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今日も俺は君を見つめている。  作者: 西野未姫
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IV First School Festival

土曜日。文化祭当日。

前日の1日を使って飾り付けられた校舎はいつも勉強している学校じゃないみたいでワクワクした。

うちのクラスは3年前の時より豪華な気がした。少なからず廊下は花火をセロハンを貼ってくり抜くとか提灯があるとかなかった。

前日は文化部の陽凪と彩奈がいない中男子で飾り付けをした。

俺達運動部も次の日の屋台に向けてテントを貼ったり鉄板を運ばなければならないのだが、部活動間でもそうすると人手が足りなくなることが分かっているし、中庭で行うため中庭に人が集まりすぎてしまうため部活ごとに時間がずれていた。だからクラスの方も何とか飾り付けをすることが出来た。

あれから瞬はあからさまに避けたり舌打ちをしたりという態度を見せなくなった。かと言って話す訳でもないし自分から話しかけることはない。


10時からお客さんを招きいれる。その前に8時半から体育館で開会式があり、終わったあと最後の準備となる。

この日は服装は自由となるため、うちのクラスは持っている人は浴衣、持っていない人は家庭部が作った法被を切ることになっていた。

わざわざ、という訳でもないが欲しかったし着てみたかったので甚平を買った。 割と周りでもついでに買った人が多く、田中もなんだかんだこのために甚平を買っていた。

意外だったのは瞬が浴衣を着ていたことかもしれない。 瞬は(認めたくはないが)端正な顔立ちですらっとした高身長。浴衣が似合う。

着替えを終えた女子が教室に戻ってきて騒がしくなる。可愛い〜という声が飛び交うがどうせお世辞だろう。

そんなことより陽凪の浴衣姿が気になる。そう思って教室の中を見渡すと部活のTシャツを着ていた。

あぁそっか。と思う。陽凪は文化部で、特に軽音楽部はずっと多目的ホールでライブをしてる。2年、3年にもなると自分達で演奏するけれど1年生や出ない時はライブスタッフとして音響だったりをしている…という話を前に文化祭の時にしていた。

(持ってきて…ないか。)

少し残念な気持ちだった。


「あっつ!」

袖をまくり、座り込んでうちわで仰ぐ。

シフト制で焼きそばを作ることになっている部活事の出店。中庭は風通しが悪く、しかも鉄板で焼きそばを作っているから余計に暑い。テントの中に熱が籠る。

出店は引退した3年の先輩もいるので、少ない部員でもなんとか回すことが出来ていた。

水分補給をしながら焼きそばを作って売る。部活並にハードかもしれない。

「久遠!シフト交代!上がっていいぞ!」

3年の先輩が声をかけてくれた。

「あざっす!お疲れ様でした!」

軽く一礼をする。後ろの方か部長の嫌な視線を感じる。

「あっじゃあ俺も帰ります〜」

田中もナチュラルに帰ろうとしたところに先輩がやってくる。

「お前はダメ。さっきサボっただろ!

あーお前聞いたぞ。学年で1番持久走遅かったみたいだな。罰ゲームとして買い出し。足りなくなりそうな食材書いといたから宜しくな。」

「なんで俺っすか?みんな早すぎるんすよ。」

田中が素っ頓狂な声を上げる。

「お前シュート率は確かに高いけどな。それだけじゃダメだからな。ほら、行った行った。」

「えー酷いっすよ」

泣き言を言う田中を尻目にテントを後にする。


とりあえずお腹がすいていたので他の出店で何か食べようとした。

流石に焼きそばは見飽きた。女子の部活はわたあめやチョコバナナ、りんご飴など女子力高い(?)お菓子系だったが、流石サッカー部は焼き鳥だった。

ちょうど男バレの前を通ると瞬が調理しているところだった。男バレはたこ焼きらしい。瞬が器用にたこ焼きを作っていた。浴衣姿でたこ焼きを作っているところも様になっていた。

(そーいや、アイツ器用だったな。料理も美味かったし。)

何回か瞬の手料理を遊びに行って食べたことがあるが美味しかったことを思い出す。

結局俺はたこ焼きを食べることにした。

「よっ。」

手を軽くあげて挨拶をすると瞬はこっちを見て少し目を見開いた。

「仕事は?」

そう聞くとまたたこ焼きの方に集中し始める。

「部活の方は今終わったとこでクラスの方は午後から。」

「そう。僕多分ここから抜けられない。この部活たこ焼き出しといたくせに誰一人としてたこ焼き作れないんだよ」

軽く苛立ちが混じったような…だけどどこか嬉しそうだった。 そこにバレー部の先輩が来る。

「おっお前男バスの奴だよな。なーんだ瞬、お前友達いたんだなー心配したぞー」

豪快そうなガタイのいい先輩が瞬の肩を叩く。 瞬は鬱陶しいそうな顔をした。

「友達じゃないですから。あの、あと先輩。作ってるとこなんで、邪魔しないでもらえます?」

「お前ほんとに堅物だなーだからモテないんだぞー」

余計なお世話です、という声は先輩のガハハという笑いにかき消される。

「いいぞ、お前上がれ。午後から入ってもらうけどな。友達と言ってこいよな」

貸せ、と言って強引に竹串を取り上げる。

だから友達じゃないって…と瞬は呟いた。


「お前のとこの先輩面白い人だな。」

なんだかんだやってきた瞬と並びながら歩く。瞬が片付けいる間に自分のところで2人分の焼きそばを買ってきたので瞬に渡した。

ちなみにたこ焼きをもらう時に「瞬はもういいからな!俺たちでやっておくと伝えといてくれ!」と言われた。

「まぁ、迷惑なだけだけどね。」

とぽつりと呟くと俺の手からたこ焼きを受け取った。


中庭を出て体育館の方へ向かうには校舎とグラウンドの間を歩いていくか校舎と塀の間を通っていく2ルートがある。

グラウンドではステージができていて出し物をやっているから賑わっていた。4時の文化祭終了後、暗くなる前までに粗方片付けてグラウンドではステージを残したまま体育祭の状態となり、後夜祭が行われるのもここだ。

逆に体育館では軽音楽や吹奏楽など外でできないようなステージ企画が行われていた。

人が嫌いな瞬のため…という訳では無いけどお互いに敢えて人のいない塀の方の道を歩いていた。グラウンドの喧騒はここまで聞こえている。

会話はなかった。だからただ俺はここまで聞こえる喧騒に耳を傾けていた。

どこかのアイドルグループの曲のダンスをコピーする女子達にそのアイドルグループのファンなのか女の子目当てなのかにコールする男子の声が聞こえる。

「………った。」

何かを呟いたような気がして俺は瞬の方を見る。瞬は立ち止まって、肩を震わせていた。

「瞬?」

「僕、怖かった。陽凪が倒れた日。()()陽凪を失うんじゃないかって。」

見上げた目には涙が浮かんでいた。

俺は言葉に詰まった。今まで瞬が泣いているところを見たことがなかったから…いや、そんな理由じゃなかったかもしれない。

「ごめん…っ」

瞬はそう言って駆け出していった。

瞬は俺より足は速くない、そんなことは分かりきっていたから走れば追いついただろう。だけど俺はそのままその場で立ち止まってしまった。


幾らか立ち止まっていたけど我に返った俺は、時間を確認する。12時前…。クラスの方のシフトが12時からであったことに気がついて急いで焼きそばとたこ焼きを食べた。

ダッシュで教室に着くと12時1分前。ギリギリだった。

「奏斗くん、ギリギリだよ!余裕持って来てって言ったじゃん!」

少し怒り気味にクラスの女子に言われる。どうしてクラスの女子はこう怒りやすいのか。

「ごめんごめん」

平謝りして立ち位置につく。係は射的係。自分でも射的は得意だからだ。


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