
その大きな見出し写真の下には、
「主、大西武彦一尉を見送る忠犬、武丸」
と書かれ、その写真には、兵隊の背を見守る立派な柴犬の姿があった。
「タケマル……野獣の本当の名前です」
オレは、皆に言う。
静かに返される頷き。
皆も予想はついていたようだ。
だが、だ。
「主、大西 武彦……?」
みんなが首をかしげる中、部長がポツリとつぶやいた。
「……私の、曽祖父の名です」
沈黙が訪れる。
「もう一記事は、これよ」
扇夕さんが、心苦しそうに、もう一つのファイルを開く。
そこには、「戦死者名簿」と記されていた。
そして、確かに、大西 武彦一尉の名も記されていた。
「これが、真相……」
若森先生がつぶやく。
つまりこういうことだ。
〈大階段の野獣〉もとい、武丸は、戦地へと赴いた主を長年待ち続けていたのだ。
あまりにも、せつない。
静寂が、さらに満ちる。
そこで、部長が重い口を開いた。
「もう、休ませてやりましょう」
皆は、力強く頷いた―――
現象研究会はそれから、若森の紺のセダンと、扇夕の赤いワーゲンで、玖刻戦死者慰霊碑の立つ、流ヶ丘|へと向かった。
堂芥湾を地平線彼方まで見渡す、高地だ。
その頂に、慰霊碑がある。
黙雷は、すっかりおとなしくなった武丸を連れて、慰霊碑の前に立った。
「わかるか武丸?」
黙雷が慰霊碑の一点、「大西 武彦」と刻まれている箇所を指して、つぶやいた。
武丸は、しばしの沈黙の後、その月のような瞳から、大粒の涙をこぼした。
長年溜まった涙は、とめどなく流れ落ち続ける。
「私が、君の主の子孫だ」
義彦が、武丸の前に進み出る。
「君の忠誠心は……確かに、確かに曽祖父に届いた」
義彦が優しく言うと、武丸は慟哭の声を上げながら、更に激しくむせび泣いた。
一同も、武丸の悲哀を思い、押し黙る。
「あの世で、曽祖父によろしく頼む」
義彦の言葉は、武丸の心に届いたようだ。
その身体は、何かが抜け落ちたようにしぼみ、元の立派な柴犬の姿に戻った。
それから、武丸は義彦にコクコクと頷いてみせる。
――あの世の武彦様は私に任せておいてくれとでも言うように。
「間君……頼む」
義彦が目を涙で潤ませながら、言った。
「はい……じゃあ行く、ぞ武丸」
黙雷は、導具を、鞘から抜いた。
その刀身は、陽光を反射してきらりと清廉に輝く。
「常磐堅磐に彼岸安寧を。安らかに、昇れ――」
切っ先が、優しく武丸を撫ぜる。
嬉しそうに一度吼えた後、〈大階段の野獣〉は、青空に吸い込まれるようにして、消えて逝った―――
物語後半は、駆け足気味で来てしまいました。
この物語は、後日談的なものは無くここで終わりです。
作者自身、物足りなさを感じています。
いつか。いつか必ず短編として書かせていただきます!
さて、それでは長い間ありがとうございました!
すぐに、第三弾の連載が始まります!
どうぞお楽しみに。
これからも、昼行灯をお願いします!




