動乱
街に近付くにつれ、朝にはなかった明らかな異変が見て取れた。
門番すらいない正門、断続的な戦闘音。血生臭さに火事の赤。
ああ。こちらの動きは、全て筒抜けだったのだと実感させられる。
斥候の持っていた文には、何も書かれていなかった。
つまり相手からすれば、私が斥候を捕まえるのすら織り込み済み。
むしろ、斥候は俯瞰位置にいる私を遠ざけるための罠であった。
正門は堅く閉ざされている。
……覚悟を決めよう。
息を吐く。
これからするのは裏技だ。
豊富な魔力と、後衛職では異様な身体能力が備わるからこそ出来る技。
裏技であるからこそ、その使用には大きな反動を伴う。
だが。
するしかなかった。
「パクス・ブリタニカ」
魔力の渦が全身を覆う。
パクス・ロマーナ、という魔術がある。
神話の大帝国を象徴する、尤も有名な魔術。神話魔術にあるまじき莫大な消費魔力を要し、その効果は簡単に言えば攻防の強化。
ただし。それは、対象が貧弱な後衛職であればの話。
この魔術の代名詞でもある拳王が使ったそれは、山を貫き雲を消しとばす程であったと言う。
私のそれは、その再現。
攻防の強化ではなく。攻撃のみの強化で、尚且つリミッターすら外す完全攻撃特化の魔術。
故にこそ、拳王に遠く及ばない私でもそれに比肩しうるーー!
拳を振り上げ、大きく振るえば。
正門は、轟音と共に吹き飛んだ。