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入学式前夜

 入学式前日の夜、わたしは幼馴染の部屋を訪れていた。

ベッドに腰掛けるやつの前へ仁王立ちすると、やつはわたしを見上げる形になる。



「ひとつ言っておきたいんだけど、高校ではわたしに話しかけないでもらいたい!」

「えっなんで?」

「悪目立ちしたくないの!」

「お前女子にワーキャー言われたいとか言っときながら…」



佑真の目は明らかに「どの口が…」と語りかけているがくみ取る気はない。



「女子にキャーキャー言われる前にあんたと接触してまたつまんない嫉妬の的にされるのは嫌だから」



そう言うと佑真は目を伏せた。こいつもこいつなりに小学校時代のことは申し訳ないと思っているのだ。わたしだってそんなこいつにこんなことを言うのは心が痛む。

だからこそ今日は文句を言いに来ただけではないのだ。



「だから今日は無礼講、ついでに女子にモテるコツを教えてもらおうと思ってこうして夜食を持ってあんたの部屋まで出向いてきたわけ」

「シンジお前…」


文句を言いに来ただけではない、ちゃんとジュースやらおかしやら焼きおにぎりやら、語り合うための夜食を持参してやってきてやったのだ。

コイツの部屋のどこに折り畳みテーブルがあるかも把握している、わたしがそれを引っ張り出してくる間に佑真はベッドから降りて座布団を二枚用意してきた。


「そもそもシンジはなんで女子にモテようとしてんだ?」

「それは」



あたりめを食みながら佑真が素朴な疑問を口にする。そうだなあ、どう説明したらいいやら。逆ハーレムという単語はまず良くない。不審な目で見られるし多分こいつが理解できない。



「女子に嫌われたくないから」

「あー…そっか」



考え抜いて出した答えに、佑真は気まずそうに目をそらした。やはりこいつのせいでわたしが嫉妬の的になったことを申し訳なく思っているのかもしれない。そりゃあ、こいつのせいだってわたしも思うけど。


「べつにあんただけのせいじゃないから、もう気にしなくていいよ」

「えっ」


なんで考えてることがわかった、みたいな顔されても困る。



「女子にモテようと思ったのは、そうしておけば嫉妬されないって思ったわたしの前向きな考えなの、申し訳ないと思ってるならわたしの計画に協力してほしい」

「で、でもさあ」



柄にもなく殊勝な態度をとらないでもらいたい、こっちの調子が狂う。



「そりゃ、あんたのせいじゃないとは言えないけどさ、気にしたってきりがないじゃん、わたしがいいって言ってんだからいつもみたいに能天気に構えてりゃいーじゃん」

「いつもは能天気ってどういうことだ」

「さっきも言ったけど、わたしは前向きに女子にモテようとしてんの、誠意見せたいならそれに協力してほしい」



じっと目を見て言えば、佑真の表情からはだんだんと気まずさが消えていく。

それからじわじわと口角が上がっていったかと思えば、突然やつはふきだした。


「ぶ、っふふ、はは!お前の考えてることってほんっとわっかんねーよな!女子にモテるって!はははは!」

「わ、笑うな!」

「でもおもしれー!わかったわかった!俺にできることは協力する」



バカ笑いしながら言われてもなんだか信用できないんだけどまあ一応幼馴染としてこいつのことは信用しているので、「協力する」と言ったやつの言葉は信じていい。


「でも俺がなんか協力できんの?とりあえずお前に近づかない以外に…」

「そうだなあ、まず運動面でのアドバイスでしょ、あと不本意ながら佑真が女子にモテているという事実は認めざるを得ないからなにかテクニックがあれば教えてもらいたい」

「いや、運動面はいいけど女子にモテるコツとかそんなこと言われてもなあ」


そう言って佑真は頭をかいた。このナチュラルボーンモテ男め。


「まあ考えてみればそうだね、あんたがモテる要素は運動神経の良さと友達の多さぐらいだもんね」

「第三者に言われるとむかつくなおい」

「女子にはモテるけど本命相手にはいい人止まりの未来が見える」

「笑えないからやめろ」

「同級生より後輩狙った方がいいよ?」

「なんで俺の恋愛アドバイスになってんだよ」

「なんかもう参考に出来ないとわかったからおちょくって遊ぼうと思って」

「お前俺の事なんだと思ってんの?」



 幼馴染との話に夢中になって、入学式前日の夜は更けこんでいく。




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