10.居なくても話題の中心
他者から見たアーサー=ホワイトという存在の説明会
視点がグルグル変わるのでご注意ください。
アーサーたちを見送ったウィンは、キラキラと目を輝かせる美幼女たちと、ギラギラと殺気を向けてくるメイドと精霊に向かってニッコリと微笑んだ。
「とりあえず、お話しするには飲み物とお菓子を準備しようか」
「それなら私が準備いたします」
ルーツが準備しようと手を挙げたのを、ウィンは、大丈夫大丈夫と手で制する。
「いやいや、僕からしたらそこのメイドちゃんと精霊様もお話しを聞いてもらうお客様だから、ね」
不思議そうな顔をするルーツたちに、ウィンは片目を閉じて、パチン!と指を鳴らす。
すると、なんということでしょう。
テーブルの上には、ふわりと白いテーブルクロスがかかった。
さらには、今からティータイムが始まりそうな色とりどりの可愛らしいお菓子たちと紅茶が現れていた。
「わぁ!!!すごい!!」
「まぁ!!かわいらしいですわ!」
目を輝かせて素直な賛辞をあげるシェリーたちにウィンはちょっとだけ得意げな気持ちになる。確かに、ここまで素直に喜んでくれると嬉しいものである。ウィンは、アーサーが溺愛する理由を垣間見た気がした。
しかし、妹たちとは全く違う反応を見せた者がいる。
一気に警戒態勢に入っているルーツである。もちろん、悟らせるように失敗はしてない。そんなことしたらクロエからハリセンが飛んでくる。
ルーツは、この目の前の男を非常に怪しんでいた。
何せ、彼の体から魔力というものがまったくもって感じられないのだ。恐らく、魔法無効と言われる体質の持ち主なのだろう。
これは、ルーツにとって天敵とも言える存在である。正直、殺すとなると多少は分が悪いが、勝てるだろう。
しかし、今のルーツには守るべきお嬢様たちがいるのだ。 守るものがある戦いというものにルーツはまだ慣れていない。しかし、絶対に死ぬわけにはいかないし、死にたくもないと感じている。
あの頃では考えられないことに、ルーツは心が騒ぐ。しかし、決して悪いものではないのだ。
ルーツは、考えを巡らす。クロエに叩き込まれた、最善の最適な行動はなんなのかを考える。
ウィンが行ったのは、彼の魔法ではない。あの白いテーブルクロスが召喚系魔法具の一種。ウィンの国の名産魔法具の1つであったはずである。
しかし、あの魔法具は使用者の魔力を流さないと使えないはずなのだ。
なぜ、魔力の全くないはずのウィンが使えているのか。
気を抜いてはいけない、とルーツは背筋を伸ばした。
「あら、もしかしてこのテーブルクロスは……ベダーン帝国の名産魔法具の1つですね!」
「お!シェリーちゃん詳しいね!そうそう、我が国自慢の魔法具だよ。いやはや、我が国の食に対する執着はすごいからね」
苦笑するウィンに、シェリーは初めて見る魔法具に興味津々である。またアリスも、スイーツが現れる魔法具に目を光らせていた。彼女もまた食に対する興味が、十分にある。
「ウィン様。失礼ですが、毒味をさせていただいても?」
「あぁ、もちろん。いいよ、というかメイドちゃんも精霊様も食べて食べて」
ルーツの言葉に特に気分を害することなく、ウィンは許可をだし、お菓子を勧めてくる。
ルーツとアイギスは、注がれたティーカップを口に入れて目を見開いた。
『なんや!!?これごっつうまいで!!?口に入れた瞬間に広がる香りに、スッキリとした味わいや!しかも、あとを引かない。お菓子を食べて、ちょっと一休みするにはここまで適当な紅茶はない!!温度香り味どれをとっても一級であるとしか言いようがないで!!?』
驚いたようなアイギスの声に、ルーツもまた、驚いていた。
アーサーたちの家において、料理というものは最上級ものであると自負している。なにせ、食を預かるのは、あの食にしか興味のない料理長とアーサーである。舌が肥えるにきまってる。また、クロエから食というか味覚に関しては、重々に仕込まれてるルーツも一瞬にして、美味しいと思ったのだ。
そういえば、とルーツは思い出す。あの料理長の出身は、このベダーン帝国であった、と。恐ろしき、帝国人。
「うはは、そう言ってくれると嬉しいな。ほらお菓子も食べてくれ」
恐る恐ると、ルーツたちの手に取ったお菓子は、一般的なクッキーである。星型やハート型など多くの形があり、可愛らしい。ほんのり焦げ目ついたクッキーからは香ばしい匂いがしたいる。
口に入れたアイギスの目が、カッと開かれた。
『まるで出来立てのような香ばしいさに、サクッとした食感!!そこからホロホロと口の中で、まるで雪のように溶けていくで!!?なんやこれ!?ごっつうめぇな!!!』
アイギスは、まるで食レポのようにクッキーへの賛辞をあげる。
ルーツは悔しそうに顔をしかめる。これは、確かに美味しい、と認めざるを得ない。そして、もちろん毒の心配も全くない。一応、魔法で確認したが結果は白。そもそも、闇喰いであるアイギスが何も反応がなかったことからしても明白である。
ちらり、とルーツは、シェリーたちを見やる。まだかな、まだかなと心待ちにしていた。アリスに至ってはその目は、獲物を前にしたハンターの目つきだ。
ここまで楽しみにしてる可愛いお嬢様たちを前に、ルーツには、NOとは言うことはできない。
「さて、メイドちゃんと精霊様からお墨付きももらったことだし。みんなで楽しく、お茶会にしようか」
ウィンは、優雅に微笑みながら、ティーカップを手に取った。
**
シェリーとアリスは、嬉々としてお菓子を食べては「おいしい!」と顔を綻ばせる。
「さて、シェリーちゃんとアリスちゃんはどの学園でのアーサーの話をしようか。入学式から始まり、春夏秋冬のイベントといえば、学園祭とか武道大会とかかなぁ」
指を折りながら数えるウィンは思い出す。
確かにアーサーは、ほとんど学園には来ていなかった。しかし、来た時には、なにかと伝説を作っては去っていく。学園長に言わせたら、爆弾を落としていく。
ウィンは何だかんだイベント毎が必修単位の取得試験だったからなぁ、と思い返す。
シェリーとアリスは、顔を見合わせて身を乗り出した。
「「ぜんぶでお願いします!」」
元気いっぱいに言い切る2人に、ウィンは目を丸くした。
「……うはは!了解!お姫様方」
なるほど、彼女たちも十分なブラコンのようだ。
楽しくなったウィンは声を上げて笑った。ウィンは、自分が思っていた以上に、気に入ってきているシェリーとアリスたちに、既視感を覚える。
わぁ、ホワイト兄弟怖いなぁ、とウィンは実感した。
「それなら、入学式から順にお話しようか」
それは、ウィン自身にも大きな衝撃を与えた出来事であった。
**
さてさて、シェリーちゃんとアリスちゃんたちはご存知の通り、僕は帝国の第1皇子でね。
元々うちの国とここの国は友好国だし、何よりフリーデンアイト学園はこの大陸随一の教育機関だよねぇ。
僕としても、興味あったから留学生としてやってきたんだ。
そこの入学式でね。
新入生の中で1番優秀な子の挨拶があるんだけど。
驚いたよ。だって、どう見ても15歳に見えない子が立っているんだもん。
しかも、類稀なる容姿と圧倒的なオーラの持ち主のね。そんなに容姿に関しては気にすることはなかったけど、あれほど素直に「綺麗」だと感じたのはアーサーが初めてだったよ。そもそも、え、人形?精霊?天使?人間???本当に????生きてんの????って思っていたと思うよ。たぶん、半分くらいは幻かなって思っていたね。
誰もが彼の存在に、呑み込まれていた。
そして、彼が口を開いたんだ。
「俺は、この学園を一年も経たずに全ての単位を取る。これは決定事項だ」
彼の言葉に、一瞬にしてざわめきが広がったよ。
そんなできるわけない、馬鹿な、とか特に教師陣と先輩たちの方から多かったかな。けどね、それもアーサーに対しての馬鹿にするとかじゃないの。
何処か焦ってるというか、自分に言い聞かせてるっていうか。
この時すでに、どこかしらみんな感じていたかもしれないね。
この子ならやってみせるのではないかって。たった、一瞬にしてここまで場を掌握してみせたアーサーには感嘆だよねぇ。ほんと、恐れ入る。
それに、実際にこの学園はスキップ制度はあるし。単位を取るのは生半可なものではないけれど。
大陸随一の教育機関の名は伊達ではないんだ。
「静まれ」
圧倒的な王者のような声に、今までの騒めきがピタリと止まった。
うちの国の諺でいう、まさに鶴の一声だったね。
「俺を気に食わないと思う奴はまとめてかかってきて構わない。この学園にいる間は、相手がどうであれ、
俺は正々堂々と、敬意を持って、勝負を受ける。
我が名、アーサー=ホワイトにかけて」
その名前で、全員が理解したと思うよ。
なにせ、この国においてホワイト家と言えば、知らないわけがない。
公爵家であり、国のNo.2とも言える宰相が当主であるからね。
確かに、かの家は、公爵令息と公爵令嬢がいる。しかし、まだどちらも、10を満たない年齢であると言う情報があったからね。
噂はあったんだよ。ホワイト家の公爵令息は、とんでもない才能を持っているってね。あと類を見ないほどの容姿の持ち主ともね。なにせ、あの「白き執行人」の誉れ高いご当主様に、「慈愛の女神」と大陸に名を轟かせた元姫様の子だもんねぇ。あ、この2つ名に関しては、後でアーサーにきいてごらん。きっと、教えてくれると思うから!よかったらその時のアーサーの反応をこっそり教えてね!あ、僕から聞いたってのは内緒でね!うはは、楽しみだな!
それで、アーサーは、そのまま颯爽と、入学式から出て行ったんだ。
そこからはもう、誰彼わからない悲鳴やら歓声やら怒声やらね?
すごい騒ぎだったよ。
まっ、アーサーはこの宣言通り単位を1年以内に取ったんだけどね。
**
一気に語ったことにより、ウィンは喉の渇きを覚えて、紅茶を飲んで潤す。
「お兄様、すごいですわ!!」
「うん、兄様すごいかっこういい!」
シェリーとアリスは、どこまでも自身の意思を貫く格好の良い兄の話に、頬を赤くして、喜んでいた。そんな妹たちの様子に、ウィンも微笑む。
うん、とりあえず翌日から決闘申し込まれまくって、全員まとめて捩じ伏せ、通称魔王として君臨したのはちょっと後出しにしよう、と考える。
あの決闘は、正直えげつなかったのだ。蹂躙といっても過言ではなかったのだから。
「あら?そういえば、ウィン様もお兄様と同い年ではなかったですか?」
「うんそうそう。だから、僕と同い年の子がいてビックりしたんだよね」
ウィンも同じく、権力と学力でゴリ押しした口である。もちろん、彼も満点合格だったが留学生ということもあり挨拶は免除となっていたのだ。
アーサーのおかげで、ウィンは大きく目立つことなく学園に過ごすことができた、わけではない。
そもそも、彼は帝国の第一皇子であり、容姿も整っている。更には、アーサーに絡みまくっていたので、それはもうウィンも、大きく目立っていた。
彼もアーサーより少し遅れてたが、ほぼ必要な単位は習得済みだ。
ウィン本人がそこまで単位を取るのに意欲を示さなかったので、1つか2つほど残っているのがある。
恐らく、ウィンもやる気さえ出せば、アーサーと変わらない時期に、同時に単位を揃えていただろう。
そもそも、アーサーが出ていた授業にはほとんど一緒に受けて、楽々とクリアしていたのだから。
恐ろしき、才能の溢れまくっている子どもたちである。
彼らのせいで何人もの教師たちが自信喪失していったか。自信喪失した教師たちは、学園長直々に叩き直されていたが。
ちなみに、生徒たちは自信喪失ではなく、アーサーたちの、どんな不利な試験であっても、正々堂々と単位を取っていく姿に、感動していた。
まるで、ヒーローを見るかのように、目を輝かせていたのだ。
ちなみに、アーサーに挑み叩き失せられた奴らも、完膚なきまで、正々堂々とされたことにより、もれなくその傾向にあった。
端的に言うと、ファンになっていた。
確かに、アーサーは魔王として君臨していたのは間違いないが、それは英雄でもあり、圧倒的な遥か高みにある頂点であった。
彼に少しでも近付こうとする生徒たちの努力により生徒のレベルはみるみるあがった。教師は泣いた。学園長は豪快に笑っていた。
そして、フリーデンアイト学園は大陸一から世界一の学園として名を馳せたのだ。
「あとは、そうそう。ドラゴン召喚事件もあったなぁ」
はやくはなしてください!という目をしたシェリーとアリスに、ウィンはティーカップを置いた。
**
そうあれは入学式から3日後のことでね。
あ、僕とアーサーは同じクラスの隣の席でさ。というか、僕らしかいなかったんだけどね。
スキップ制度を使う子って別カリキュラムってことで分けられるからね。試験とか演習は他クラスと一緒になることはあるけど。
もうこれは仲良くするしかないじゃん!と思って、めっちゃ絡みに行ってたんだよね。
アーサーめっちゃ嫌そうな顔してたけど。そんなことで僕が止まるわけないよね!
アーサーの親友になるのは僕だ!っていう心持ちだったね。というか、アーサーの友達とか僕くらいしかいないから!つまり、消去法で僕が親友ってことになるね!今はばっちり親友、いや大親友だね!
その日は確か、召喚魔法の実技テストがあってね。そうそう、使い魔を呼び出す召喚魔法。あ、この魔法具はちょっとまた違う召喚系なんだよ。ふっふっふ、解明してごらん?
おっとごめんごめん、話を戻すね。
ちなみに、このテストは僕らだけじゃなくて他の生徒たちもいてね。確か、4年生だったかな?
流石最高学年というか、結構強い使い魔を呼び出していた気がする。ごめんね、アーサーのインパクトがありすぎて忘れちゃったや。
それで、アーサーの番が来た。みんなが見守る中、アーサーは口を開かなかった。
そう、無詠唱だね。
そしたら、とんでもない大きさの魔法陣が現れたわけで。もちろん、魔力も膨大。
慌てる教師をよそに、僕らの担任でもある学園長が周りの生徒たちに被害を行かないように結界をはって、興味深そうに見ていたね。もちろん、僕もワクワクしながら待っていたよ。
そして、現れたのは真っ白な翼を持った巨大なドラゴンだった。
僕もこれにはちょっとびっくりした。ドラゴンってね。魔力が強いほど、更には歳を重ねることに色が抜けていくらしくてね。例外もいるけど。
つまり、この真っ白なドラゴンってね。天災級と呼ばれる古代より生きるとされる古代種のドラゴンだったんだ。
【我を呼んだのは、汝か】
溢れるような魔力に、学園長の結界があるとはいえ、何人もの生徒が倒れていたな。あ、僕は魔力無効体質だから問題ないよ?
アーサーはどうするのかなあ、と見守っていたらさ。アーサーってば、全く表情変えることなく、仁王立ちしていたね。
「別に俺は呼んでない」
とかいうものだからさ。ドラゴンの魔力が一気に大きくなってね。
もう僕は、めっちゃ笑ったけど。確かにアーサーは呼んでないしね!なにもいってないもの。
おかげで、残ってた教師たちも泡吹いて倒れていったから、僕と学園長くらいしかたってなかったんじゃないかな?
【くっは!!!くっはっはっ!!!確かに、汝は我を呼んだわけではないな。何やら膨大な魔力に惹かれて出て行こうとしていた神獣どもや同胞たちを蹴散らしてきたのは我だしな!くっは!これはうむ!うむ!くははは!!!なんて僥倖だ!!】
それはもうドラゴンは、上機嫌だったね。あ、これ普通じゃないからね。一般的なドラゴンは凶暴だよ。このドラゴンが割と特殊なだけだからね。古代種ってアレなところあるから。
思いっきり笑ったドラゴンは、満足したのか、アーサーに頭を垂れてんだ。
【どうか、我と一戦を交えてほしい。強き者よ】
「……その勝負、受けて立つ。だが、場所は変える。それが条件だ」
僕らの後ろの死屍累々に気を使ってのことだろうね。
【承知した。では、準備ができたら我のことを呼んでくれ。貴様なら造作もないだろう?我はいつでも構わない】
そう言ってドラゴンは消えたんだけどね。
学園長が、ちょっとはしゃぎすぎ子を見るように困ったような顔をしててね。あれは確実にドラゴンに対して「歳を考えてほしい」という顔だったよ。
「儂としてはなぁ、正直天災レベル起こすだろうなぁとは思っておったが。よりによって原初の龍王を呼び出すとは思わんかったぞ」
「学園長それって確か教科書に載っていた、古代種の中において、龍種の祖と言われるやつだよね」
僕の言葉に、学園長は頷いたからね。あれはお伽話じゃなかったんだねぇ、と思ったよね。
あ、その後ね。場所を移して、というかアーサーが、亜空間作ったからね。
僕と学園長は、こっちで窓作ってもらって、見守りながら、勝負は行われたんだよ。
結構手こずってたみたいだけど、アーサーがちゃんと勝ったよ。
でもね!ドラゴン相手に体術だけで勝つからさ!
僕とお揃いでちょっと嬉しかったなぁ。学園長は、相変わらず豪快に笑ってアーサーを普通に褒めてたけどね。
ん?あぁ、うちの国でドラゴンって珍味だからね。割と狩りをするんだよ。
でも、狩りすぎると竜騎士たちやドラゴン使いたちとかドラゴン愛護団体から、抗議されるからね。
毎年狩りのはあくまで人を襲うドラゴンか迷宮に出るドラゴンのみで。
食べるのは、1年に10匹までとしてるんだよ。無手でドラゴンを狩るのが1番品質がいいんだ。
今度、アーサーと一緒に帝国においで。振舞ってあげるよ。
**
「ドラゴン!!おいしいんですか?」
「人によるから一般的には美味しいとはされてないな。僕は割と好きだよ」
目を輝かせたアリスに、ウィンはあの味を思い出す。
ドラゴンの味はすごく独特なのだ。そのため、好きな人はとても好きだが、苦手な人は苦手の珍味なのだ。そして、食べたら特に強くなったりすることもない。本当に珍味。ちなみに、ドラゴンを食す文化があるのはこの帝国のみだ。食に対する追求は全くブレない。
『ひゃーー!!古代種の龍に勝つとか我が主は流石やんな!あと、わいほんまに精霊でよかったわ』
「あー、そっか。精霊様は魔力で構成されてるから肉はないもんねぇ。おかげで、うちの精霊様の研究は、歴史的にも盛んなんだよ。特にピグミドルは人気だよ?」
『それ絶対に食べること諦めてへんやろ!?あかん!!?わい、狙わてるやん!?』
「アアア、アイギスさんは食べても美味しくありませんわよ!」
ウィンがアイギスへ意味深な笑みを送る。すると、ひょええええ!!と本能的に震え上がるアイギスをシェリーが慌てて抱きしめて隠す。
アリスは「アイギスさんは友だち。友だち。おいしい、かも、しれない」と何やら葛藤していた。是非とも、彼女の中での友情が勝ってほしいところである。
「流石にホワイト家の精霊様には手は出さないよー」
『ん?にいちゃん、それはちょっとちゃうで』
首を傾げるウィンに向かって、アイギスはチッチッと指を振る。
『わいは、我が主の精霊であり!シェリーとアリスのお友達や!! 』
ドヤァァ、といい笑顔で言い切るアイギスだが、未だに震えてるのでシェリーの腕からという全くもって残念仕様である。
「え、それってつまりアーサーの契約精霊ってこと?」
『おん!!せやで!!!』
自信満々のアイギスに、ウィンはあー、と眉をひそめる。そして、口を開こうとしてやめた。なにやら、言いにくいことでもあるようだ。
「……どうかされましたか?ウィン様」
ずっと黙っていたルーツが、ウィンに問いかける。すると、ウィンは言いづらそうに、口を開く。
「えっとねぇ。なんていうかさぁ。アーサーってね?精霊とかドラゴンとか魔獣とかにさ?結構好かれるんだよねぇ」
今まで生き生きとしていたウィンの目から、徐々にハイライトの消えていき、遠い目をする。
そんな彼にアイギス、そしてルーツに嫌な予感が走った。
シェリーとアリスは、流石お兄様と納得の表情で頷いているが。
「学園のときもね、アーサーと契約したいっていう子でさぁ。押しかけてくる子たちも多くいてね?」
『いやや!!聞きとうないで!?これは!!!』
全力で拒否の姿勢を示すアイギスの叫びはあっさり却下される。抵抗虚しくもウィンの言葉は紡がれる。
「アーサー、すっぱりと全部断ってさ」
『ほんまに待ってくれ!!それ以上は!!聞きとうない!!!聞きとうないで!!?わいの命が!!!』
アイギスはバタバタと耳を塞ごうとするが、未だにシェリーの腕の中なので身動きができない。ルーツも、なんだか様子がおかしい。彼女は、ウィンを警戒して黙って観察を続けていたが、ドラゴン召喚事件の話をしたあたりから、妙に挙動不審である。
特に、「原初の龍王」という名が出たあたりから。
「今でも、アーサーと契約しようと熱烈にアタックしてくる子達いるから。その、がんばって」
『アカーーーーン!!!!!!』
「ちなみにその筆頭にさっき言ったドラゴンいるからね」
ウィンのその言葉がダメ押しとなったのか、アイギスは真っ白になっていた。どうやら、来たる未来のことを想像してオーバーヒートを起こしたようである。
ルーツも、アイギスと同じように固まっている。
「流石お兄様ですわ!!ふふ、お友だちが他にできるならうれしいですわね! あら?アイギスさん?」
「ともだち、にく、ともだち、にく、ひじょうしょく、ともだち。うん、がまんする。アイギスさん、またでんちが切れた?」
心配そうにアイギスを見つめるシェリーとアリスに、ウィンは苦笑する。正直なところ、ウィンとしてもアイギスがアーサー直属の契約精霊とは思わなかったのだ。あれだけ、学園の頃にアプローチされまくって、「必要ない」とバッサリ切っていたのだから。何か心境の変化でもあったのかな、とアイギスたちを見る。
つんつんとアイギスを触るアリスに、優しく回復魔法をかけているシェリー。
かわいい小動物?系精霊と可愛い幼女たちの姿にウィンは察した。これまでのアーサーの思考から恐らく、妹たちと一緒にいてかわいいってところだろうか。
ついでに守れるからよし。というところ、と推測する。
全くもって百点満点の答えである。恐れ入る慧眼。ウィンとしても、アーサーからシスコンという前提を教えてもらわなかったら迷宮入りしていただろう。
どうやら、本当にアーサーのシスコンもブレないようだ。
そうなってくると、あの子たちはむずかしいかもなぁ、とウィンはアプローチしてきた面々を思い浮かべる。恐らくアーサーの求めるものとは異なるだろう。
これから面白くなりそうな予感は大いにあるが、巻き込まれるのは確実だ。
ウィンは、まぁアーサーだから仕方ないから、と納得した。実は何気に苦労しているのである。大体自業自得であるところもあるが。
そんな様子の3人と1匹?から少し離れたところでルーツは、大変苦いものでも食べたかのような渋い顔をしていた。今の彼女には幸いなことに、誰にもその表情が気づかれていないことだろう。バレたら、ハリセンが飛んでくるのは間違いない。
ウィンから落とされた爆弾は、実はルーツにも被弾していた。
そもそも、「原初の龍王」と呼ばれる存在を、古代種と呼ばれる生きる伝説たちをルーツはよく知っているのだ。
彼女が災厄の終焉と呼ばれていた頃の知り合い……とは思いたくはない。
顔見知り、といったところか。付き合いとしては、すでに万を超えたあたりから全く覚えてないが。ルーツにとっては腐り落ちてほしい縁であった。
全ての根源、人類悪、理の終末などと呼ばれていた災厄の終焉と、龍種の祖、秩序の化身、世界の守護神などと呼ばれる「原初の龍王」とは、一層壊滅的に相性が悪かったのだ。
それはもう、世界を巻き込む喧嘩(と書いて大戦争と読む)を頻回に起こしていた。人類からしたらたまったもんじゃねぇ。
彼らは、混ぜるな終わる、会わせたら最期な関係であるのだ。
そのため、ルーツとして、アーサーからボコボコにされたと聞いた時は、よっしゃ!!流石ご主人!!!はっ、ザマァ!!あの融通の利かない脳筋龍め!と内心でプークスクスと笑っていたのだが。
奴が、アーサーとの契約を迫っているとすれば、話が変わる。
ウィンたちは、アイギスがアーサーにとってのはじめの契約精霊であると考えてるのだろう。割と、あのような奴らは順番というのを固執することもある。
それに、アイギスがアーサーにとってはじめての契約精霊というのは間違いではない。
ここで、なぜルーツがここまで頭を悩まされてるのか。
ルーツは、アーサーの手ずから創造魔法にて作られた存在である。彼女の生成される全てはアーサーの魔力からできており、災厄の終焉の頃の魔力や特性も条件付きだが持っている。メイドイン、アーサーなのである。
アーサーに契約を迫った奴らが契約魔法で満足するような礼儀の良い連中なのか、ということだ。
ルーツのよく知る、殺し合いをする程度の存在である「原初の龍王」は、満足するわけがない。
寧ろ、アイギスは多少目の敵にされるかもしれないが、彼らにとって許容範囲内だと思われる。所詮は、契約魔法なのだ。さらには、アイギスはアーサーの最愛なる妹たちのよき友人である。
しかし、ルーツだと、話は別だ。
恐らく、戦争になる自信しかない。
確実に、アーサーに契約を迫った奴らは、アーサーに惚れ込んでいる可能性が高い。そもそも、あのアーサーから拒否をされても諦めないガッツの強さだ。そうなると、奴らの思考は変な独占欲というか執着心というものがあるだろうと容易に想像できる。
そんな拗らせた奴らに、メイドインアーサーのルーツがいたらどうだ。
世界の危機だ。
まぁ、アーサーがそんなことさせないとは思うが。
ルーツとしても、思いつく原初の龍王筆頭に、過ごした時だけは無駄にある古代種が、面倒臭いことは大変よく知っている。
ルーツが災厄の終焉であることもすぐに見抜くだろう。いらない確信である。恐らく、ルーツが災厄の終焉であることも、連中にとっては気に入らないところだろう。伊達に、災厄の終焉と名乗ってはいない。
(めちゃくちゃ面倒臭いことになる予感しかない)
恐らく、そう遠くはない未来のことにルーツはため息をつく。
しかし、面倒臭いことこの上はないが、若干楽しみな気持ちもあるのだ。
何せ、気に食わない奴らの最も欲しているであろうポジションにいるのだから。
それが、災厄の終焉であると知った時の奴らはきっと大変愉快というものだろう。
「ルーツ!!アイギスさんがうごかないわ!」
「ルーツ、アイギスしんじゃった?」
自分の名を呼ぶ可愛らしい声に、ルーツはにこりと微笑む。
「大丈夫ですよ。お嬢様たち。アイギスさんは少々疲れたようです。しばらくしたら元気になります」
「ほんとう?」
「ええ、大丈夫です。だからアイギスさんはしばらくおやすみさせてあげてください」
不安そうなお嬢様たちから、アイギスを受け取ったルーツがもう一度微笑むと、彼女たちは安心した様に頷く。
「ルーツがいうなら、だいじょうぶですわね」
「ん、アイギスさん。おやすみなさい」
「ええ、アイギスさんのことは私にお任せください。お嬢様たち、第一皇子様のお相手をお願いいたします」
そうだったわ!ウィン様のお相手を!!と焦るシェリーとおかし!と目を輝かせるアリスにルーツは苦笑する。
「精霊様、大丈夫?ちょっと脅かしすぎちゃったかな?」
「ルーツにあずけましたからだいじょうぶですわ!」
「ん、ルーツだからだいじょうぶ」
完璧に信頼しきっている言葉に、ルーツはなんとも顔が熱くなっていくのを感じる。
全くもってこのお嬢様たちはこう言うところが困るのである。彼女たちは、絶対の信頼を持って、名を呼んでくれるのだ。
あの頃の自分だと絶対に持つことのない感情であったが、ルーツは悪い気はしなかった。寧ろ、好ましいとも思うのだ。
彼女の中で、例えどんなに面倒臭いことになったとしてもアーサーたちの元を離れるという選択肢は、無いのだから。
これにて王子様生誕パーティーは閉幕。やっと、説明会を終えたので、いつも通りの妹たちを筆頭に年下勢を可愛い可愛いします。




