Q2 トラブル発生の確率をXとした時の道程に於いての平均値、最大値、最小値を求めよ。
…スランプ…幸いにしてプロットは全部最終回まで作ってあるからどうとでもなるけど…細かい表現で詰まる…うごご…
あれから、ゲーム内時間で4日。
「あ゛あ゛~…」「「ZZZ…むにゃむにゃ」」
俺は呆気なく退屈に膝を屈していた。だってしょうがねぇじゃんかよ~。やる事二日目で無くなっちまったもんさ~。精々ダガー振るくらいしかやる事が無くてさ…まあお陰で《短刀術》のレベルが3になりました。やったぜ。
「お目当てのアーツも覚えたしな~」
俺が言う覚えたかったアーツとは《短刀術》と《隠密行動》の両方を習得しているときのみ解放される《アサシネイト》という《短刀術》アーツだ。効果は「弱点攻撃時に極低確率で敵を即死させる」と言うもの。…エグイ。今思ったが即死狙いビルドにしろとでも神は言っているのだろうか。《暗殺術》を持ってると敵の即死耐性を下げる効果も追加されてるのがより拍車をかけている。一回でダメなら二回三回、ってか。リキャスト15秒だからどんどん使っていけるし。
「とはいえ、こう敵モブが出ないと暇で暇で…何か突発イベントでも起こんない事にはなぁ…もうログアウトするかぁめんどくさい」
とか何とかボヤいたのが良かったのか悪かったのか。
…ゴゴゴゴゴゴゴ…
…ん?
「「ZZ…フニャ?!」」「…流石に気付いたか」
いい調子だ。このまま索敵範囲を広げて…ってそういう事では無くてだな。
「どうした⁈」「旦那ァ、コイツぁマズイ!ファランクスブル共の大量発生でさぁ!」
さっき聞こえた地鳴りのような重低音。その発生源は眼前の丘を埋め尽くす勢いで激走する牛…か?まぁともかく視界一杯に赤黒いモンスターの大群が出現していた。幸いにしてこちらに向かっていない様だが。
「なんじゃありゃ…」「あれ、妙ですなぁ。…いやですね、こいつらの大量発生はいつも通りだったらあとひと月か二月か先になる筈だったんですがねぇ…」「何らかのイレギュラーが発生して通常よりも早く発生したのか…原因とか解ってるのか?」「勘弁して下せえよ旦那ァ。王都のお偉い学者先生ならともかく、俺らみたいな下々のニンゲンに分かる訳ないでしょう?」
そういうもんかね。それじゃ、一番気になってた質問だ。
「…アレ、喰えんの?」「時期になるとあいつら狙いの冒険者がここら一体にズラッとキャンプ張る位には旨いですぜ。あっしも時々ご相伴に預かったりしますが…少なくともあれ喰ったら暫く他の肉は食いたくなくなる程度の旨さは保障しときます。とは言え、今の旦那じゃあちとあの数相手はキツイんじゃあ無いですかねェ?」「だよなぁ…」
流石に下準備しないとあの数──手で作った四角形の中の牛の数を考えると少なくとも百八十頭は固い──は処理しきれない。『戦いは数だよ兄貴!』と言われるように、数的優位が向こうにある時点で負け戦でしかない。となると端から少しずつ削る形になるが…
「ちなみに、連中は群れの一頭が負傷したらそっちの方角に一斉に方向を変えてくるんで下手に手出ししない方が身の為ですぜ」「マジか」
じゃ正面から戦るしかないじゃん。え、何で嫌そうな顔してんの。この子たちの顔見てよ。口から涎がナイアガラだよ?
「無言で訴えてもダメでさぁ。流石にあっしもとばっちりは御免なもんで」「「「チッ」」」
思わず三人で舌打ちしてしまったが、御者の言う事ももっともである。俺達は死んでもデスペナルティを貰うだけだが、彼らは死んだらそれまでなのだ。
「じゃあ戦るのは止めにするとして、これからどうする。迂回とか出来そうにないが」「仕方ないんで暫くはここらで一息入れますかねぇ。ま、15分も待てば連中もどっかに行くでしょうな」
成程そうか。なら少し待とう。どうせ急ぐ旅でもないし…
だから、これは必然だったのだろう。
俺の耳に怒号と悲鳴が聞こえたのは、そんな時だった。
「勘弁してくれよオイマジで…」
振り返ると、目の前には相変わらず土石流の如き猛牛共の絨毯が広がっている。そしてその先には、
一目散に走り去る1両の馬車と馬の隊列。
「なんッ…で!このタイミングで!都合よく!逃げ遅れが!いるんだよクソがあああァァァ!!!!!」
ご都合主義も大概にしろやぁ、と心の中で運営にクレームを叩きつけながらも足は既に御者の席に向かっていた。
「なッ、何する気で⁈」「決まってんだろ、助太刀に入んだよ!」「んな無茶な!バラバラにされちまいますよ!」「無茶だろうが麦茶だろうが、助けを求める声が聞こえちまったからには俺は手を伸ばす!俺ァそう決めてんだよォ!」
とは言え、多勢に無勢。手綱を御者から奪い取って…
それから、どうする?
(救助は…飛ばせばギリ呑みこまれる前に馬車の中身は引っこ抜けるが…随伴の騎兵はどうにもならん。かといってあの数を相手にするには少々策を弄する必要がある…クソ、地雷でもあれば多少マシだったんだろうが)
馬車を走らせながら幾つもの思考が流れていく。だがこうしている間にも、一団と群れの距離はじりじりと詰められつつある。あまり時間は掛けられない。
「だぁっ、クソ、こうなったら一か八かやるしかねェ!」
己に喝を入れるとともに、俺は馬に飛び乗り、そのまま馬車との接続器具を粉砕した。
「なぁっ、気でも違えましたかぁ⁈死ぬ気ですかいアンタ⁈」「生憎俺達は死んでも死ぬだけだからなァ!それより安全なとこに隠れてろ!下手すっとこっちまで広がるぞ!」
そこからは全力で馬を走らせる。…自然に流してたけどこの馬かなりいい馬だな。いきなり飛び乗られても平然としてるし…偉く肝の太い馬だ。いい馬に当たったものである。
あ、騎乗スキルは持ってないよ?全部リアルスキル。車使えないシチュエーションもあったからな…
⦅スキル《騎乗》を習得しました。サブスキルスロットに配置しました⦆
…とか言ってたら出たな。使わないだろうしスロットの肥やしかな。