01 小説の原稿は授業中に書くもの
表現規制のプロット - 筋書き -
三時間かかった力作ができあがると、ボクはやりきった表情を浮かべた。
「ふぅ、できた」
誰かに自慢するかのように、思いっきり声を出したかったが、今は授業中である。
とはいえ、周りの生徒は先生の目を盗みながらスマホを使って、動画を見たり、ゲームをしている。先生も気づいてはいるが、何度も注意しても聞かないので、半ば諦めていた。
――投稿、投稿。
スマホのブラウザを立ち上げ、小説投稿サイト「小説家になるもん」にアクセスする。メモ帳に書いた文章をコピーして、原稿としてアップロードする。
投稿しました。反映まで数分かかります。
この文字を見ると、なんだか嬉しくなる。このボク、貴崎伸一の書いたネット小説が、全世界のヒトビトが見てくれるのだ。
貴崎伸一 - キサキシンイチ - 、公立S北高校に通う高校二年生。クラスの中であまり目立たない男子生徒であり、成績も運動も平凡な高校生だ。
しかし、他の高校生よりも誰にも負けないものが一つある。それは創作、いわゆるネット小説だ。
現在、ボクは小説投稿サイト「小説家になるもん」で佐川方 - サガワホウ -というペンネームでネット小説を書いている。本が好きだから、物語が書きたいからというわけではない。
そもそも、小説という世界なんて、興味を持っていなかった。むしろ書くことが嫌いだった。読書感想文で無理やり感想を書かされて、それをクラスで発表されて笑われたとき、もう二度と物なんて書いてやるかと思った。
しかし、高校に入ってから小説を書くことになった。始めはどう書けばいいのかわからなかったが、師匠と呼べるヒトから小説の書き方について手取り足取り教えてもらって、それなりのモノを書けるレベルまでになった。
そして、今、書いているのが、連載ネット小説、『暗号師の情報書換 - エニグマチート - 』だ。
地下鉄で事故死した少年が異世界ルドラに転生し、手持ちのタブレットPCから、この世界で登場する人物やアイテムのデータを書き換えて、都合のいい世界に変えまくる冒険活劇ライトノベルだ。
魔導器使いのシロリス、聖騎士ラグリマ、よくわからない女賢者あやめとパーティを組んで、ギルドから出されるクエストを達成するのがこの物語の筋書き - プロット - だ。
すでに100万字まで執筆し、多くのユーザーがボクの話を読んでくれている。次に本になるのならこのネット小説だ! と、噂されている。
ボクはいつもこの物語のことばかり考えて小説を書いている。もはや、小説を執筆することがボクのライフスタイルの一部となっている。
物語に一つのピリオドをつけた時はなんとも言えない達成感がある。ちょっとした恍惚感、それが小説を書き終えた時に思うことだ。
そんな達成感の余韻に浸っていると、授業終わりのチャイムが鳴り響く。
「さて、オマエ達、スマホをイジるのはいいが、勉強しないと良い社会人になれないぞ」
先生は月並みなことを言い残し、教室から去っていた。