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『追従はいらない、お前はどうおもっているのか聞いてるんだ』


幼い舌足らずな子供の声。

どこまでも傲慢なその声はいつだって他の誰でもなく、まっすぐに私へと投げつけられていた。





ギイン!!



硬いものが弾かれる音がした。

そっと目をあけるとあたりに氷の壁が出来ていた。


その壁に刺さる光を纏うナイフ。


震えながらひんやりとした空気を胸に吸い込む。

氷魔法はファベット家の血にのみ流れる特殊な属性。



これこそが、この氷こそが



私の答え。



私の心だけが導きだした行動。




止まらぬ震えをそのままにジディオルデ王子を見た。

天使のように美しい顔には不釣り合いな傲慢な表情


幼い頃、エイリンビィ=ファベットをエビィと呼ぶ唯一の存在がいつも浮かべていた顔。


私はその表情を見て、情けなくも床にへなへなと座り込んだ。



間違っていなかった。





私は間違わなかった。

私は、私の心は正しき道を知っていた。

誰に言われたわけでもなく。

誰を演じるわけでもなく。



私は震えるほどに安堵した。

そして、同時に悔しさも込み上げてきた。


「ずるい、ずるいわディル。こんな騙すようなやり方、よくないと思うわ!」

腰がぬけた状態のまま、昔のようにディル…ジディオルデ王子に食って掛かると、傲慢な顔で笑っていた天使は急にくしゃりと顔を歪めた。

まるで今にも泣きそうな顔。

けれどそれは一瞬で消えた。


そのかわり、昔から変わらないいじめっこみたいな顔で


「お帰り、エビィ」


そういって膝をついて私をきつく抱き締めた。

昔から変わらないな柔らかなプラチナブロンドが頬をくすぐる。その懐かしさに胸がきゅっと苦しくなった。そして、私は小さな声で「ただいま」と答えた。



私はようやく『私』に戻れた。




学園に溢れていた噂話は、すぐさま新しい噂へと変わった。

曰く、ジディオルデ王子の側にいた少女は稀有な能力ゆえに命を狙われていたのだとか、

ジディオルデ王子と幼馴染みのエイリンビィ=ファベットは学園を卒業したらすぐに結婚式を挙げるらしい。とか、天使のように優しいジディオルデ王子は実は性格が悪いだとか。


「まあ、間違ってはいないな」


学園のサロンお茶を飲みながら噂話に耳を傾けていた王子はニヤリと笑った。

「その品のない悪ガキのような顔はおやめください」

給使をしていたイエフ=ジーエイドが嫌そうな顔で濃紺の瞳をすがめ、銀ふちの眼鏡のフレームをクイともちあげた。


「どんな顔をしようと、どんな姿をみせようと、人というものは自分の理想を相手に当てはめるだけだ。幻滅するも、偶像化するも勝手にするがいいさ」


肩を竦めるその姿は幼い頃のまま。

エイリンビィ=ファベットはくすくすと笑った。


「結局、私もさして変わっていたわけではなかったのですわ」


そう呟くとジディオルデ王子は不思議そうな顔をした。


「私も、エイリンビィ=ファベットも、あの物語のようにずっと初恋の王子を想い続けていたのですから」


ジディオルデ王子はゴホッっと飲みかけのお茶にむせた。


「え?!…も、…物語?!…初恋?!」


さっと、そつなくハンカチを差し出すイエフ=ジーエイドの口元が笑いを堪えているのに気づいたジディオルデ王子は、エイリンビィ=ファベットには見えないテーブルの下で友の足をぎりりと踏んだ。


余計なことは言うなとばかりに。


「ええ、本当に不思議な事があったんですわ。聞いてくださいますか?」



そして私はジディオルデ王子に話した。




あの不思議な本に書かれた、不思議な不思議な物語のこと、






悪役令嬢と予言の書についてを。













ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

本日は二回更新

エピローグは夕方に更新となります。

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