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入学式

 花轟かごう学園の敷地内には入学式に合わせたかのように桜が満開に咲き誇っていた。

いや、たぶん入学式に合わせたんだろう、造園業らしい人が感慨深げに桜を見上げている姿が見えるから。

わたしも感慨深く桜を見上げていると、はなびらがひとひら舞ったのが見えた。それを目で追うと、ひらひらと舞い降りて私の肩にとまった。

学園の制服は、ちょうど肩のあたりに校章であるガーベラの刺繍がほどこされている。ちょうちょのように舞い降りた桜はそのガーベラで休んでいた。思わず笑ってしまう。

おっと、こんなところで不気味に笑って不審者してる場合じゃない。玄関へ向かおう。


 そういえば校章がガーベラのわりに敷地内にガーベラはひとつも咲いていなかったな、と思ったら入学式へ向かう受付で新入生ひとりひとりにガーベラを一輪配っているようだった。わたしがもらったのは、熟したトマトのように真っ赤なガーベラだった。


 式がはじまって数分後、わたしは昨日の出来事を後悔していた。

昨日の出来事とはなにかといえば、夜中まで幼馴染とやんややんやと話し込んでいたことだ。

どうしてそれを後悔しているのかといえば、眠い、眠いのだ。まぶたがすごく重い。

もはや校長の話が子守歌だ。ところどころ意識がブラックアウトする。聞こえてくる鈴を転がしたような声が夢なのか現実なのかわからない。



「…あの」



肩をぽんぽんと叩かれて、鈴を転がしたような声が現実であることを知った。

はっ、やっぱり寝てた…。

叩かれた肩のほうをみると、困ったような顔をした美少女。左右のおさげを三つ編みにしているせいで少しやぼったい印象になってしまうが顔はまぎれもなく美少女である。


「あ、ありがとう、起こしてくれたんだよね」


美少女にお礼を言うと、檀上はどうなっているのかとそちらの様子をうかがう。

げっ。あれは。



「―この俺、朝尾剣あさおつるぎは生徒諸君がこの学園の生徒であることを誇りに思うような学園を作る、それをここに誓います」



全身からにじみでるカリスマオーラ、キラキラと輝いて見えるその整った顔、丁寧な口調に秘められた野心。

今、壇上で演説を終えたばかりのあの彼は紛れもなく、あのパンフレットで見た「王様」だった。


 ん?いまあいつ、じろりとわたしのほうを睨んだ?

な、なんだ、もしかして寝てたのがばれたか?この俺の話に寝ているとはどういう度胸してんだって?

寝ていたのはわたしが悪いにしても、そう敵意むき出しに睨むことはないだろう。別に事を構えるつもりはないけれど睨まれっぱなしは性に合わないのでわたしも睨んでおく。王様がおっという顔をしたように見えたけれど、一瞬だったので真実はわからない。

だいたい、佑真だってわたしと一緒に夜中までくっちゃべってたんだからこの入学式で寝てるはずだ。まあ学校内では聞けないから帰ったら聞いてみようかな。


 王様が壇上を下りていくと、どこからともなくパチパチと拍手が鳴った。それをきっかけに拍手の音は増えていき、ついには会場である講堂全体が拍手の音に包まれた。これが「王様」朝尾剣の力なのだと思い知らされた。






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