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御礼小話 蜂蜜


いつもお読みくださりありがとうございます~


8月3日の活動報告

にのせていた御礼小話。



後半をプラスしております。




紅茶を飲みながら本を読んでいたエイリンビィ=ファベットの目の前にことりと金色の瓶が置かれた。

瓶の中には金色の琥珀のなかにとじこめられたような花が一輪入っている。


その先にはオリーブ色の肌に漆黒の髪。オリーブの葉のような濃緑の瞳の青年。


アウィル=ラテオン


ラテオン国の第4王子だ。公表はされていないがラテオン王の隠し子であり、悋気の強い正妃の手のとどかない場所で教育を施すためローマン公国に来ている。


「天使のように美しい方、貴方の側で一時の安らぎを私にいただけませんか?」

そう言ってアウィルはエイリンビィ=ファベットの正面の席へ断りもなく座った。


「まあ、私が断るとは思っていらっしゃらないのかしら?」

エイリンビィ=ファベットは冷めた瞳で目の前のアウィルを見た。

「私の国では美しい人に声をかけない方が罪なんですよ」

アウィルはバチンとウインクを飛ばした。


「そういう言葉遊びは好かなくてよ」


エイリンビィ=ファベットはため息とともに置かれた小瓶を手に取った。


アウィルの後見人にはファベット家がなっている。正しくはかの国の王子に嫁いだエイリンビィ=ファベットの姉だ。


蜂蜜瓶の封には姉の印のついた封紙。

それを剥がしエイリンビィ=ファベットはぱかりと瓶をあけた。


この国で見るよりも色の濃い蜂蜜。そのなかにとじこめられた花。


ティースプーンでひとさじ掬い、紅茶に溶かして香りをかいだ。

甘い柑橘類の香りがかすかに馨る。


「おいっ!」


エイリンビィ=ファベットはアウィルの止める声も聞かずそれに口をつけた。

甘いオレンジの香りがする甘い紅茶が喉を潤す。

「まぁ、美味しい。さすが姉さまね」

昔からあの姉は美味しいものを見つけ出すのが上手い。

アウィルはあきれた顔でエイリンビィ=ファベットをみていた。

「毒が入ってたらどうするつもりだ」

「貴方のことだもの調べてあるのでしょう?」


その言葉にアウィルなんとも微妙な顔をした。

急に目の前に差し出されたエイリンビィ=ファベットからの信頼に触れてしまったから。


「それに、私を害して特をするものなど誰もいないわ」


それはエイリンビィ=ファベットの置かれた立場の微妙さを表していた。


エイリンビィ=ファベットはいつだって代替品でしかないのだ。


換えなどいくらでもいる。


その白銀の睫毛に煙る、灰に近い紫の瞳の底に沈む暗闇を垣間見るたびに、アウィルは落ち着かない気持ちになる。


「全てを投げ出したいというのなら、俺はお前を連れ出せるぞ」


お前を囲うくらいの甲斐性はある。

真顔でそう言う男を驚いた瞳でみつめ、けれどエイリンビィ=ファベットは静かにくびをふった。


まあ、そうだろう。とアウィルは解りきっていた返事に苦笑し、冗談だ

。と言おうとした時。


「そうね、私が全てを棄ててしまいたくなったら…呼ぶのは貴方の名前になるわね」


エイリンビィ=ファベットはそう言って席を立ちアウィルの前から去った。



「…性悪め」



アウィルは呟いた。

そんな時など来ないだろうに。

お前はそんなに弱くはないだろうに。


けれど、その日が来たらいいとアウィルは思う。

彼女から差し出された信頼が、どれほど稀有なものか知っているから。



一度でもこの腕に落ちてきたら、もう二度と離しはしないだろう。

蜂蜜の瓶にとじこめられた花のように甘く美しく、溺れるように囲ってやろう。


「覚悟しておけよ」



呟いた声を聞いたのは花瓶に生けられた花にとまった小さな蜜蜂だけだった。







「ハァッ!?何が覚悟しておけだ!!」


バン!と、机を叩いて立ち上がったジディオルデ王子をイエフ=ジーエイドは褪めた目で見た。

「盗聴はやめてくださいって言いましたよね」

「何を人聞きの悪いことを盗聴などしていない。昆虫型妖精を使って堂々とその場に居たのだから盗聴ではなく会話に参加して聞いているだけだ。」


ジディオルデ王子はどうだ。とばかりに手のひらの上で多重構造を描く高度な魔法陣をイエフ=ジーエイドに見せた。


妖精召喚、遠視、遠聴、擬態、転送…


イエフ=ジーエイドが判断できるのは陣のごく一部。

一部でも確実に解る。これが、盗聴、盗撮の機能があるということは。

どうやら、以前、イエフに盗聴をしていたことを責められたため、今日は妖精を使役して映像と音声を転送させているらしい。


確かに王子が使役している妖精が会話の行われているその場にいる。

いるけれど…それは参加しているとは言わないのではないか…


イエフ=ジーエイドはこの王子のそばにつかえるようになってからというもの…才能の無駄遣いという言葉をしみじみ噛み締めるようになった。


「あのエセ王子め…エビィに色目を使うなど10年早いわ!!」

「アウィル=ラテオンは同い年です。それと、エセ王子ではなく正真正銘王子です」


吼えるジディオルデ王子に対してイエフ=ジーエイドは非常に冷静だ。


「解っていないなイエフ、エビィの王子は俺だけでいいんだ」


フッと白金の髪をかきあげる姿は絵本の中に出てくるような麗しの王子そのものだ。


片手に盗聴、盗撮の陣が展開さえしていなければ。


イエフ=ジーエイドの主は一人の少女の前ではその能力を発揮する方向性が少し…残念である。




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