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おふざけはここまでだッ


 「なんか……重大発表も作戦会議もやる気失せますね」


 食事を終えてお茶が欲しいね、なんて笑っているアウレールと、酒が欲しいとため息をつくベルンハルトを見ながら、自分の役目について今一度冷静に考え、

考えたら考えただけで帰りたくて仕方がなくなってきた。


 おぬしら二人で魔術で無双できるじゃん。我神だけど別にいらなくね?いらなくね?


 創造神とかって役割を書いたけれど、実際は魔力値1000しかなくて、

クシャミさせたりメロンパン出したりで990使ってしまうし。

メロンパンが出てテーブルセットが出なかった理由はアレだ。魔力が足りなかったんだ。どう考えてもくそ雑魚女神です。来世は貝になりたい。自分の不幸で飯なんか食えねえ。

よく分からない鳥の肉は美味しかったけれども。


魔力が足りないなら「おうちに帰るー!」なんて魔法を使おうにも発動せずただ癇癪を起こしただけに見えるだろう。


「まあまあ、僕は女神様の重大発表聞きたいな」

にっこり優男顔のイケメンは私に向き直ってさあさあと促してくる。

「はは……アウレールさんは優しいなぁ……」

けどアウレールの魔力は私の、えーとえーと何倍だっけ、220倍だ、ちくしょう、少し分けて欲しい切実に。

優しさにほんのちょっと気分が上向きになり、こほんと咳払いをひとつ。


「えっへへ、じゃあ発表します! 

じゃじゃーん、さっきのメロンパン、私がいた世界から持ってきたと言いましたけども、実はおふたりがいない間に魔法で出しました~!」


魔力量的に今日はもう打ち止めだけれど。閉店ガラガラー。


「魔法……」

「お前……そうか……申し訳なかった」

「えっ」


アウレールさんはぱちぱちと瞬きをしているし、ベルンハルトさんが謝った……だと……?


「殺すなどと脅して悪かった。詐称などせずとも、殺しはしない」


ベルンハルトさんが私をかわいそうな子を見るような目で見ている。


「…………ほんとですってば」

き、傷ついた!これはさすがに傷ついた!

俺様街道まっしぐら悪役王子が気まずそうに謝ってる!!!!


「いや……思い返せば突如慣れ親しんだ世界から切り離して召喚したのだ、精神が不安定になったとしても」

「セイセイセイ、かわいそうな子扱い辞めてください」

「お前、年はいくつだ、創造主の住まう天上に親はいるのか?」

 ベルンハルトはおもむろに立ち上がると長い足でガツガツと歩み寄り、私の頭の上に手をぽんと乗せ、視点を合わせるように床に膝をついた。

わあ、王子様とか騎士様みたーい!──って!!!!


っはぁあああああああ!!!!????


なで、なで、と頭の上を移動する手の重みにふつふつと怒りが湧いてくる。


「魔法など……とうの昔に失われたものだ。

よくよく見ればお前の魔力は浅くカゲロウのように揺蕩うばかりでほとんど見えな──」

「ッ親はいますしこちとらとっくにお子様期おわってますけどぉおおおおお!!!!????」


頭の上の手をむんずとつかみ、ぺいっと投げる。


「僕も気づいてあげられなくてごめんね、不安だったよね」

「ヒェッ」 

今度はアウレールが肩の辺りを抱いてヨシヨシと撫で始めた。


「だからッ! 違うっつってんだろォオオオオ!!!!」


顔の良い男たちが揃って私をかわいそうな子を見るような目で見ている。

やめてくれ……その顔はわたしに効く……


「えーごほん! 皆様ご着席ください。今はメロンパンでだいぶ魔力を使ってしまったのですぐに証明は出来ませんが、戻ったらいくらでも証明しますので!」


おふざけはここまでだッ!


手のひらを向けて二人に着席を促せば、渋々といった様子でベルンハルトは椅子の元へと戻ったが、腰を下ろさずに背もたれを掴み、私の近くへと距離を詰めてきた。

「俺とアレンの魔力値とやらは分かったが、お前はどうなのだ」

「えっ」

「創造主なのだから、世界を作るためさぞ魔力を使うのだろう?」

「あー……」


 舐められている。なんだか舐められているのにバカ正直にそのまま答えれば更なる子供扱いとヨシヨシ攻撃が来るに違いない。

悪役王子の強い目ヂカラに推され自分のステータス画面を呼び出したが、表示された低スペックに思わずため息が出る。


「私の記憶が正しければ、あなたがたのこの世界では魔術は万能ではなく、学問としての面が強くて、魔法などは確かにおとぎ話の中のものです」


 魔力は現在14/1000と表示されている。4回復したようだ。時間経過なのか、ヤムヤム鳥というものを食べたからなのかは分からないが、MPポーション的なものを飲まなければ回復しないというようなものでは無いと分かりほっと安堵の息が出た。


「私は魔術の学び舎としてこの国には三つの塔を作りました。

王都にほど近いベーテン(祈り)の塔、少し離れ海のそばのゲザング(歌い)の塔、そしてここ、フォルモント(満月)の塔。

と言っても、フォルモントの塔はもうないんですけどね。

だいたい八百年くらい前にですね、まあ、いろいろありまして、

フォルモント山脈超えたところにあるお隣の国の枯谷にいた竜がブチ切れて破壊しちゃったんですよねーあはは」


あはは。そう、そう。出版はされてないけれど、別作品で戦争モノを書いて、ドラゴンでドッカンドッカンやったんです。

うわーこれ文字だけじゃなくこの世界で生きてた人達死んだとなると良心の呵責でなんだかしんどい。


「……まあ、その竜の怒りで北の大地フォルモントがこんな……魔獣が出たりするんですよね……たぶん」


 お前のせいか、という二人の視線が痛い。

この世界では八百年も前のことだから許してほしい。


「魔法というのは実はまだ残ってるんですよ、竜、精霊、あとは……えーと、国ごとに信仰している神様とか。神様は神のみわざとか、聖なるなんとかとか言われてますけども」


 つまりは人間以外が使う謎の力はだいたい魔法。

「なので!この世界を作った私が魔法を使っても何ら不思議ではないのでーす!」


 これが魔法じゃなきゃメロンパンを司る精霊が存在することになる。

 そんなものを生み出した記憶はない。いやこれを機に生み出しても良いのかもしれない。あったらいいなをあって良かったに。祭壇には金のメロンパン入れを飾ろう。

司るものがピンポイントすぎるけれども。


「なので、魔力が沢山あればほぼなんでも出来ちゃう私ですが、どうやら問題がひとつありまして。いや二つ三つあります」

静かに、深刻そうに切り出せば、アウレールさんは心配そうな顔をするし、ベルンハルトに至っては眉を寄せ、つり気味の目をさらに険しくし、真剣に聞こうと私の目を覗き込んでいた。


「ヒェ……顔が良い……」


さすが王族、さすが貴族、顔面偏差値が天元突破ガランガラン特賞おめでとうございま~す!


「で、お前の魔力値は?」

「お前はやめてください。私は創造主カザミ。カザミと呼んでください」

「覚えておこう。で、魔力値は?」

「……」


やだこの王子煙に巻けない。


「女の秘密を探るのはいけないと思います。」

「女と言うほど成長していないだろう」

「はい出たーお約束のアジア人が若く見えるってやつ~」


 そんな設定は特にした覚えはないけれど。

そこまてま考えてはたと気づく。


 実年齢を話したらイキオクレ認定されるじゃないか。それはそれで私の心が死ぬ。

それだったら子供扱いでいい。


「なんだ、お前年はいくつだ」

「……じゅうさんさいです」


目が死ぬ。心が死ぬ。スン。

イキオクレ認定には敏感な年頃なんだ、成人したと言ったな、あれは嘘ということにしようそうしよう。


「まだほんの子供も良いところではないか」

「ハン、十三の時に産まれたばかりの公爵令嬢と婚約した人に言われたくないですね」

「そうあれと決めたのはお前だろう」

「そうでした」


 だめだ、物語上の演出でド派手にすれ違いをするために「王族ならこれくらいヨユーヨユー」と作った設定をリアルに聞くとだいぶ痛いぞイタタタタ……大人になってからの年齢差と子供の年齢差は違う。作者、覚えた。


 大胆な年齢サバ読みをしても特に疑問をもたれない。悲しいな、茶髪とかお化粧とかもう少し頑張るべきなのかもしれないな。

 けれどどう頑張っても書籍化にあたり人物のデザインをして下さった神の作りたもうた顔面の前ではこの凡人など塵芥も良いところ。


 だってそうだろ、ベルンハルトとアウレールの私の扱い。最初から子供扱いしてた。

最初の最初は、まあ、事ある毎に殺す殺すと刃物を突きつけられていましたが。


 そう、塵芥。くそ、黒歴史ノートに書き足してやる。創造神カザミは絶世の美女ってな!


 けれど、不貞腐れながら食べた質素な夕食がおわり、部屋の隅で丸まって眠る頃には容姿の美醜を書き足すことをすっかり忘れていた。



 それで良かったのだ。この見た目を変えると、とんでもないことになるなんて、異世界転移の不安を紛らわそうと無理にハイテンションでいた頃の私はまだ知らなかったのだから。



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