勇者物は大抵城から始まる
6/16 改稿です。
大筋は変えませんが、こんな感じでキャラ設定とか割と変えます。
「痛っ…」
痛みで目が醒める。
瞼を開けば、そこには見知らぬ豪華な天井。
「……ここ、は…?」
ぼんやりした頭で、辺りを見回す。
魔王城のそれにも匹敵するだろう、とても高価な調度品。
売ったらいくらになるだろうなんて、益体もないことを考えていたら、扉が開いた。
身構えていたが、攻撃らしい動きはない。
黒髪黒目、メイド服を着た女が入ってきた。
「目が覚めたのですね。陛下がお待ちです。立てますか?」
思案し、頷く。
痛みも疲労感も依然ある。
立てる、なんてのは真っ赤な嘘だが、治癒魔法にも覚えはあった。
「……治れ」
強引な詠唱。
完治とはいかないが、立てるまでには回復した。完治できない魔力量に悲しくなる。
メイドの視線を感じる。当然、主人の元へ連れて行くのだから、その力を推し量るのも仕事のうちだろう。
それは気にするほどのことではない。が、聞き捨てならない言葉はあった。
「…陛下?」
そう、陛下と言ったか。
「……ええ。私もよくは知りませんが、おそらくなんらかの説明があるものかと。デーブ様の屋敷で唯一の生存者でしたので。」
デーブ。
それは確か、私が殺したあの男の名前だったはずだ。
…唯一の生存者、というのも頷ける。
化け物のような、おぞましい叫びを思い出す。
他は全員、あいつに殺されたのだろう。
だが。
首を振る。
「……わからないわ。なんでわざわざ陛下が?」
たかが辺境。それも貴族ですらない豪農一人。一国の元首がわざわざ呼び立てるほどのことにも思えない。
「さあ…申し訳ありません、一介のメイドには答えかねます。」
「…ごめん。分かったわ。今行く。」
まあ、当然だ。
そういうことなら、待つ方が得策だろう。
少なくとも、下働きのこのメイドよりはマシな説明が望める筈だ。
大広間に出ると、メイドが前へ歩き。
「陛下はこちらでお待ちです。」
ニッコリ笑うメイドの側には、大きな扉が。
扉が勝手に開き、出てきたのは赤いマントに豪奢な衣装を纏った男。豊かな顎髭と理知的な眼、所作に気品や威厳が感じられ、この人が王だろうとは一目で分かった。
慌てて跪き。
「…余がアリシア王国国王、アレクサンドラ一世である。……おい。どうであった?」
メイドにそう尋ねると、小さく囁き。
そして、王がこちらを向き。
「顔を上げよ。貴様、名は?」
「…は。ドルフ・ホワイトと申します。」
顔を上げ、慎みを持って答える。
魔王時代の世話役から、礼儀作法も一通り習っていた。
それに対してか、王は満足そうに頷き。
「うむ。ではホワイトよ。事情を説明しよう。…実は、屋敷に押し入った奸賊…名をカミュという。カミュは魔族の幹部で、魔王の側近でもあった。」
魔族……それも側近クラス。16歳の身体では、余波で死にかけるのも当然だった。むしろ、生きているだけ儲けものだ。
「…それに貴様は襲われたのだ。今のところ生き残りは見つからん。…貴様以外はな。それで貴様……」
「カミュは、今まで地方各地を荒らす不届き者で、その実力も筋金入り。…何故生きている?」
「……すみません。私にもわかりかねます。」
王は嘆息し。
「…そうか。詮索はせぬ。ところで、一つ御主に依頼がある。」
「は、依頼……?」
「うむ。勇者一行のフォロー役だ。……してくれるな?」
その言葉と同時に、シェリーが私の仕事着を取り出した。
……ポケットには、屋敷の間取りを入れてあったはず。バレていたのだ。
それで、この仕事は受けるしかないと悟り。
「承知しました。」
勇者一行…確か、魔王討伐のためのパーティか。何故犯罪者確定の私を使うかは知らないが、これは裏稼業から足を洗う絶好のチャンスかもしれない。
国王に促され、私はその場を後にした。