ロマンスはまだない。~Mika's side~〜
どうして、こうなってしまったんだろう。
嫌いあって、顔を合わす度に喧嘩して、見つけるとついちょっかいを出したり出されたりしてるのに、二人きりになると分かった瞬間、胸が高鳴ったんだろう。アイツなんかと二人きりになったって、ロクなことなんて起こりそうにないのに。
そんなこと、きっと偶然で、レイなんかとは全然関係なんて無いはずなのに。認めたくなんかないはずなのに。
間の抜けたチャイムの音が鳴る。黒板を見ると、話はいろいろと進んでいたのに、あの時からの記憶が、全然無い。
このままぼうっとしてても、きっと、レイのことばかり考えてしまうから、久々に小説を読むことにした。引き出しにしまったままの、しおりが中ほどに挟んである小説。昔から、本を読むのは好きだった。違う世界に飛んでいけるから。
だから、レイのことも、忘れさせてくれると思って。
しおりでつかえたページを読み進めていく。友達とかとしゃべってるのか、レイがちょっかいを出してくることは無かった。落ち着いて読めることにほっとするのと同時に、何かもやもやする。
ああ、もう、またレイのことばかり考えて。
頭にしがみつくレイを、振り払うように本を読み進める。
ちょうど、主人公の女の子が、好きな子に告白をするところだった。
『好きです。……付き合って、……くださいっ』
勇気が尽きたのか、彼女はその場から逃げ出そうとする。しかし、後ろから抱きしめられる。戸惑ったように振り向く彼女に向かって、好きな人はこう言う。
『ごめん。こんなことして。……でも、すっごい、嬉しかった』
戸惑いの表情が、喜びに変わっていく。さらに続けられた言葉。
『いいよ。……お付き合い、しよっか』
そして彼女を抱きなおした恋人に、そっとキスをされる。
いいな、と思う。わたしも、そんな幸せに恋したい。
そのシーンを私に置き換えてやってみようとして、――「好き」なんて言った顔は、レイのものだった。慌てて思考を打ち切る。
ありえないからっ!私がレイなんかに告白するなんて。あまつさえ、――
レイなんかの事、好きになるなんて。
二人きりになっても、ロマンスの欠片もない。きっと、二人なのをいいことにいじるだけいじってくるだけだ。そんな日のために貴重な休みを潰されるのも勘弁してほしい。
校外学習委員の最初の集合は明後日で。下見は二週間後。早くも、気持ちがげんなりした。