クラス発表にて
入学式で眠りこけていたわたしを起こしてくれた隣の美少女は、横尾愛というらしい。外見通りのかわいい名前だ、と言ったら横尾さんはすごく照れた。顔を真っ赤にして照れた。すごくかわいい。なので横尾さんをナンパして一緒にクラス発表を見に行くことは必然だったのだ。
聞けば、横尾さんはあの王様と同じ中学校だったらしい。王様の演説に眠りこけていた生徒はことごとく断罪されていたことを知っていたため、あの場でわたしを起こしてくれたと言う。なんて優しいんだ横尾さん。でもその横尾さんいわく、王様はなんだか高校生になって丸くなった気がする、という。中学時代はもっとこう、ナイフのような触れる者みな傷つけるぐらいの鋭さだったらしい。演説の時に敬語を使うこともそう思う要因のひとつだとか。王様の高校デビューだったのかもね、と言えば横尾さんはその可愛い顔で笑ってくれた。
「横尾さんは、高校デビューとかしないの?」
「えっいえ、私は、三つ編みのままでいいんです、これしか似合わないから…」
そう言って横尾さんは伏し目がちになり自分の三つ編みをなでた。そんなことはないと思うんだけどなあ。
「そう?わたしはいろんな横尾さんを見てみたいなあ、でももちろん三つ編みもよく似合ってると思うよ」
「いえ、そんな」
「横尾さん、こういうときはありがとうって言ってくれたらいいんだよ」
「あ、はい…ありがとう、ございます」
頬を染める横尾さんはやはりかわいい。ああ、女子に嫌われたくないなあ。
クラス発表の掲示は、各教室が並ぶちょうど真ん中にある少し大きな広場にあった。これから1年生に関する掲示はこの場所で行われるらしい。さすがに新入生があふれていてなかなかじっくりとみることができない。それでもなんとか頑張って確認したわたしのクラスは5組。
「私、1組です」
「ああ…けっこう離れちゃったね」
「はい…」
「また、見かけたら話しかけていいかな?」
「はい、もちろんです」
別れ際に笑顔をくれた横尾さんは、1組へと歩いて行った。
さて、わたしも自分のクラスへ。
「あっ」
行こうとしたその時、女子の悲鳴が聞こえた。振り返るとちょうど女の子が新入生の群れにはじき出されたところだった。不運なことに足がもつれてバランスをくずした女の子の体は重力で後ろへ引っ張られる。
「危ないッ」
「わっ」
とっさにのびたわたしの手は、無事に女の子の肩を抱きとめていた。
「大丈夫?」
「は、はい」
腕の中にいる女の子へ声をかけると、彼女の大きな目がぱちくりとした。かわいい。
思わずほっとする。
「間に合ってよかった」
その場にいた何人かがこちらの様子に気が付いた気配がしたが無視した。野次馬め。
けれども正面から聞こえてきた「ヒューかっこいい」の声は思い切り睨み付けておいた。佑真あいつ絶対面白がってる。
女の子をゆっくりと立たせてあげながらもその肩からは手を離さない。
「わたしが前の方まで連れてってあげるから、一緒に見ようか」
「はいっ」
肩から手を離さなかったのは、女の子をエスコートするためだ。そのまま群衆をかきわけ、なんとか掲示が見える位置まで移動する。
「あっ1組にありました、あれですあれ、湯上舞です」
「1組か」
横尾さんと同じクラスだ、いいなあ。
「わたしは5組なんだ」
「えっ」
湯上さんは残念そうな顔をしてくれた。かわいい。
「同じ学校にいるんだからまた会えるよ、それじゃあ」
「はいっありがとうございました!」
また群衆の外までエスコートしてあげてから、湯上さんと別れた。
小さな体でポニーテールを揺らしながら走っていく姿はまるで小動物のようですごくかわいい。
少なくとも横尾さんと湯上さんには嫌われてないと思う、よかった。
それから佑真の姿を探したけれど、やつはすでに自分のクラスへ向かったようでもうここには居なかった。