初めての呼び出し
日曜日のコーヒーは、思わずコーヒー豆を買ってしまうほどにおいしかった。
それはたぶんコーヒーの実力のほかにいろいろなスパイスがあったのが大きいのだろうと思う。そう、たとえば、友だちと過ごす休日とか。つまるところ充実の休日にわたしは浮かれていたのである。
「やけに機嫌がいいな、気持ち悪いくらいだ」
そう、それこそ平胤にこんな風に言われるぐらいに浮かれていた。むしるぞ。
そしてそれこそ、真利くんを見かけたら、おおいと声をかけてしまうほどだったし、平胤と共にお昼に誘ってしまうほどに浮かれていたのである。
その結果が、目の前で厳しい表情をしている数人の女子であるということを、あんた真利くんのなんなのという言葉でわたしはようやく理解した。やってしまった、うわあ怖い。
わたしが黙っていると、向こうはいら立ちを隠さずに、抜け駆けはやめてくれると言う。「王子様枠」をなめてた。まさかファンクラブが出来ているとは思わなかったよ真利くん、あんたすごいよ。
「ええ、と、ごめんね?」
とりあえずそう言ってみると、女子の目が鋭くなった。ほんとごめんて。
「その、せっかくのかわいい顔、そんな顔にさせちゃって」
「…は?」
わたしの頭は、恐怖で少し混乱しているのかもしれなかった。今口に出したようなことを思ってしまうのである。案の定女子も目を丸くした。ああ、でも鋭い目つきじゃなくなってかわいくなった、じゃない少し怖くなくなった。
「嫉妬する女の子はかわいいよ、でも、それで怖い顔させちゃうのは悲しい、かな、だからごめん」
「か、かわ…かわいい、って」
あれ、かわいいって言われ慣れてないのかな。だいぶ戸惑った様子だ。まあ、引かれてなければいいか。
しかし目の前の女子はキレイな黒髪を真ん中で分けて、かわいいんだけどなあ。強気な態度ながらちょっと幼めな顔のギャップというんだろうか、なんかかわいい。
「あ、あたしはあんたに、嫌がらせしようとしてたのよ、なんでそういうこと言えんの!」
「まだしてないでしょ?」
まあ、この呼び出しからのあんた真利くんのなんなのの流れが嫌がらせといえば嫌がらせだけど。
「それはっ、する前にあんたが!」
童顔ちゃん(仮)はそこでばっと両手を頬に当てると、急に蚊の鳴くような声で、かわいいとか言うから…とつぶやいた。かわいいって、あれ、そんなに嬉しかった?それともこれは引かれているのか?
ついに後ろに控えていた3人が童顔ちゃんを取り囲んだ。
「ちょっと!稚菜ちゃん繊細なんだから!」
「そうよ!言葉を選んでよね!」
「優しくされるのに慣れてないんだから!もうちょっとぞんざいに扱いなさいよ!」
3人はけんけんごうごうとわたしに非難の言葉をあびせかけてくる。童顔ちゃん、稚菜ちゃんっていうんだ、繊細なのか、優しくされるのに慣れてないのか。あと3人目の子はいいのかそれで。
「ええ、と、ごめんね?」
期せずしてわたしは同じ言葉を繰り返すことになる。
その後しばらくして復活したらしい稚菜ちゃんは、今日はこのぐらいにしておいてやるわ!と捨て台詞を吐いて去って行った。まだ友だちに肩貸してもらって歩いてたけど、大丈夫かなあ。




