バカレイ。~Mika's side〜
「行ってきます……」
昨日のモヤモヤを引きずったまま、私は家を出る。結局、朝までろくに眠れなかった。もう、全部あいつのせいだ。……あいつの、せいなのに。そのはずなのに。なぜか自分の中で、納得できない。いや、……もしかして、納得することを「私」が拒んでる?
わけのわからないモヤっとした気持ちを引きずって交差点に出ると、そこにいたのは「全ての元凶」の……あのバカだった。
「な、なんであんたがここにっ!」
「……うるせーな、朝っぱらから耳元ででかい声出すな。」
「し、質問に答えろバカレイ!」
するとレイは驚いたようにはにかみ、そして、
「……初めて、だな」
「はっ!?な、何が……」
「……俺のこと、名前で呼んだの。」
一瞬、なんのことだかわからずキョトンとしたけど、次第に気づいて、恥ずかしいやら悔しいやら怒りやらが一緒くたにこみ上げてきて、耳の先まで真っ赤になる。
「こ……この……」
「ん?」
「こんの……バカヤロー!」
気づいたら、無防備なあいつの背中を思いっきりバッグで殴ってた。レイは声にならない叫びをあげてその場に突っ伏す。ハッと我に返って、私は青ざめる。
違う。
私がしたかったのは、こんなことじゃない。
恐る恐る手を差し出すと、その手を逆に掴まれて引き寄せられる。
え、ちょ、そんな……心の準備が……と、デコピンされた。おでこを抱えて悶える私を見下すレイは笑ってた。
「残念だったな、背中の痛みはもうとっくに治ってたのさ。」
……うう、やっぱりレイの奴は……バカなままだ……。