例題 傭兵が前線を退く経緯を述べよ
懲りずに新作投稿。今回は初回限定版ということで3話投稿します。読み終わったら下のポイント評価の欄から評価して頂けると非常に有り難いです。
「スンマセン、俺辞めます」「おう、分かった」
「…軽っ⁈」
…時は2033年末。場所は中東のどこか。
その少し前まで、世界経済は人口の爆発的な増加に伴い混乱していた。それに乗じ、武装組織が世界各地で蜂起、一部の地域では内戦状態まで発展する事態となった。
そこで活躍したのがPMSCsである。彼らは当事者政府と契約し、武装集団の鎮圧や捕縛などで多大な貢献をしたのであった。
そして、今先程の会話をしている2人が所属する「ONE&NEXT」も、それらの一つである。
「随分軽いっすねおやっさん…」「まあな。いつかこういう事もあるだろう、いつもそう思ってりゃ心の準備位出来る」今、20代半ばと思しき青年から「おやっさん」と呼ばれた壮年の男こそ、このPMSCsを一介の傭兵部隊から所属人数150名を超える規模まで大きくした男、『ケイ・ユーリー』である。
そして、彼に対し今しがた辞めることを宣言した青年こそ、『レイン・ミズサワ』。この小説の主人公だ。
「とは言え、一応理由は聞いとかねばなるまい。…何で足洗おうとしてんだ?」「…言われちゃったんですよ。『お前は戦場にいるべきではない、お前は幸せを知らない』って」「…『あいつ』か」二人の脳裏には、同じ人物の姿が横切っていた。
…それは戦場の伝説。陰に日向に戦場を駆け巡り、世界の崩壊の芽を摘むバランサー。「奴さんに言われて、俺気づいちゃったんです。『ああ、俺は戦場でしか何も残せてない』って。ほら、俺たち毎日ひーこら言いながらドンパチやってるわけじゃないすか。それって、『名前の知らないどっかの誰かの幸せを守る』ためなわけで。でも、俺たちはその幸せってものに直接触れてるわけじゃない…要は知りたくなっちまったんですよ。『普通の幸せ』ってやつを」
「…そうか。なら止める権利は俺にはねぇ…いつか社員が巣立つのは当然の事。そんで笑って見送るのは社長の務めだ」優しげな顔で彼は呟き、デスクの下に置いてあったアタッシュケースを音を立てて置き、その中から一枚の紙を取り出した。
「これは?」「お前が陰に日向に稼いだ金…その全てだ。なんかあった時の為に株やらなんやらで増やして取っておいた。退職金代わりにほれ、持ってけ」そう言って彼はレインに紙…小切手を手渡そうとするも、それに待ったをかけた人物がいる。
「ちょっ…!待ってくれおやっさん。いくら何でもそれは、」「お前を特別視し過ぎてる、か?生憎お前みたいなヒヨッコに心配される様なことはせんよ。ちゃあんと全員分ストックしてある。勿論、お前らの給料や会社の金とかの必要経費を差っ引いた上でな」レインの懸念を一笑に付し、ケイは慈愛に満ちた顔でこう言った。「受け取れ。お前が本当にここから巣立っていくなら、こいつがお前の育ての親としての最後の手向けだ」
半年後、東京。
「来た来たキタぁー!!!」やっと来た!倍率500倍の壁を俺は乗り越えたぞっ…!ん?あ、どうも初めまして。俺の名前はレイン。見ての通り普通の民間人だ…今はな。昔は銃持ってドンパチやったりやられたりしてた。けど、ちょっと前に思う所があって仕事を辞めて、今は退職金でこうやってのんびり暮らしてるってわけだ。いやー、東京はいいな。みんな周り見てるほど余裕ないから、そつなくこなしてれば特に周囲から不審がられることも無いし。
ん?なんで俺がさっき変な声出してたか、って?よく聞いてくれた。今から約一年前、LAのゲームショーでとあるゲームが発表された。そいつの名は、《another world chronicle》。世界で初めて、フルダイブ型VR機器に対応したVRMMORPG。小説の世界が現実になった瞬間だった。
当然、世界中で大騒ぎになった。俺もそうさ。だってそうだろ?ゲーマーだったらみんなワクワクすんじゃねえか?VRだぞ?少なくとも俺はワクワクした。
ま、今はそんな些末なことはどうでも良いのだ。今やるべき事はただひとつ。
「初期設定…完了!寝床よーし、電源よーし、ソフトよーし、部屋の鍵よーし!さて、そんじゃあ行くとするか!」
「認証確認。フルダイブシステム起動。個人認証登録…完了。信号処理開始まで、3,2,1...ダイブ、スタートします」
さあ、夢の世界へレッツゴーだ!