明日から本気出す
わたし―高波心慈の生きている世界が逆ハーレムの世界だと気が付いたのは中学三年生の冬だった。
きっかけは受験予定である高校のパンフレットを眺めていた時である。
そこには生徒会長の華々しい活躍がこれでもかと紹介されていた。どうやらいいとこのご子息らしい。
スポーツ推薦ですでに同じ高校への進学が決まっていた幼馴染によればついたあだ名は「王様」。
日本でも三本の指に入る財閥の、とはいえ次男であるようで、完全な金持ち学校ではなくそこそこランクの下がる金持ち学校であるこの高校に入学したらしい。
しかし持ち前の美貌とカリスマ性と内に秘めた野心によって学園内で王者として君臨し、異例の政権交代で1年生にして生徒会長の座を得た彼は次男ながら「王様」になった。
そこでわたしは気が付いたのだ。特になんの根拠もないけれど本能的に。
ここは逆ハーレムの世界なのだと。そしてその主要人物の中でも最たるがこの「王様」だと。
ただその主人公がわたしであるとは限らない。しかしすぐに気が付いた。
生まれた時から隣にいて、ずっと一緒に育ってきた、成績優秀というほどではないがスポーツ万能で顔も良く性格も頼りがいのあるいい男。
そんな幼馴染が存在していることを思い出したのである。
そもそもなんとなく感じ取っていた、こんなできた奴が幼馴染だなんてわたしは前世でどんな徳をつんだんだろうなあとか思っていた。
この幼馴染のせいでちょっとした嫌がらせを受けたこともある。こいつに守ってもらったこともある。
記憶はおぼろげだがあまつさえ幼児のころに結婚の約束もしたような気がする。
なんとなく感じ取っていたことがこの時確信に変わったのだ。
生まれた日も一緒のこいつは逆ハーレムにおける「幼馴染枠」なのだと。
それからわたしはちょっとした嫌がらせのフラッシュバックに苦しめられた。
いやだ、あんな思いをするのはもういやだ。逆ハーレムによって女子に嫌われたくない。いやがらせされたくない。
だとすればこの高校を受験しなければ?合格しなければ?
そんな考えも頭をよぎるがわたしの理性は「現実的ではない」と待ったをかける。
待ったの理由としてまず一つ目は、すでに願書を出した後であるということだ。
そして二つ目は、両親を説得する自信がまったくもって無いことだ。
結果としてわたしの感情は理性の待ったを受け入れた。
では代替案を考える作業へ移ろう。
極力努力はするが主要人物のひとりが幼馴染であるため、関わらないという選択肢は難しいだろう。
だとすればどうしたらいいか?
わたしが考えたことは、もしかして女子に好かれる存在になっておけばいざというとき味方が増えるのではないか、ということだった。
具体的な例を出すならたとえば宝塚の男役のような、女子にモテる女子になるということだ。
そう、たとえばお姉さまと呼ばれるような女子・・・。そんな女子にわたしはなりたい。
いや、なりたいか?正直女子にモテても困るような気がする。でもなりた…いや、うーん、なりたく…。
いや、ここは自分をだまそう。そんな女子にわたしはなりたい。
では具体的に何をするべきか?女子にモテるにはまず顔か・・・顔は幸いにも両親が整った顔立ちに生んでくれたので問題はなさそうだなと鏡をみて確認する。体形維持はさすがに己の努力だけれど。
次、勉強だ。これは努力しかないだろう。がんばる。
次、運動神経。これは・・・要努力案件だ。とりあえずジョギングをして基礎体力を作るところからはじめないといけないかな。あと筋トレ、そしてストレッチ。
今考えるだけでも課題は山積みだけど、とりあえず受験勉強の合間にジョギングをしよう。
そしてとりあえず今日は寝よう。