Q5-2 …ただ、圧倒せよ
ま、また時間が空いてしまった…!こ、これが…スランプ⁈
という訳で、明日もう一話投稿します。それでは皆さん、お気をつけてお越しくださいませ。
そもそも、森の中で火は使わないのが鉄則である。森林火災になったら面倒だし。まぁ、森に隠れた敵を燻り出すには良いんだけど、多くて精々数十人の代償が環境破壊じゃあ釣り合わないし…って、そんな事を言ってるんじゃないんだ。問題なのは、━━━俺ではなく相手にとって━━━こんな湿度の高い、かつよく燃える物が大量にある環境下で火を焚くことだ……
…分からないかな?なら…こう言おうか。
「森で火を使うなよ…『気温が上がっちまう』だろうが」
気温…36℃を突破。《血流活性》…発動。
…場の雰囲気が、一変する。
血管が膨れ上がる。血流が加速する。それに伴って皮膚が赤みを帯びていく。
既にバックパックは打ち捨てられ、双子のドラゴンは彼の肩にしがみついている。周囲を取り囲むプレイヤーたちの困惑をよそに、彼の『変化』は続いた。
皮膚の一部には鱗が現れた。瞳はアーモンド状のそれに変化する。その爪と牙は鋭利なナイフへと姿を変え、太さは人の胴周り程はあろうかという尾が腰から生えてきた。
「な、何なんだよ、一体…」
そう言いつつプレイヤーたちは火球を放つ手を止めない。否、止められないのか。もし手を止めたら、この怪物が今にも動き出しそうで。今なら倒せると自身を鼓舞しながら撃ち続けるしか無かったのである。
だが、そんな淡い希望が数秒も経たず打ち砕かれるのを、彼らは知らなかった。
「GYAAAAAAAAAAHHHHHHHHHH!!!!!!!」
咆哮と共に、レックスの周囲の炎が熱風となってプレイヤーたちに吹き付ける。咆哮の音圧だけで炎を吹き飛ばすとは、何たる肺活量か!
「ぐうっ……!お、おい見ろ…」「ハァ?!マジかよ…」「あれだけ撃ち込んだのに…」
彼らの視線の先にはレックスのHPゲージ。………正確には、「精々2割程しか減っていないHPゲージ」か。
彼らは知らない。レックスの種族であるエンシェントドラゴニュートは魔法への高い耐性を持っている事を。
そして、『その時』は唐突に訪れる。
「う、うう…うわああああ!!!」
プレイヤーたちの丁度先頭にいた剣士が恐慌に駆られたかのように突撃した。魔法がだめなら近接でという事か。だが、それで駄目だったから魔法による遠距離攻撃に切り替えたのでは無かったのか。
ズドッ!
当然、無策な突撃程度でどうにかなる筈も無い。繰り出された貫手が容赦無くプレイヤーの胸部を穿ち抜く。だがここで一瞬レックスの動きが止まった。腕が思ったより深々と突き刺さって抜けなくなったのだ。そして、一部の腕利き達はこれを見逃さない。
「今だ!」
千載一遇の好機。ほんの一瞬だが、それでも隙は隙である。確実に仕留める為に彼らは近接攻撃を仕掛けた……が。
ズガッ…!「がふっ…!?」
ある者は強靭な尾に吹き飛ばされ。
ザシュッ!「グハ…ッ…」
ある者はまだ空いていたもう一方の手に握られたダガーで首を斬られ。
ボグッ…!「ガ…カ…」
ある者は引き抜かれた手で首を折られ。
「「ギャオオオオオオ!!!」」ドドドドドドド!!!!「「がわ、ガバババ…」」
ある者は肩で力を溜めていた2匹の竜のブレスに全身を蜂の巣にされた。
そして無策な愚か者達の躰が欠片となって消え去る頃には…襲撃者達は見てそうと分かる程に浮足立っていた。
「おい、聞いてないぞ!こんなに強いなんて…!」「コイツ殺ったらドラゴン手に入るんじゃないのか?!」「もう訳分かんねえよ!何なんだよこいつ…って、あいつ、どこ行った?」
既に彼らの前に古代の竜人はもう居ない。当然か。敵を前にして悠長に言い争いをしていれば逃げられても文句は言えない。
「くそっ、探せ!まだそんなに経ってないか、ら…?」
張りあげようとした声が尻すぼみになって消えていく。止せばいいのに思わず下を見ると、そこには胸の中心から顔を出した短刀の切っ先が…!
「が、が…なん、で…?」「隙だらけだ。キチンと鍛えて出直して来いよ、新人」
下された冷徹な審判。それが彼が死に戻る前に聞いた最後の言葉だった。
「クソ、一体何処に…?!」ドサリ。
「ま、また殺られた…ァ?!」バタッ。
「畜生!何でこんな目に遭わなきゃいけないんだ!もうオレは抜け…ぇ…?」ドサッ。
ヤレヤレ、残った連中は粗方殺ったか。ハァ……………疲れた。ただひたすらに疲れた。「じゃあさっさと逃げろよ」って話だけど…まぁその通りだわな。実際相手にしなくても良かったんだけども…
「キュキュ!」「…ガウ」
話の中心はコイツ等だ。もしあの阿呆共が下手に騒いでみろ。最悪、アルフィナを襲った連中の耳に入る可能性がある。それだけは何としても避けねばなるまい。と言う訳で…
「最後の〆と行くか」




