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ローマン公国では平民は8歳になると必ず学校に入る。読み書きや算術といった生活にかせない学問は14歳迄に終え、ほとんどのものが卒業していく。

けれど、魔力保持者はその後3年間追加で魔法学園に所属する義務がある。


教育はすべて無償で行われている。

教育はローマン公国の中核をなす大切な事業だ。周辺国ではローマン公国ほど国を上げて教育に力を入れている国はない。


ローマン公国は他国に比べ魔力保持者が少ない。そのため、魔力保持者の把握と能力の向上、魔力保持者そのものの囲いこみが極めて重要であった。

魔法学園の入学前の時点で各能力の有無、適正を見極め、入学後は手厚く育て、就職先までを完全に斡旋する。

本来はそのための政策であったが、国民全体の識字率や計算能力の向上は魔力保持者の少なさを補って余りある程には国力の向上という成果を上げた。


王都の魔法学園は国内の魔法学園の最高峰、そのため魔法学園内のヒエラルキーは魔力の強さ、能力の有用性に大きく左右される。

それはたとえ貴族であっても魔法的観点から見て、能力が低いとされる者は軽視される風潮があり、学内の上下関係は貴族階級とはまた異なるある種の実力主義的なものであった。

しかし、一方で高い魔力を持つものは貴族が多く、また、周辺都市の魔法学園に比べ、王都魔法学園の生徒はほとんどが貴族といっていいために、ある程度の貴族社会的なしきたりや暗黙の了解が存在するのもまた事実であった。



そんな学園内で、転入以来渦中に居続けていたかの少女は、手首に包帯を巻いた状態で登校した。


そんな少女を周りからを守るよう王子の側近のイエフ=ジーエイドとアイジェーイ=ケイエダルが先頭を歩き、その周りをくるくると楽しげにエムロダ=オピキュターナとエヌリド=オピキュターナが弾むように歩いていた。

後ろからは彼女のブルネットの髪を結ぶ少し形の歪んだリボンを楽しげに直すアルルナ=エスティーユの姿。


そして、中心にいる少女の隣にいるジディオルデ王子は少女に合わせるようにゆっくりとした歩調で歩いていた。


その様子を偶然、校舎から見たエイリンビィ=ファベットはとある人物と目があった。

遠目でも解る冷たい青い瞳。

彼らから少し離れた場所を歩いていたブルーイ=ダンブリュッケは刺すような瞳でエイリンビィ=ファベットを睨んだ。



嫌がらせを受けていると噂されていた少女が誰もが見えるところに包帯を巻いている。

その事実に噂は過熱し続けた。


『誰が彼女を害したのか』


ひそひそと囁かれる噂話。

けれど、例え事実無根な噂であろうと、囁かれ続けることでそれこそがまるで真実であるかのように変質していく。


彼女を亡き者にしようとするのは犯王子達の親衛隊か貴族のとりまきか。


それとも、彼らを裏で操るエイリンビィ=ファベットか。


多くの者達は静観の姿勢を崩さなかった。

まだ、王子が少女のそばにいるその理由がわからなかったからである。


利はどちらにあるのか。


多くの貴族達は静観の態度を取りながらも、流れを読もうと、また流れを自らの望むようなものに変えようと水面下での画策や情報収集に余念がなかった。



「エイリンビィ=ファベット」

太く、低い声に階段の踊り場で振り返ると今朝目があった人物、ブルーイ=ダンブリュッケがそこにはいた。

ファベット家と同じ公爵家であったダンブリュッケ家は3代前に没落し、今は男爵の地位にある。とはいえ、名門であることは変わりなく、また没落の原因の理由も特殊であったため王家の信頼は未だに篤い。


「浅慮をおこすのはやめた方がいい」


鈍色の髪、さえざえとした淡い青色の瞳が物言いたげにエイリンビィ=ファベットをひたと見つめた。


浅慮とは何を指しているのだろうか。


噂されているような行動をエイリンビィ=ファベットがしていると考えての発言か、それとも、エイリンビィ=ファベットが何かをすると思っての発言なのだろうか。


「私がすることなど何もありませんわ」


エイリンビィ=ファベットのその発言にブルーイは僅かに表情を変えた。

しかし、さして親しくない、そのうえあまり表情を変えることのないと評判の男の、僅かな変化の意味をエイリンビィ=ファベットは正確にとらえることなど出来はしなかった。


できなかったけれど、その瞳はもう何度もエイリンビィ=ファベットに向けられているものと同じものだった。



エイリンビィ=ファベットはなにもしていない。


何も。


だというのに、まるでオペラの演目のように1つの台本のもと、決められた終わりまでただ、だだ進んでいく現実。


まるで、皆が誰かの掌の上で踊らされているように。

見えない誰かの意図を受けているかのように、エイリンビィ=ファベットは悪役という役どころにはめこまれいく。

もとよりエイリンビィ=ファベットにはその椅子しか用意されていなかったかのように。




全てがあの物語の通りに進んでいく。


そして、この日、事態はさらに物語りに沿って進んでいった。









お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク1800人、評価4000ポイント等々ありがとうございます☆


本日も御礼小話が活動報告にありますのでよろしければどうぞ。

本編とは直接関係のない話なので読まなくても大丈夫です。


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