緊急会議
緊急会議は昼に開かれる。
人気のない中庭、そこに建つ東屋に、わたし、佑真、真利くん、そして平胤が集まる。無論、わたしが集めたのだった。とりあえず佑真と真利くんに事情を話した後。
「どうしたらいい!」
わたしは思い切り頭を抱えてそう訴えた。どう、どうしたらいいんだ。改めてよくよく考えたらなんかとんでもないことになってる。ていうか王様、心、狭い。
ああ、同情の視線が集まっているのが分かる。ん、いや待て、なんか一つだけ視線の感じが違う。真利くん、あんたなんでこんなときすら王子様スマイルしてるの。
「大丈夫、高波さんなら負けないよ、高波さんは王様よりずっとカッコいいもの」
「いや、わたしは別に勝ちたいわけじゃなくってね真利くん」
真利くんが、あれ?みたいな顔をする。真利くん、あんたそんな子だったっけ。
「いや、やるなら勝てよ!男だろ!」
「男じゃない!」
ちょっと佑真黙ってろ!!!!
「いや」
そして最後に平胤が口を開いた。なんだ、あんたは何を言うんだ。
「本気で、やってくれないか」
身構えたのだけど、平胤の言ったことは真利くんや、佑真とは違って思いがけず真剣なことで。それは多分、はじめて見るような、平胤の真剣な顔。
「あいつは、ああ、いや、まずはこれを言っておかんとな」
そう言って、平胤はなにか覚悟を決めたような強い目で、わたしたちを見た。
「王様―朝尾剣と俺は、幼馴染だ」
そして平胤は、衝撃的な事実を告白した。
幼馴染。そうか、こいつが苦労させられているという幼馴染は、王様の事だったのか。王様のことを聞いたとき、言葉を濁したのも、心の狭い奴だとはっきり言い切ったのも、幼馴染だから。
「アレの金魚のフンのような扱いはされたくないから隠していたんだが、あいつがシンジに絡んできたのならそうも言ってられん、それで、幼馴染の俺からひとつ、お前に頼みたいんだ」
「何、を?」
平胤の真剣な思いを受け止めるように、わたしはつばをごくりと飲んだ。
「あいつは何をするにも、必ず本気でやる、それは自分への敬意でもあり、相手への敬意でもあるからだ、だからシンジ、お前もどうか、本気でやってくれ」
頼む、と言った平胤は、頭を下げることはしなかったけれど、そう強く訴える瞳でわたしをじっと見た。そんな、はじめて見るような真剣な顔。そんな顔でお願いされたら、それは。
「…わかった」
そう言って、承諾するしか、無いじゃないか。
わたしがそう言うと、平胤はほっとした顔で笑った。嫌味などまったくない、普段からそういう笑顔見せてれば友だちも増えるんだろうなと思う、そういう笑顔だった。
「よし、だったら特訓だな!猶予は3日だろ?」
ひとつ、話がまとまったところで佑真が立ち上がって興奮気味にそんなことを言う。得意分野だからなあ、張り切っているのだろう。
「まあ俺はあんま時間取れないけど、陸上部の友だちにも協力頼むからさ!」
ぎゅっと拳を握りしめる佑真は、さすがというか、たいした根拠もないのだけれど、頼りになるなと感じてしまう。そして佑真に続くように真利くんが立ち上がった。その王子様のような顔を、頑張ってキリリとさせている。
「僕も、僕に出来ることは少ないけど、応援するよ」
佑真を見て真似したのか、ぎゅっと拳を握りしめている。ははは、頼もしいなあ、真利くん。
それから佑真と真利くんが平胤を見たので、わたしもそちらへ顔を向ける。
するとそこには、まだ真剣な顔をしている平胤がいたのだった。
「どうしたの、平胤」
わたしがそう聞くと、平胤は真剣な顔のままで、口を開いた。
「悪いが、俺は剣の方につかせてもらう」
そして平胤は、そんなことを言った。
平胤の言葉に、わたしは驚いた。驚いた、けれど。
「なんだかんだ、アレを放ってはおけないんだ、…すまん」
困ったように眉尻を下げる、そんな顔をした平胤に、腹立たしさはひとつも感じない。それどころか、いつも以上に親しみを感じる。だってそれは、わたしも知っている感情だから。
「謝んなくていいよ平胤、その気持ちわかるからさ」
だからわたしは、平胤に笑いかけるのだった。平胤が、驚いたような顔をする。
「うん俺も、その気持ちわかる、幼馴染ってほっとけないよな~」
「できれば放っておいてほしかったんだけどね」
「ごめんて…」
計画的犯行を全面的に許したわけじゃないんだからなおい。
「僕は、幼馴染はいないけど、でも、友だちは放っておけないから」
真利くんが、にこりと笑う。
「高波さんの言うとおり、謝る必要はないと思うよ」
真利くんが笑うと、そこに花が咲いたように明るくなる。それはもう、ぱああああと効果音が付くほどに。そしてその光は癒しをもたらす効果もあるのかもしれない。だってほら、あの平胤が、少し照れくさそうに笑っている。
「…礼を言う、ありがとう」
更にはあの平胤の口から、そんな殊勝な言葉まで飛び出した。真利くんの癒しの波動すごい。
そうして平胤は去ろうとする。東屋を出て、そこで一度立ち止まる。そしてわたしたちの方を振り返った。ごほん、と一つ咳払いをする。
「これは、独り言だ、断じて独り言だ、…あー、そういえばあいつは、短距離走が苦手だったなあ」
平胤は大きな声で、棒読みの独り言を言ってから中庭を去って行った。




