03 光を撃つ
奇策を思いついたオレはタブレット型PCを取り出し、ポケットの中にあった薬莢の情報を書き換える。
「シロリス!」
「何さ!」
「これを使え!」
シロリスが薬莢を受け取ると、それを古代銃に入れる。
「何処を狙うの!」
「どこでもいい!! 絶対に当てろ!」
「わかった!!」
シロリスは急いで英雄王ジークの後ろに回る。英雄王ジークは彼女の不審な動きに気づき、後ろを振り向こうとする。
「させない!」
ラグリマは大盾を放り投げ、手持ちの槍で英雄王ジークの気を引こうと彼の腹を貫こうとする。しかし、英雄王ジークの腹にかすり傷一つすらつけることもできず、その槍が叩き折られてしまう。英雄王ジークは口角を歪ませ、ラグリマへと近づいていく。
されど、ラグリマの瞳に輝きが灯る。
ボッオォ!!
質量の持つ何かとぶつかり、英雄王の表情は慌てふためいたカオとなる。
「だめですよ。ぷりてぃなあやめさんを見てくれないと」
あやめの放った紫の魔弾が英雄王ジークの右肩にヒットする。身体が揺らいだ英雄王ジークはあやめに殴りかかろうと、その場で思いっきりジャンプする。
「ありがと!!」
シロリスは古代銃の引き金を引き、光を放った。英雄王ジークは跳んでおり、空中で身動き一つ取ることができず、シロリスの放った光の弾丸を受けた。
光の軌跡が英雄王ジークの背中に当たる。英雄王ジークはその場に落ちて、苦しみだす。不死者がまとった腐臭の匂いが消え、腐った肉体を好んでいた五月蝿は彼を見捨てるように去っていく。剥き出しになった筋肉も、人間の皮脂を包み込み、不死者の王は生者へと戻っていた。
英雄王の表情から喜悦が消えた。代わりに、地獄の底にいるような苦しみを見せる。英雄王と名乗った癖に床の上でもがき苦しむ姿はまるで陸に打ち上げられた魚のようだった。
「いったい、あの弾丸に何を入れたの?」
シロリスは、英雄王ジークが地面に伏せて暴れ出した姿を見て、オレに質問する。
「死者蘇生の珠」
「死者蘇生?」
「魂を身体に定着させ、そいつをこの世に生き返させる秘宝の珠。愚王が死人だったからそれを使わせてもらった」
「確かに、愚王は幽霊だけど、盗人の身体を奪ったんでしょう?」
「そうだよ。でも、その身体を奪うために殺す必要があったとしたら」
「……あ」
シロリスはオレの言いたいことを意図したことがわかったようだ。
「愚王は生きていた盗賊を殺してから、死者として地上に舞い戻った。更に、邪龍の血を浴びて不死者となっていた。本来なら邪龍の血は立ち上がることすらできない激痛を持つ猛毒だけど、愚王の身体は死者のモノだから神経は死んでいた」
「そういえば、邪龍の血を浴びたバカな依頼者がいたわね……」
「だから、あの愚王を生き返らせることで、死んでいた痛みを知ってもらったんだ」
「いつもながら、えげつないことをやるわね」
英雄王ジークはジタバタと暴れ、「殺してくれ殺してくれ」と、うめき声をあげる。英雄王と呼ばれた男は何処へやらだ。
「これでクエストは完了だ。帰るぞ」
「いいの? あのままで」
ラグリマが心配そうに尋ねる。
「できれば、痛みを解いてやりたいが、残念だがそれはできない」
「そう」
「それに、他人の身体を奪ってまで生きようとするヤツなんて、無視した方がいい。命は大切にするべきだ」
この世界へ転生してきたオレが言うセリフじゃないが、そんなことを言いたかった。
「カナタさんカナタさん」
あやめは耳元で話しかけてくる。また、ろくでもないことだろう。
「あやめ、残念だがオレはチートを使ってない。ちゃんと、正規の手続きどおり、アイツを倒したぞ」
「やっぱり、ち~とです。……死者蘇生の珠なんて、まだ、手に入れてないのに」
「あ」
そういえば、そうだった。
昨日の晩、宿屋で何もやることがなかったから、アイテム図鑑から未知のアイテムは何かなと思い、コードブレイクをしていたことがあった。その時、死者蘇生の珠を手に入れるコードは発見したのだ。
「でもカナタさんすごいです。ちょろいんなあやめさんを落としました」
「まったく、ウソだろう?」
あやめは急に頬を赤くなり、視線をそらした。そこは黙るな! と、オレの声は大きく響いたのであった。