兄ちゃんと対照的に荒冬夜が天使
俺の好きな人、荒冬夜 視亞は、男……だと思っていた。
しかし、あんなことやそんなことで気づいてしまった!
荒冬夜は女だと!
俺は余計荒冬夜が好きになってしまった。
「なぁ。今気づいたんだけどさー。
僕と凍樹って、家が近いんだなぁ」
今俺は、荒冬夜と帰っている。
確かにここまで、学校からかなり距離がある。
なのに、ずっとおんなじ道なのだ。
不思議だ。
う、運命!?
俺は途端に顔を赤くしてしまう。
(夜なので)暗闇だから俺が顔が赤いなんてことは気づいてないだろう。
「なぁ。家が隣……とかだったら面白いな」
そんなことを荒冬夜はポツリという。
無性に恥ずかしくなって来た。
「だけど、俺の隣の人、山田さんと武藤さんだぜ? 」
すると突然、荒冬夜は足を止めた。
ん? どうした?
なんか忘れ物でもしたか?
「なぁ。僕の隣の人……さ……。
佐藤さんと武藤さんなんだけど」
なんとなく察せた。
そうか。やはり運命だったのか。
「じゃ、じゃぁ。俺ん家ここだから」
自分の家の前で足を止める。
そこから数歩歩いたところで、
荒冬夜も足を止める。
「僕ん家も……ここだから……」
クソ!人生で初めて武藤さんに嫉妬した!
荒冬夜が家に入ろうとする。
荒冬夜の家は、平凡的な家だ。
近所だから、家の造りもそこそこ似ている。
「なぁ! ご近所仲間としてさ!
ライン……交換しね? 」
やっと口から、ずっと言いたかった『ライン交換しよう』という言葉が出た。
「おぉ。いいよ。ん。これ僕の」
荒冬夜はポケットからスマホを取り出し、ラインアプリを開く。
俺もスマホを取り出す。
そして、ラインアプリを開く。
「んじゃ、ふるふるで」
そう言い、ラインをふるふるする。
『みっちー』
そういう名前が、追加される。
胸がキュンとする。
これは、恋だ。
俺は人生で初めて恋をして、
その恋をした相手が、すんごい驚くが、女なんだ。
俺は今まで女は毛嫌いしていた。
けれど荒冬夜は女だった。
ずっと女に恋していたのか。
そう思うと、なんだかドキドキしてきた。女に恋をした。
俺にとってはすごいことだ。
俺は家の中に入る。
玄関の近くにある階段を上がり、二階へ行く。
部屋へ続くドアを開けると、
フワァっと寒くなるような冷気とともに、肉じゃがのいい匂いがする。
今日の夕飯は肉じゃがか。
お腹がギュルルル……となる。
今日はいろいろあったので疲れた。
夕飯が出来上がるまで、自分の部屋でゴロゴロする。
することがないから勉強でもしようと、教科書とノートを広げ、
ポーチ的なやつからシャーペンを取り出す。
カチカチッと鳴らし、口にシャーペンを咥えながら教科書のページをパラパラめくる。
突然兄ちゃんが部屋に入ってくる。
何の用だ?
そう思いながら、兄ちゃんは気にせず勉強をする。
突然、スマホから、ブーブーッ!
という音が聞こえる。
ラインが来たらしい。
もしかして荒冬夜から!?
急いで確認する。
同級生の男子からだ。
写真付きで何かが書いてある。
なになに?
俺は視力が悪いんで、コンタクトをつけている。
しかし家に着き、目がしょぼしょぼしてきたので、とってしまったばっかだ。
メガネをかけ、内容を確認する。
「凍樹! 無理も承知!
一緒に合コン的なのやんね?
ほら、合コンの相手は、お嬢様学校の
『聖霊女学院』だぜ!?
美女勢揃い! 参加しよ!
てかお前が参加しないと聖女の人もこ……」
途中で見るのをやめる。
合コンなんて行く気おきねぇ。
だいたい俺はもう好きな人がいんのに、なんで合コンに行かなきゃなんねぇの?
少しイライラしながら返信する。
「無理も承知なら、初めから頼むな」
そう送ると、再びメガネをかけ直し、
勉強に取り組む。
30分ほどたち、母親が部屋のドアをノックしてくる。
「豹魔、夕飯できたよ。
今してることが先でもいいから、
冷めないうちに食べちゃいな」
そう言って、階段を下りる音がする。
俺の部屋は三階にある。
うちん家は四階建てだ。
俺には兄ちゃんもいるし、母親も優しい。父親は仕事でなかなか帰ってこないが、記念日には必ず家に一日中いてくれる。
休日なんかは兄ちゃんとたくさん遊んでる。不自由はない。
俺の母親を困らせるわけにもいかねぇし、早めに食べに行くか。
そう思い、ガチャリとドアを開けると、隣りの部屋から兄ちゃんも出て来た。
「おぉ。帰ってたのか。
ほら。早くご飯食べに行こうぜ」
正直言ってうちの兄ちゃんはモテる。
俺の数倍はモテてる。
バレンタインのチョコなんて、
数える気も起きない。
でも、よく俺が朝起きると、隣で寝てたりする。朝からいきなり耳元で、
「おはよう。今日もイイ顔してるね」
なんて言ってくる。
そう。俺の兄ちゃんはhomoなのだ。
ホモになったのは兄ちゃんのせいだと思う。
兄ちゃんにキスをされたこともあるし、ハグなんて日常茶飯事。
この前はキスを口にしてきて、
さらに舌を入れられそうになった。
まぁ、キモかったんで殴ったが。
でもその代わり、優しい。
殴っても蹴っても叩いても、
決して怒らない。
「ごめん」って一言言うだけ。
なんか可哀想になるから、
普段は喧嘩はしないようにしてるけど、キモくなったら、半泣き(嘘の)
をして、「ヤメて……」って言う。
そうすると大抵のことはやめてくれる。
こんなキモ兄を持った俺だが、
こうしてきちんと女が好きになれた。
兄に勝った!
「うわぁ。美味しぃ〜! 」
肉じゃがを頬張る。
俺の顔を見て、母はニッコリと笑う。
そういやぁ母は、あと少しで誕生日だ。今年で32歳っつったか?
(ちなみに兄ちゃんは18歳です)
14で赤ん坊産むってすげぇな。
しみじみ思う。
俺の母は、ぶっちゃけ美人だ。
俺らと道を歩いてると、
「あら、お姉ちゃんと仲良いのねぇ」
とかって言われるぐらいだ。
ぱっと見は20歳ぐらいだ。
ちなみに父は今年で35だが、
ぱっと見25ぐらい。
二人とも美男美女で、
キモいぐらい若々しい。
すっかり食べ終わったので、
自分の部屋に戻る。
ずっとスマホとにらめっこをしているが、なかなか来ない。
男から送るもんなのか?
こういうのって。
でも、いや、あいつのことだから、
「何で先に送るんだよ!
僕から先が良かったのに! 」
とか言いそうだし……。
待ってみるか。
気づいたら寝ていた。
兄ちゃんのイケボで、ふと起きた。
隣には兄ちゃんがいる。
殴りたくなる気持ちを抑え、
兄ちゃんを無視して着替える。
着替えてる途中に、兄ちゃんが後ろからハグをしてくる。
そしてキスをしてきた。
キモさの限界だ。
キモい。吐きそ……。
途端に兄ちゃんに肘パンをする。
兄ちゃんは、よろっとして、
ベットの方に倒れる。
そんな兄ちゃんを無視して、俺は二階に下りる。
あ、ちなみに兄ちゃんは、
小学生の頃に、空手全国制覇。
中学では柔道全国制覇。
高校の今は、この前の剣道全国大会で優勝したとか言ってた。
まぁ、何というか、ハンパなく強い。
俺も、兄ちゃんがその気になれば、
ボコボコどころか、殺されるかもしれない。
けど兄ちゃんはそんなことしないって信じてるから。
俺がいつ、何をしても、地味に受け身が取れてるし。
結局連絡は来なかった。
ちょっと……いや、かなり悲しい。
全て支度を済ませ、家を出ると、
荒冬夜が待っていた。
少し頬が赤くなる。
赤くなってるって意識すると、
もっと赤くなる。
「どうした? 熱でもあんのか? 」
荒冬夜が手を、俺の頬に当てる。
ものすごく恥ずかしい。
女って意識すると、もっと恥ずかしい。
話題を変えよう。
「そ、そういやぁ荒冬夜、昨日何でラインしてこなかったんだよ〜」
無理やりすぎるほどに違う話題に話を移す。
すると、荒冬夜はそうそうといった顔で、俺にこう言ってきた。
「は? ライン送ったぞ?
けど全然既読しねぇんだもん」
え?
急いでラインを確認する。
スマホを開き、ラインを確認する。
昨日追加したはずの、
『みっちー』
という名前が消えている。
え?
必死に何があったかを思い出す。
は!
今思い出した。
そういえば、昨日のあのスマホ……、
兄ちゃんのじゃぁねぇか!
「全然既読してくれないから、
何回か凍樹の家に行こうと思ったんだけど、なかなか行けなくて……。
悪かったな」
何で荒冬夜が謝んの?
なんか少し悲しくなる。
罪悪感を感じる。
自分を嫌悪してしまう。
でも、荒冬夜はそんなの何もなかったみたいに、違う話に変えてくれる。
「てか昨日のモニタ◯ングみた? 」
こんな感じで、相変わらず不器用な変え方だけど。
だけど、そんなところが、よりいいと思える。
俺はどうやら、荒冬夜に完璧に、恋をしてしまったようだ。
まぁ、そんなことは今気づいたことではないがな。
第2話、タップしてくださり、ありがとうございます!
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『俺キミ(俺はキミがどうしようもなく好きだ。)』を宜しくお願いします!