最初っからクライマックス
連日投稿。
6/15 暫く改稿に従事します
そして、私は今、屋根裏に潜んでいる。
金を稼ぐために、殺し屋兼泥棒という情けない仕事をしている。
元魔王とは思えなくて、自嘲の笑みがこぼれる。
あの時。
男の拳が、私に迫った時。私は確かに死んだのだ。
……死んだはずだ。
だが、気付いたら私は、赤ん坊になっていた。
混乱しながらもなんとか順応していたら、いつの間にか親が死んだ。
魔王として私が生きた時代から、2000年も経っていた。
訳がわからない。
わからないが、生きるのには金が要る。
身体上まだ16歳の私は、ロクな職にもつけなくて、こうやってギリギリどころかどっぷりアウトなことでもしないと生きていけないのだ。
魔力には恵まれているので、侵入も殺害も魔法頼り。
細心の注意を払いながら、寝ている男に触れる。
今から使うのは、歴代魔王が編み出した、七つの最強魔法が一。最強の暗殺魔法。
魔王時代のメインウェポン。
「栄華の丘……」
詠唱と共に魔力が抜け、目の前の男へと流れていく。
人が持てる魔力の総量には、個人差がある。
器というやつで、それを超えた魔力は貯蔵できない。
そしてこの魔法は、その器そのものを攻撃する。
器を超えて流し込まれる魔力は、人体を侵食する。
有り体に言えば、人を魔力に変えてしまうのだ。証拠も残らず、抵抗も許さず、起きることすら出来ない…暗殺、という分野に於いて、これ以上の魔術は無いだろう。
男の身体は光り輝き、粒子になって消えていく。
「うっ……ふぅ、思ったより疲れた。」
弱点と言えば、これだ。
相手の許容限界を越えるために、自然と消費魔力は相手に依存する。
当然私の魔力量にも限りがあるわけで、許容限界が大きい相手だと、消耗も激しい。
前世はこんなことも無かったのだが……むしろ、前世の魔力量がおかしかったのだ。
”恵まれてる“程度じゃあ、魔王は名乗れない。
現状の情けなさに溜め息をつきながら壁に手を当てる。
何はともあれ、今は財宝だ。
「探知」
微弱な振動の反響により、物の構造、生物の有無をおおまかに判別出来る魔術。
指向性を持たせれば範囲は狭まるが、その分詳しく判別も可能と汎用性にも富み重宝している。
結果、生物の数は1。
構造からして人間だろう。
「…1?」
流石に少な過ぎる。
事前の調査では、7人家族だったはず。
その1人は今も動いている。
……ついでに言えば、その側に倒れ臥して動かない、”人体らしき“構造の何か。
ゴクリ、と生唾を飲み込む。
動きからして、まだ気付かれてはいないだろう。ここは逃げるに限ると、屋根裏に戻れば。
「なっ……!?」
迂闊だった。
判別するため、範囲を狭めたのが仇になる。
屋根裏は、半分以上が消し飛んでいて。
威力もそうだが、これだけの破壊を”全く気付かなかった“ことがなにより恐ろしい。
ヒュッ
息を吸う音。
静けさに満ちたこの状況で、それはとても明朗に聞こえる。
誰の呼吸かなんて考えるまでもない。
この場には、私の他には1人しかいないのだ。
身体が強張る。
全神経を張り詰めさせる。
と同時。
「ァー」
「ウゥ…アァあ“あ”あ“あ”ッーーーー!!」
形容し難い声と共に、凄まじい衝撃が襲い、私は気付いたら吹き飛んでいた。
「えっ…?」
間抜けな声が口から漏れる。
屋敷の壁に衝突し、前からの瓦礫に挟まれる。
「カハッ……!」
柱が腹に刺さり、吐血する。
腕が千切れて、力が入らない。
とんでもない痛みの中で、私の意識はプツンと途切れた。