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今日も俺は君を見つめている。  作者: 西野未姫
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Ⅲ Signs

テストが全て返ってきた頃には文化祭3日前に差し掛かっていた。結果はまぁまぁだ。

土曜日の一件の後、日曜日はなしにすると彩奈から連絡があったので部活の出店のポスターや立て看板だったりを作って1日が終わった。それからの放課後は部活の方に顔を出すことが多くなりあまり手伝えていない状況だった。

悪い、とも思ってたけれど、気まずかった。現に瞬はバレー部の活動ばかり行っていたから俺以上に来てなかった。

実際丸山も部活の方ばかりだと田中から聞いたしまぁ女子がやってくれてるだろうと言っていたが女子だって文化部だから忙しいだろう。

一応班長になったというのに話しかけづらくてなかなか話せなかった。


その日。部活の方の作業が粗方終わり、あとは前日準備で設置するのみ、というところまで来たため、用無しとなった。

(仕方ない…クラスの方いくか…)

田中はこのまま少し部室でサボってからいく、と言って部員達と部室で遊んでいた。

サボる気にもなれなかった俺は教室に戻ることにした。田中はまだ作業してるけど俺は早く抜けてきた、と言えばいいだろう。


部室棟を出て教室棟に続く道を歩いていると、生徒倉庫から画用紙などがたくさん入ったダンボールを抱えた陽凪がでてきたのが遠くから見えた。重いのか、よたよたしていた。

見るからに華奢な陽凪は驚く程に力がない。掴んだら折れてしまいそうなほど細い腕。握力もあまりなかった。

(危ないな…持ってやるか…)

少し駆け足で陽凪を追いかける。陽凪が教室棟の階段に差し掛かった時に追いついた。踊り場に瞬がちょうどきて、下ってこようとしてるのが見えた。

(あの野郎、サボりか?)

追い越してから話しかけようとしてたが瞬がいるから仕方ないと後から話しかける。

「陽凪…ちゃん、荷物…」

そう言いかけた時陽凪の身体がグラッと傾いて…__


ぎゅっ。

咄嗟に足に力を入れて踏ん張る。包み込まれた身体は細くて少しでも力を入れれば壊れてしまう気がした。

「陽凪?」

肩を叩く反応がない。元々色白だったが、青白い顔をしていた。 目の下にはうっすらクマができている。

「陽凪っ」

瞬もこればかりは動揺したのか少し慌てた様子で駆け寄る。

「とりあえず保健室に運ぼう。」

「うん。」

瞬の手前…_いや、今の関係はクラスメイトなのでどうやって運ぶか迷った。が、今は緊急事態だと思ってとりあえずお姫様抱っこをした。

「僕、先保健室にいって先生に事情説明してくる。だからゆっくり行って。」

そっけなく言うとそのまま瞬は急ぎ足で立ち去る。お姫様抱っこをしたことに何か言われると思ったから正直驚いた。

室内から行くと遠回りになるので仕方なく上履きのままだが外から保健室に行くことにした。その方が人目も少ない。流石に事情があるとはいえど女の子をお姫様抱っこしている所を見られるのは恥ずかしい。

保健室の前のドアを叩くと保健室の先生が開けてくれた。相変わらず綺麗なお姉さん先生だ。

ベッドに横たわらせて布団をかけてやったところで瞬と血相を変えた彩奈がやってきた。

「陽凪、多分ここ最近寝てないんだと思います…クラスの作業家でやってて…。私も陽凪も部活の方が忙しくて、なかなか作業できてなくて…」

彩奈が呟く。 保健室の先生はハッとした顔をした。

「多いんだよね。この時期。そうじゃなくても学校に慣れてきたのもあって疲れが溜まってきてるし。」

彩奈は陽凪の荷物を持ってくるといって保健室を後にする。 俺と瞬はただ眠っている陽凪を見つめるだけだった。

「陽凪ちゃんが心配?」

先生は窓の外を見つめながら聞いた。

「はい…」

瞬は掠れた声で答えた。

「じゃあちゃんと支えてあげなきゃね。」

何かを諭すような言い方だった。いや、なにかに気がついていたのかもしれない。だけど先生は1度もこちらを見なかった。


彩奈が荷物を持ってくるまでに保健室の先生は陽凪の家庭に連絡を入れた。陽凪は一人っ子の箱入り娘。すぐに迎えにいくと返答があったらしい。

両親が来るまで待っているという彩奈を置いて俺たちは保健室を出た。本当はいたかったけどいる理由が見つからなかった。

俺の少し前を歩いていた瞬が立ち止まって俯きながらポツリと呟いた。

「陽凪…大丈夫かな…」

瞬の隣で立ち止まる。すこし肩が震えているようだった。

「まー先生も言ってたじゃん。寝不足と貧血だって。文化祭の準備で疲れてたんだろ。あいつ身体弱いし、疲れが溜まると…」

「…」

沈黙が流れる。瞬は俯いていて表情が読めなかった。沈黙を破ろうにもあとに続く言葉が出てこない。

「まぁ、大丈夫だよ。先生もそう言ってた。親御さんもくるだし。」

務めて明るく言ったつもりだったが、瞬は何も言わなかった。


教室に戻ると、丸山と田中が黒い画用紙にセロハンを貼っていた。画用紙には花火型に細かくカッターで切り抜かれていた。

「これ向山がやってくれたんだってよー。すげーよな」

何も知らない田中が感動しながらセロハンを貼っていた。

俺たちが知らない間に陽凪は1人で忙しいなか進めてくれていたのだ。

俺は何も言えなかった。多分瞬もだ。

「とりあえず、俺たちで最後まで終わらせちまおう。」

俺は力を込めて言った。



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