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今日も俺は君を見つめている。  作者: 西野未姫
3/5

Ⅲ battle

ドタバタとした4月もあっという間に駆け巡り、いつの間にか5月になっていた。



当たり前のようにバスケ部に入部した俺は、インハイで初戦敗退した先輩を送り、入部したて以上にキツい練習に励んでいた。

ひとつ上の先輩は2人しか部員がいないため、必然的に俺たちの代からスタメンが選ばれることになるわけだ。

俺たちの代は8人。 同じクラスの田中とは中体連でライバル校としてしょっちゅう顔を合わせていた。


日曜日の今日は隣のコートでは男バレが練習している。


(そういや…アイツ結局バレー部入ったんだな。)


瞬は結局軽音楽部に入らなかった。 陽凪はやはり軽音楽部に入部したようだ。

あれから瞬とは話していない。向こうも俺を避けているようだったし俺も話しかける気はなかった。

休憩になり、前に転がってきたボールをシュートしようと構えたところに副部長がやってきた。


「おい、奏斗。スコアボード用意してきてくれ。部室にあるやつな。」


「はい。」


小走りで部室に向かう。俺はどうもあの副部長が苦手だった。部長はミニバス時代からの知り合いだったから可愛がってもらっていたが、中学の先輩でもある副部長だけは昔から明らかに俺を嫌ってるような態度だった。


(わざわざ俺のところに来てスコアボード出すように言うんだからよっぽどだな。)


人のことはあまり嫌うことはしないが嫌いな態度を出される人は好きにはならない。自分のことを嫌いな人を好きになる理由はない_たとえば瞬とか。


(嫌いなら関わってこなきゃいいのにな…)


部室棟の奥にあるホールからは軽音楽部の演奏が聞こえた。よくここから演奏する陽凪を見ていた。 1年生だから演奏はまだしてない。けれど文化祭のが終わって3年生が引退すればまた陽凪の演奏が見れると思うと嬉しかった。


(結局、俺は本当にタイムスリップしてるんだよな。)


最初は陽凪に会えるって能天気に喜んでいたけど、実際まだ1回も話せていない。


(そもそもなんでタイムスリップしたんだろう)


陽凪の墓の前で、そして瞬がいた。そこでタイムスリップしてるだろうから間違いなく陽凪は関係しているのだろう。だけど陽凪の様子じゃ記憶がある感じではなかった。


(陽凪、嘘隠すの下手くそだから記憶があったらもう少しわかりやすいと思うんだよな。)


多分そしたらあからさまに俺や瞬を避けると思う。でもそれはなかった。

瞬とは班活動で同じになることがあっても普通に話し合いができていた…とは思うがそもそもお互いに異性が(瞬に関しては人間が)苦手な人見知りだからなんとも言えない。ただあのわかりやすい2人なら見てて面白い光景になってるとは思った。


(瞬は無愛想だからな。あいつ無愛想じゃなきゃちょっとはイケメンなのにな。)


少し苦笑しながらスコアボードを持って部室を出ると瞬がちょうど男バレの部室から出てきて少し焦った。




「私ね、男の子ってちょっと苦手だったの。」


陽凪が伏し目がちに言う。


「苦手っていうか、男の子の友達が今までいなかったかな。LINEすることもないし、割と元気のいい感じの女子の男子は話してるけど、そういう感じじゃなかったから…。でもね、奏斗のおかげで、瞬とも仲良くなれてよかった。…仲良いのかな?瞬いっつも間違えるとバカって言ってくるだよ。ひどいよね。」


「いや、仲いいだろ。この間もお前ら授業中うるさいって怒られてたじゃん。」


「あれは瞬がうるさいからだよー。」


月明かりが照らす公園のベンチで帰り道に座って話す。

部活が週3の決まった日にある陽凪とは部活がある日にどこかで待ち合わせて話すことが多かった。

陽凪とは学校で話すことはほとんどない。俺達の関係を隠していたからだ。瞬にさえも。


「暗いしそろそろ帰ろっか。奏斗、電車の時間あるでしょ?」


「いや、電車はいいよ。気にしなくて。もう少し一緒にいたい」


「うん。」


不安だ…その気持ちをかき消すべく陽凪を抱きしめようとした瞬間陽凪は闇に包まれて…




「陽凪っ!」


勢いよく起き上がるとそこは自分の部屋だった。


(なんだ夢か…)


感触も何もかもリアルだったと思いながら横になろうとした時ふとよぎる。


(あれは夢だったか…?)


3年前。確かあのあと俺は陽凪を抱きしめた時に…


何かを、言った。そして陽凪は確か…


(凄く重要なことなはずなのに、思い出せない…)


心の中はざわつき、なにか得体の知れないものが渦を巻いていた。




結局その後も寝付けなかった俺は授業中に眠りこけることになった。


「おい、久遠起きろ」


うたた寝る度に顧問でもある数学の竹内に机を小突かれたが眠過ぎてそれどころではない。


「おいお前後で怒られても知らねーぞー。テスト期間で今日から部活なくなるとは言えどお前部活始まってから相当走らされるなw」


いつも寝てる田中にまで笑われる始末。田中で寝てるくせに、と思うが今日ばかりは仕方がない。


結局ほとんどの授業を寝て過ごしたがさすがに6.7限のLHRは寝て過ごすわけにも行かないがお陰様で眠気はだいぶ醒めた。本来なら6時間目も授業の所を文化祭までの時間が無いからと6時間目は特別に授業がなくなったことをありがたく思った。

「来週の頭のテストが終わったら6月の頭にある文化祭に向けて準備になるからね。3週間もないけど土日と放課後を使って準備すること。1年生はクラス展示ね。飲食を用いない模擬店をすること。飲食は2.3年じゃないと使えないからね。何をするかと大体の係分担を今日の6.7時間目で決めておけるといいかな。じゃあ委員長」


指揮を委員長に任せると担任は仕事があるのか教室から出ていってしまった。


(確か…祭りの屋台みたいなのやったような気がするな)

射的とかヨーヨーとかスーパーボールすくいをやって、確か俺は外の廊下の飾り付けを田中と瞬、陽凪と陽凪の友達の彩奈の5人でやった。当時は瞬とは田中経由でたまに話す程度だったのがそれを機に仲良くなったのだ。陽凪ともそれを機にLINEを交換して距離を縮めていったのだった。


(今回も陽凪と同じになれれば、話せるようになれるかもしれない。)


とりあえず意見が出なければ屋台の話を出せばいいや…そう思って目をつぶった。


「おーい奏斗、なんかあるか?」


横にいる田中に肩を揺すられて気がつくと黒板には遊園地だのコンビニだの書いてあった。


「お前よく寝てたから今ならアイデア出るだろーほらなんか言えよー」


周りで話してみる、ことになったらしくみんな周りと話していた。が、ほぼほぼみんな雑談の時間と化していた。


「なんかテーマだけでもいいから決めちゃうんだってさ。…まー俺は楽なのがいいな。部活の時間が減るわ」


「それなー。」


適当に頷く。祭りの屋台が出ていないということは瞬も出してなかったのかと思う。


「あれじゃね、夏祭りとか。そしたら射的とかできるし割と簡単そうじゃね?」


過去の(誰が出したかもわからない)アイデアをありがたく頂戴しておく。選ばれるかは別にして。


「おーそれいいんじゃね。あーてかそれ、さっき瞬に聞いたら同じようなこと言ってたわ。お前ら気が合うんじゃね?」


と面白そうに言う。まぁ当たり前ちゃ当たり前だ。気が合うかどうかは違うけどな。

まぁ瞬は人前で発表することはないだろうし俺がいえばいいか。と思い、委員長にアイデアを伝える。


結局祭りの出店をやることになった。


準備は大体の班と役割を決めて終わったら他を手伝うという3年前と同じ形式だった。

役割には看板ポスター班、廊下班、内装班と出店×3班、買い出し班の7班で大体5~6人の班になるようになっていた。

「そのまま帰れるしサボれそう」だと買い出しがいいという田中に対して買い出しはただのパシリだから廊下にしようと説得し普通に納得したから廊下班に立候補すると俺と田中、陽凪と陽凪の友達の彩奈、そして瞬がつるんでいた丸山の6人の手が上がっていた。


丸山は3年前はいなかったし想定外だったが恐らく田中に誘われた訳でもないし仕方ないことだ。


(けど…3年前と変わっちゃったな)


変わったことがいいのか悪いのかは分からない。けれども陽凪と同じになれたことが嬉しかった。


「早速だけどさ、LINEでグループ作っといた方が良くない?」


早く終わったから、7限は班で集まって班長を決め、どんな装飾や出店にするかを話し合う時間になった。

班で机を囲んで円になって座るとちょうど陽凪が少し離れて隣になった。

俺以外のメンツは陽凪の友達の彩奈を除いては人見知りするタイプだったので話にならないと思って班長を自ら買って出た。 田中は「お前部活は?」と泣き言を言っていたけれど仕方ない。


「早速だけどさ、LINEでグループ作っといた方が良くない? 連絡事項とかあるだろうし。」


「あー確かに。そのほうが楽かもね。」

彩奈は相槌を打って携帯を取り出す。本当は一応授業中なので良くないけれど先生がいないしみんな携帯を出す。


「俺グループ作るから。知ってる奴…」


とりあえず田中と丸山はLINEを持っていたからグループに招待しておく。瞬は持ってないし既にブロックされてるだろう。


「ひ…2人のLINE持ってないからさ、どっちか教えてくれない?」


さすがに陽凪の名前を呼ぶのははばかられた。すると陽凪がこっちを向いて

「奏斗くん、私のでよければ…」

と言ってバーコードを差し出した。


(そうか…奏斗くん、だったな。)


少し顔が綻んだのを抑えながら、「ありがとう、追加するね」といいつつスマホのQRコードを読み取る。瞬からの視線を感じながら。


廊下の装飾は、納涼祭っぽく提灯を引っ掛けて、壁は屋台と花火を色画用紙で作ることになった。テストが終わった日から放課後に集まって作ることになった。それまでに買出し班が各班からいるものをまとめて買ってきてくれるらしい。


その日はそれで終わり、テスト期間で部活もなかったから田中と駅までそのまま帰ることにした。田中はチャリ通である。


「お前若干めんどそーなのにすんなよー」

「そういうけど教室の中の方がめんどそうだろ。まーいいじゃん。これを機にお前もクラスの奴らと親睦を深めとけって。買出しとか言うけど実際は足りないところ手伝わされるだけだぞ」

これも本当のことだ。実際廊下は案外すぐに終わったが買出し班はパシリ班となっていた。

「えーでもよー」

ぶつぶつ文句を言う田中を尻目に空を見上げる。やっと、やっと陽凪と接点が作れる。


テスト期間も部活がないとダラダラしがちで勉強に身が入らなかったがそれよりもテストが終われば文化祭の準備、というのにウキウキしていた。 実際、1年の勉強は一回やってるから苦手な暗記科目の社会だけ軽くやれば、数学も地学基礎も国語も英語もどうにかなる…気がしていた。


テスト最終日。思ったより出来ていないテストが終わり、放課後から早速文化祭の準備になった。文化祭前は各部活の判断で活動になっていて、インハイで県大会に進む部活や文化祭は活動しているが、地区予選で負けた俺たちは練習は自主練で、部活では綿あめの屋台をやることになっている人数が少なくてもて出来るものだ。

教室の机を後ろに下げて班ごとにまとまってワイワイ作業を開始していた。今日はテストが午前中で終わったので午後いっぱい丸々文化祭準備である。

買出し班はテスト期間に買出しに行っていたが、近所のスーパーからダンボールを持ってくるためにまた駆り出されていた。その様子を見て田中は「やらなくて良かった」と呟く。

折り紙で提灯を作って紙紐で吊る下げ、壁は色画用紙で作るということで、とりあえず優先的に壁を作ることになった。

丸山と彩奈は絵が書くのが得意なので画用紙にあらかじめ絵を描いて、それを俺たちが切って貼り合わせたりしていく。

メンツのせいか必要最低限の会話しかなく、ほかの班より静かだった。

陽凪と彩奈はちょくちょく話すけれど集中しているからかあまり話さない。田中は瞬と丸山と話してはいるものの、瞬がいるから会話に入りにくく、丸山とはそんなに話した記憶はない。

彩奈はあまり人見知りするタイプではなかったけれど今まで喋ったことはほぼほぼなかった。陽凪を介して瞬と仲良くなったらしく、瞬とよく話すところは見たことはあったし男女隔てなく話せる子だった。

(まぁいっか。)

話すのが嫌いな訳では無いしむしろ好きだけど話相手がいないのでは仕方が無い。 白い画用紙を縦長に切っていき、等間隔で赤い画用紙に糊で貼って紅白幕を作っていく。

4時を回る頃には丸山や陽凪が部活の方に顔を出さなければならなくなったので、その日はおしまいになり、明日以降コツコツやっていくことにした。

文化祭準備期間でも授業は授業、ということで準備に使うものはダンボール等に詰めて指定の置き場所に置いておかなければならない。手分けして画用紙やテープなどをしまって運び込む。

ダンボールを持っていこうとしたら持とうとしたところで瞬の手がぶつかった。

「チッ」

思い切り舌打ちをして睨みつけてくると無理やりダンボールを奪ってさっさと教室から出ていく。

(相変わらず態度の悪いやつだな)

あからさまに嫌いな態度を取ってくるから瞬は本当に嫌だった。

(俺が何をしたっていうんだ…)

そのあと自主練がしたいという田中と一緒に1時間ほどシュート練習をして帰った。


文化祭一週間前にもなるとどのクラスも飾り付けが出来上がってきている。廊下班もあとは窓の上の方のよぞらを作ることと提灯まで進んだ。

一週間前にあたる土曜日の午後。この日はみんなで集まって夜空を作ることになっていた。

「なんかこう、紺色の色画用紙に絵の具とかで塗ったりするんじゃなんか違くない?」

そんな意見を出したのは部活の方に行きたいと言っていた田中だった。案外乗り気じゃないか。

(3年前は…普通にポスカで塗ったはずだけどな…)

「じゃあ折り紙で切り貼りする?」

丸山が折り紙を折りながら答える。丸山は提灯を作っていた。

「んーなんかそんなんじゃないんだよなー。瞬分かるか?」

「そんなんわかんないよ」

陽凪と彩奈も顔を見合わせている。折り紙じゃないなら…

「ただ貼るだけじゃなくてさ、形に切り抜いて後から折り紙貼ればいいんじゃないか?」

言った瞬間少し手が凝ってるし自分でも名案だと思った。

「確かにいいんじゃないかな?」

陽凪も彩奈と顔を見合わせて頷く。

「じゃあそれで…」

「いや、時間かかるし、そこまでの時間はないんじゃない?」

遮ったのは瞬だった。

「あと提灯も作らなきゃいけない。あと一週間だよ?みんな部活の方もある。どっちかと言えば中の人たちだって終わってない。早く終わらせて中を手伝った方がいい」

瞬の威圧的な言い方は俺の意見にただ反対したいだけにも取れた。

「それは買出し班がやることだ。そもそも廊下の飾り付けがよければ、中だって人が沢山くる。俺達が頑張んなきゃ。」

立ち上がって睨み合う。つくづく気に食わない奴だ。

「まぁまぁ、とりあえず喧嘩はやめて…」

彩奈も止めようとしている声は耳に入るが頭にはいかない。

「だいたいなんでそんなでしゃばってんの。友達いないくせに。」

「別に楽しみたいからいいだろ。友達いなくない。」

「嘘つけよ。そういうでしゃばり目障りなんだよ。」

気がついたら拳を握っていた。一触即発か…そう思った時…


「けんかはやめて!」


ぎょっとした。怒鳴るような声は陽凪の声だった。その声に賑やかだったクラスも静まり返る。


「提灯は私が家で作ってくるから。切り抜くくらいだったらみんなでやれば大丈夫だよ。ダメだったら私、家でやってくるし…だから…」

涙目になりながら歯を食いしばってそれでも声だけはしっかりしていた。


「ごめん…」


声が掠れる。瞬はただ呆然と陽凪を見つめているだけだった。


とりあえず座ると彩奈が場を取り持った。

「みんなは切り抜く案でいいかな? 私も家に持ち帰ってやれるだけのことはやるから。陽凪一人で出来る量じゃないし。折り紙だけど…アルミだったりセロハンの折り紙でやったら綺麗なんじゃないかなって。丸山くんが何枚か持ってるみたいだから、やってみて、よかったら買出しに行こう。とりあえず今日は切り抜く作業でいいかな?」


「あぁ…。」


そのまま会話もなく、無言で作業が進む。空気が重かった。

5時の完全下校になり、そのまま片付けとなる。


(あいつ…そんなに文化祭ガチ勢、って感じだったかな。)

部活に力を入れていた陽凪がクラスの文化祭にあそこまで本気だったのかは分からない。そもそも大人しい陽凪が怒鳴るような声を出すことは珍しかった。確かに諍いごとはあまり得意ではなかったけれど…。

(俺達も私情が入って、変に暑くなってたからな。)

文化祭のものを置く生徒倉庫にダンボールを置いて教室に戻ろうと階段を登りかけた時前からカバンを持った瞬が来る。すれ違いざまに横目で見る。


「おい、瞬」


立ち止まって、後ろを振り向いて話しかける。が、瞬は足早にさっていった。


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