His First〜Ray's side~
ミカが出て行った、開けっ放しのドアを見つめる。
嵐みたいに去っていったときのあいつの顔中、真っ赤だったのが見えた。それに、素直に「ありがとう」なんて言われて、ちょっとドキっとする。
「全く、あいつは……」
降ってきた段ボールを見て、勝手に体が動いた。
ミカの奴をかばって、背中にぶつかった衝撃。近づいた顔が近づいて、――唇が重なった。
ちっちゃいくせに、生意気で、それなのに、一瞬、「かわいい」と思ってしまった。あんな奴に、そんな事思ってしまうなんて。俺は、どうにかなってしまったのかもしれない。
時計を見ると、もうすぐ六時。ちょうど入ってきた保健の先生に、「大丈夫そう?」と言われる。貼られた湿布のおかげか、もう痛みは引いていた。そう言うと、よかったね、と笑顔で返される。優しいな、と思って、でも、ミカのときよりも全然どきどきしないことに気づいてしまった。
帰り道にも、隙あらばあいつのことが頭に浮かぶ。唇、柔らかかったな、とか考えて、――慌てて振り払う。嫌いなはずなのに、どうしてこうなるんだろう。そう考えて、あの時頭に荷物がぶつかって、その後頭を打ったからだ、と思うことにした。