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踏み込んで
走る。
街中には何も居ない。
魔族が居ないのは当然として、その死体すらなく。ただただ激しい戦闘の痕だけがある。
そこで、気付く。
もし、もし万が一、居たであろう人々が、“たった一人の魔族の、魔術に因るものならば?”
それはつまり、その魔族が、一人でも勇者達を相手取れる、隔絶した実力者であることの証左にならないか。
巨大な雷が落ちる。
勇者の魔術だろう。
アレはおそらく、ケラウノス。
ゼウスから生まれた魔術の中で、最強の威力を誇る必殺魔術だ。
だが、その上でも戦闘音は消えない。
つまり、魔族は死んでいない!
「……クソッ…!」
毒づきながら、またも走り続けて。
まず最初に目に入ったのは、魔族であろう巨大な背中。
拳を握り、振りかぶり。
大きく、踏み込んでーーー