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エピローグ




エピローグです。



全ての謎が解けますが、ちかーむ色が全面に押し出されております。


そうです、コメディです。


本編のイメージを著しく損なう恐れがありますので、シリアスイメージをそのままにしたい!と思われる方は時間を置いてからお読みくださることをおすすめいたします。













ジディオルデ王子は王族専用のサロンで淡い金色の髪をぐしゃぐしゃとかきむしり、頭を抱えて唸った。


「…なんで、なんであいつは予定通り動かないんだ」


あいつ、とはジディオルデ王子の婚約者、ファベット嬢のことである。


「王子…いくらなんでもそれは無理があるかと」


イエフ=ジーエイドは苦悩する友であり、主人でもあるジディオルデ王子を宥める。


そもそも今回は計画からして無理がある…

そう思いながらも言葉にはせず、イエフ=ジーエイドはそっとため息をついた。

幼い頃から聡明なジディオルデ王子は、時折奇妙な行動に出る。


『天才の考えることは凡人には理解し難い』


そう、今回の王子の行動をイエフ=ジーエイドがブルーイ=ダンブリュッケ にぼやいた時『あれは天才ではなく、ただ初恋を拗らせただけだ』と返された。

イエフ=ジーエイドその言葉を聞いた瞬間、本当にその通りだと思った。


王子は初恋を拗らせまくっていると。


「…わかっている…だが…くそっ!なんで、なんでエビィは俺のシナリオ通りに動かないんだ!!」


叫んだジディオルデ王子の横で剣だこのある大きな手でクッキーをつまみ、ボリボリと貪り食べていたアイジェーイ=ケイエダルが翠の瞳をすがめながら

「いや、あれは無理だろ」

と、ばっさりと切って棄てた。

そして、髪と同じ赤みのつよい紅茶をぐいっと飲み干し、ついでとばかりに地雷を踏みぬいた。

「それにさ、ファベット嬢はジオのこと好きじゃないだろ」

「黙れ!脳筋!!お前にエビィと俺の何がわかる!!」

ジディオルデ王子はギンッとオレンジ色の散る金の瞳で再びクッキーを貪る脳筋…ではなくアイジェーイ=ケイエダルを睨み付けた。


その目が少し涙目なのは見なかったことにする。

素直すぎる言葉に深く抉られるものがあったのかもしれない。いや、確実に抉られたのだろう。

客観的にみるならば、エイリンビィ=ファベットとジディオルデ王子の間につながりとなるものは何もない。形式としての婚約関係以外は。


「俺はあんな夢小説をシナリオとして渡された時は、ジオの気が狂ったかと思ったな」


アルルナ=エスティーユが艶のあるヘーゼルの髪の毛先をくるりと指先で玩びながら言うと追従するように

「そもそもさ、なんで好きな相手を悪役にしてんのー?」

エムロダ=オピキュターナとエヌリド=オピキュターナが声を揃えて首をかしげた。

まったくもって本当にその通りだ。

「あれは酷い」

ブルーイ=ダンブリュッケの呟きにジディオルデ王子以外の全員が頷いた。


「くっそぉぉぉぉ!!」

ジディオルデ王子はギリギリと歯軋りをして叫んだ。


その姿を見ながら皆はやれやれと肩を竦めた


王子の描いたシナリオという夢小説に描かれていた己を読んで皆、心底の悶え、のたうったことは誰も口にしない。

ただ、なにくわぬ顔をとりつくろうので精一杯だった。


それはまさに才能、上に立つべくして産まれたものの目。


青臭いプライドも、幼い思い込みも、全て目の前のジディオルデ王子には見透かされ、皮張りの表紙の美しい紙の上に赤裸々に描かれていたのだから。そういえばあの台本は何処にいったのだろう?読んだあとブルーイ=ダンブリュッケが無言で本を片手に何処かに行ったのは覚えているのだが…



「まあ、そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないか?」

「素直がいちばんだよー?」

アイジェーイ=ケイエダルと双子の言葉にジディオルデ王子はゆるくくびをふった。


「逃げ道を用意してやりたいんだ」


それはいつもの斜に構えた声とは異なる、酷く真面目な声だった。

「あいつなら、このまま進めば誰よりも王妃にふさわしく、誰よりも公爵に相応しくなれるだろう。

けれど、それで喜ぶのは誰だ?国か?ファベット家の老人達か?解ってるのは喜ぶのは、俺の知ってるアイツ、エビィじゃないってことだ。

ならば、俺くらいは誰もエビィに差し出さなかった道を用意してやりたい。

あいつがあいつらしく生きられる道を。

俺があいつ自身に選ばせてやりたいんだ」


そういう王子が彼女に差し出した道は3つ。

王子の隣に立つ道、公爵家の駒として生きる道、第一線を退き、静かに過ごす道。


王子が彼女に望むのは最後の選択肢なのだろう。

己と似た境遇の彼女が唯一楽になれる選択肢。

誰も彼女に差し出さなかった道。

けれど、イエフ=ジーエイドの主人はジディオルデ王子だから。


だから…


願わずには居られない。


どうか、エイリンビィ=ファベット自身が自らの心で、王子の隣に立つことを選んで欲しいと。

不器用な優しさを差し出す主を選んで欲しいと。



「まったく、女心のわからないぼんくらばかりね」

当て馬でしかない配役のために自慢の金髪を染めさせられたエンビィことエルビナ=ジーエイドは呆れたようにため息をついた。

王子の計画のために偽装留学までさせられた一番の立役者、イエフ=ジーエイドの義理の妹。


「仕方がないだろう。なら、お前なら想像できるのか!?ヒロインのように花畑ではにかむエビィを!俺にほほを染めるエビィを!俺と仲良くカフェでケーキを半分こするエビィを!!おれは…おれには無理だった…」


がくりとくずおれる王子のその発言がなにより憐れすぎると全員が思った。

この王子は厚すぎる面の皮の下でそんなことを考えていたのか、と。


王子は片想い期間が長すぎて初恋をこじらせたのだから仕方がないとイエフ=ジーエイドはそっとため息をつく。


このため息は本日何度目だろうか。


「エイリンビィ=ファベットには…高笑いが似合う。男に媚びるよりも我が道を行くその背中が美しいとさえ思う。思うけれど、本当のあいつはウサギのぬいぐるみが欲しいのに欲しいというたった一言さえ言えず、べそをかくのを堪えるだけのただの弱虫だ」


キリリとした顔でいい放つ王子の顔は非常に知的だ。残念なほどに。


どんなに天才的な頭脳を持っていても、素晴らしい人心掌握術を持っていても、ジディオルデ王子はたった一人の少女だけには何故かそれを生かせない。

いや、何故などというのは愚かなことだ。


恋する相手の前で冷静ではいられないのは誰でもおなじなのだろうから。


イエフ=ジーエイドにとっては、王子の隣でならば花畑ではにかむ彼女も、ほほを染める彼女も、ひとつのケーキをつつく二人の姿も想像するのは難しくない。


なぜなら、いつも彼女はたった一人を前にしたときだけ少し口元が柔らかくなることを、ごく近くで二人を見ていたイエフ=ジーエイドは知っているのだから。



「せめてヒロインにしてやればもう少し解りやすいだろうに…」

「ひねくれすぎて恋愛までねじくれるとか…」

「アホだな」

「ねー」

こそこそと話す友の言葉に王子はもう何も言い返さず、無言で皿の上のクッキーを貪り食べた。


ジディオルデ王子がこんなまどろっこしい方法をとったその理由が、幼い頃に初恋の子をいじめ抜き、素直に恋を伝えても信じて貰えない関係になったからと唯一知っているイエフ=ジーエイドは口を閉ざし、主人のために新しい紅茶を注いだ。


「俺は…俺は必ず成し遂げてやる」


決意も新たにそう呟く主人をいじる悪友達の様子を遠目で見ながらイエフ=ジーエイドはそっとため息をついた。

「兄さま、そんなため息ばかりでは幸せがにげていきますわよ?」

呆れたように見上げてくるエルビナの見慣れぬブルネットの髪が僅かに痛んでいるように見え、トリートメントを注文するように指示を出そうと決めた。



ため息をつくと幸せが逃げていくというのならば、

逃げた幸せのその先がジディオルデ王子とエイリンビィ=ファベットに繋がっていればいい。

そう思いながら。



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