件の日曜日
件の日曜日がやってきた。
わたしと平胤は件のショッピングモールで落ち合う約束だ。どうやらわたしのほうが早く着いたらしい。わたしは広場にある噴水の前で平胤を待つことにした。
しかし、日曜だけあって人が多い。家族連れも居ればカップルもちらほら。コーヒーショップ、混んでないといいけど。
少し待つと平胤が歩いてくるのが見えた。おまえ、走れよとは言わないけどもうちょっと焦るとかだな。
「すまん、待たせたか?」
「待った」
「一番高いの選んで構わんぞ」
「いや、怒ってないから」
平胤なりの誠意が見られたので、まあ待たされたことは水に流そう。
せっかく休日に友だちと出かけるのだからコーヒーショップに行くだけじゃもったいない、とわたしたちはまずショッピングモールをうろうろすることにした。まあ、そこそこの視線は感じるけれど、あまり気にしないようにしよう。
「なんだか、視線を感じるな」
と、思ったのだが平胤の方が気にしたらしい。メガネを触って、そわそわと落ち着かない様子だ。
「あんま気にしないほうがいーんじゃない」
「いや気にするなと言ってもだな、お前が」
「わたしが?」
平胤はそこで口をつぐんだ。わたしが、なんだというのだろうか。やっぱり周りの女子やお姉さま方に、隣の子なんなのよみたいな目で見られているのだろうか。やだそれ怖い。そんなこと意識しだしたら急に視線が怖くなってきたじゃないか。
「いや、あー、うん、お前が気にしていないなら、いいんだ、俺も気にしないことにしよう」
「なんかいろいろ気になるけど、まあ追及しても仕方ないか、食い下がるのはやめとくよ」
「ああ、そうしてくれ」
なんだかすでに疲れたような平胤に対して食い下がることはできなかった。
しかしなんだ、こうして見ていると平胤にショッピングモールって、似合わないな。
「平胤ってこういうとこ来るの?」
「お前俺をなんだと思って…いや、まあたしかにしょっちゅうは来ないが」
聞いてみると、やはり普段使いするようなお出かけコースではないらしい。へえ、と思わず笑ったことが平胤のプライドを刺激したのか、やつはきっとこちらを睨んだ。
「いや、来る、来るぞ、そりゃ自分から出向くわけじゃないが、幼馴染が…あ」
幼馴染が、と言いかけて平胤は片手で口を覆った。幼馴染、いるのか。
やはり、へえと思わず笑ってしまったのがいけなかった。平胤は、忘れろと言ってそれ以上話そうとはしてくれなかった。ごめんて。
せめてものお詫びとして、わたしもひとつ告白することにした。
「わたしもこういうとこは、幼馴染に引っ張られて来ることが多いかな、あいつにぎやかなとこ好きだから」
わたしの告白に平胤は、ほうと少し驚いた様子だった。それから口の端をつりあげて笑った。
「そういう幼馴染には、苦労するだろう」
平胤の言葉にわたしは深くうなずく。なんとなく、平胤との友情が深まった気がした。
歩いていると、通路の左側に画材屋があるのが見えた。
店頭に置かれたキャンバスを見て、わたしはつい「王子様枠」を思い出していた。本当、思い出すたび王子様だよなあってことを思う。特にあの温室で、日を浴びてその金色の髪がきらきらと輝くさまは、そうそう、ちょうどああいう金髪。金髪…。
「あれ、高波さん」
ちょうどその手に紙袋を持って、画材屋から出てきた王子様は紛うことなき「王子様枠」、真利くんだった。なんでだ。




