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友だち

 5月の連休のある一日、わたしは平胤と学校の近所にある図書館へ来ていた。


 花轟学園を運営する法人が学園生徒や地域住民へ蔵書を解放するために設置された図書館だけあってまず敷地面積が広い。外観はガラス張りのモダン建築で、いかにもおしゃれな図書館といった感じを受ける。正面玄関にはやはりガーベラをモチーフにした石の彫刻が鎮座している。

 わたしはこの図書館に来るのは初めてだけど、平胤は通い慣れているらしく先導をつとめている。



「普段からこういうところで勉強してんの?」

「そうだな、俺はこういう場所の方が好きだ」


そう答える平胤は、どこかいつもより楽しげに見えた。


 場所が変わったとはいえ、勉強会はいつも学校の図書室等でやっていることと変わりない。お互いに演習問題を解く。時には相手に出題するために自分で演習問題を作ってみたり、まあそれは息抜き程度にやっているけど。でもやっぱり平胤の方が頭がいいのは明白で、質問をするのはわたしばかりになる。運動もそうだけど、やっぱり一朝一夕じゃだめだなあ。


 ところで最近気が付いたけれど、平胤は時々じっとわたしを見ていることがある。なにか用があるなら言えばいいのにそういう時やつは「なんでもない」としか言わない。あ、また見ている。



「なんかあった?」

「あ、いや、なんでもない」



ほら、また言った。



「昼飯、早めに食べるか?」

「ああそうだね、頭使うとお腹減るしそうしようか」



この私立図書館にはもちろんカフェも併設されている。外へ出たって何もないし、お弁当でも持ってこない限りは必然的に食事はここでとることになる。入口のカウンターでわたしはサンドイッチをセットメニューで、平胤はナポリタンとコーヒーをオーダーして席に着く。


「おまえ、私服はなかなか女らしいじゃないか」

「ケンカ売ってんのか」

「いや、これでも褒めてるんだ」


やつがメガネを触ったので、本当に褒めたつもりだったのだろう。平胤は戸惑ったり、思わず本音を言ってしまう時にはメガネを触る。だから思うんだけど平胤って。



「あんたって頭はいいけど不器用だよね」

「不器用、まあ、そうかもしれん」


平胤が認めたところで、カウンターで注文を聞いてくれたお姉さんがオーダーを運んできてくれた。


「上から目線の言い方も、不器用だからなんじゃない?」

「俺は上から目線か?」

「まあね」



だから友だちいないんだなこいつ。



「そんな不器用な人間に、なぜおまえは付き合ってる?」

「それは」



まあ、上から目線の物言いに腹が立つこともあるけれど。



「あんたの頭の良さとか、努力思考とかそういうところを認めてるからかな」

「認めて…」

「嫌なところもあるけどさ、いいところは認めてるから一緒に居る、友だちってそういうもんじゃない?」


少しだけ勇気を出して「友だち」という言葉を使ってみた。平胤の反応は思っていたより悪くはない。

驚いたような顔をしたあと、あごに手を当てて少し考え込んだ。


「友だち、友だちか」


それからニタリと笑う。



「そうだな、俺もおまえを認めているぞ」



平胤は普段からそういう顔で笑っていればもっとモテると思うんだけどなあ。







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