たぶん嵐の前の静けさ
昼休みの食堂に集まったのは、わたし、平胤、真利くん、佑真、そして稚菜ちゃんとそのとりまき3人という、割と大所帯になった集団だった。
きっかけは、学校でわたしに話しかけることが解禁となり調子に乗った佑真の一言。
「せっかくだからシンジの友だちと飯食いてー!食堂で集まろうぜ!」
わたしの、何を言っているんだこいつはという視線もなんのそのに、佑真はてきぱきとその準備を始めた。持ち前の強引さで平胤を誘い、真利くんを誘い、そしてわたしに稚菜ちゃんを連れてくるように言った。いや、佑真の指示をもっと正確に再現するとしたらやつは稚菜ちゃんを連れてくるようにとは言わなかった。「女王様」を連れてくるように、と言ったのだった。
稚菜ちゃんの教室へと向かったわたしは先日のアドバイス通り「ちょっとツラかせ」と言って稚菜ちゃんととりまき3人を呼び出したら思った以上にスムーズに呼び出せた。稚菜ちゃん、それでいいのか。
そして今に至るのだけど。
「真利くんが居るなんて聞いてないわよ高波心慈!」
「言ってないからね」
わたしの隣に座る稚菜ちゃんがこそこそと抗議してくる。だって言ったら稚菜ちゃん来ないから。そして稚菜ちゃんは、来てしまえばもうこの昼食を楽しんでいる真利くんの前から無下に立ち去ることもできないらしい。抗議はしてくるものの、立ち去ろうとするそぶりはまったく見せない。
「稚菜ちゃんのお弁当かわいいね、カラフルだ」
「かわ…!」
「稚菜ちゃん落ち着いて、お弁当のことだから」
「そうだよ稚菜ちゃん、たとえそれが稚菜ちゃんの手作りだとしても褒められたのはお弁当だからね」
「きっとその後には、お前には似合わない弁当だなとか続くのよ」
「続かないよ」
とりまきの謎フォローは、食堂という場所のためかいつもより声の大きさは控えめだった。しかし3人目の子の辛辣さは控えめじゃない、いつも通りだ、なんでそんな辛辣なの。
「さすが王様と女王様、仲いいなーお前ら」
能天気な言葉を口にした佑真を、稚菜ちゃんがぎっと睨んだ。稚菜ちゃんは結構男子にも厳しい、真利くんを除いてだけれど。それがまた、女王様という噂を広めていったんだろうなあ。
睨まれた佑真は、さすがというか、そんな稚菜ちゃんの態度を照れ隠しと思ったようだった。「照れるなよ」とか言って笑ってる。まあたぶんそれは正解だ、稚菜ちゃん顔赤いよ。
「しかし改めて見ると、豪華なメンバーだよな」
佑真がぐるりとこの集団を見回してそう言った。
「王子様だろ」
と、まず真利くんを指す。真利くんが「いや、そんな」と照れたように笑った。そこに花が咲いた幻覚を見た。王子様だよ。
「学年一の天才に」
と、平胤を指す。平胤が自慢げに鼻を鳴らす、真利くんとは対照的な態度だ。
「女王様」
と、稚菜ちゃんを指す。稚菜ちゃんが顔をぷいとそむけた。腕を組んだその姿はまさに女王様といった風格。稚菜ちゃんが指を指されるといったぞんざいな扱いを受けたためかとりまきは何も言わない。いや、そこ言うべきじゃないの、指差すなって。
佑真が最後にわたしを指す。
「そんで、王様」
そしてそう言い切った。わたしは思い切り嫌な顔をしてやった。
「なんだよその顔」
「いや、その、王様ってのやめてくんない」
「やめろつったって、俺が言い出したことじゃねーし」
そう言って佑真は口をとがらせる。いや、まあ、たしかに。
「それはそうなんだけどさ、ほら、王様はすでに居るじゃん?わたしがそう呼ばれてたらクレーム来そうで怖いんだよね」
「王様って、生徒会長だろ?そんなに心が狭い人か?」
「狭いぞ」
え、とわたしたちは全員、ほぼ同時に声のした方を見た。
それは、平胤だったのだ。眉間にしわを寄せて、鬼気迫る表情で。
「あいつの心は、狭い」
平胤は、そう言った。
あまりに鬼気迫る表情なものだから、わたしたちは誰一人、平胤と王様の関係について聞くことが出来なかったのである。




