Ⅰ Prolog
登場人物
向山陽凪 [むこうやまひな]
久遠奏斗 [くおんかなと]
蓮見瞬 [はすみしゅん]
桜の舞う3月某日。卒業式。 写真を撮ったり離れ離れになる友人や恋人と談笑をする生徒をよそに俺は足早に校門を出た。 友達がいない訳でもないが、別に馴れ合う気もなかった。部活のメンツにこのあと遊ばないかとも誘われたが行く気はなかった。 俺には行く場所があった。
駅前にある花屋で白いマーガレットの花束を買った俺はバスに乗りこんだ。電車通学の俺は懐かしい景色に目をやる。もうこの道を通らないだろうと思っていたから不思議な感じがした。大通りに面したファストフード店やレストラン、公園…。思い出が蘇る。
山の上にある霊園からは市内を一望出来た。そんな景色のいい場所に俺の大切だった人は眠っている。可愛くて負けず嫌いで笑顔の素敵な……。
「久しぶり。俺、卒業したよ。」
跪いて花束を置いて手を合わせた。瞳を瞑ると今にも彼女が側にいる。そんな気がした。 彼女は笑っているだろうか。いや、きっと嫌な顔をしているに違いない。俺のことなんか大嫌いだろう。
「ごめんな…幸せにできなくて…」
今でも彼女が別れ際に放った台詞が耳にこびりついている。彼女と一緒にいて傷つけすぎたと思った。だから彼女が別れた後、仲の良かったアイツと付き合い始めたと知ってもショックも驚きもなかったのだろう。でも俺があのまま付き合っていれば?別れると言って聞かない彼女を止めていれば…?
「なぁ、お前本当に事故だったのか?」
答えはない。あるはずはない。だけどあの日。こいつはトラックに自分から飛び出したんじゃないかって思っていた。最期に見た彼女の目から溢れる涙の意味を俺は確信していた。
自責の念に駆られてる俺を現実に引き戻したのは近づく足音だった。退こうと思って立ち上がろうとして見上げた顔はまさしくあのアイツだった。
手が思わず拳の形になり力が入る。
「てめぇ」
何のツラ下げてここにきてんだ。
殴りかかってやろうとしたその時眩しい光に包まれ、目を細めた。