プロローグ
前作がどうしても出来ず息抜きに。
前作考えるついでに書く感じなので不定期更新です。
馬鹿げている。
それ以外の言葉が浮かばない。
「……はっ…はぁ……けほっ……」
目の前の男は、規格外にも程があった。
どんな魔物も一撃で屠られた。魔王とさえ呼ばれた私の魔法も、拳一つで消し飛ばされた。
搦め手は、正面からねじ伏せられた。
最早取れる手はそう多くない。
王国に攻め込むための切り札を、たった一人にここで切る。
地面に手を置く。
魔力を送り込む。
幾何学的な魔法陣が、光り。輝き、胎動し。
「集いて吼えよ、我が僕――偉大なる大淫婦!」
現れたのは、巨大な獣。
七つの頭に十の角。
赫い身体を持つ異形。
私の出せる最大魔法。
生命を……それも、神霊級のそれを生み出す、禁忌中の禁忌。
「これ……で……いっけえええええ!」
同調するように、獣が咆哮する。
その腕が、男の身体を捉え、私は勝利を確信する。
だが。その確信は、一瞬にして絶望へと塗り変わった。
「んなもんで……」
回し蹴り。
それだけで、大樹の如き腕が――爆散する。
「な…ぁ…!?」
腕に続き、肩が、腹が、頬が。拳打する度、風船のように弾け飛び。
「……止まるかよ!」
返り血に塗れた男が獣の頭を叩きつける。
弾ける獣の頭と共に、荒野の地面が割れ、吹き飛び、巨大なクレーターを形成する。
悪夢だった。
最高傑作は、傷一つ付けられないまま消滅した。
もう、手はなかった。
男の拳が、私に迫り―――