01 英雄王ジーク、玉座を立つ!
暗号師の情報書換
廃墟の玉座から立ち上がる巨躯、蝿の王のごとく彼の周りに五月蝿がまとわる。彼の四肢から腐敗臭と共に煙が漂い、鼻につく。
――これが英雄王ジークなのか?
歴史に名を残した英雄王も何百年も経てば腐肉のカタマリか。いや、彼の身体に息づく筋肉は腐肉などではない。血管が浮き出て膨れ上がる筋肉は歴戦の猛者を想像させる。
タブレットPCを使い、英雄王ジークの身体調査を行う。英雄王ジークは邪龍の血を浴びており、どんな攻撃も無効となる不死身の身体だと分析する。
英雄王ジークは動く。狙いはオレたちの命か。
「弱点は!」
魔導器使いのシロリスが迫り来る巨躯に対して二丁拳銃で応戦しつつ、オレから情報を得ようとしている。
「ない!」
「ないの!!」
聖騎士ラグリマは英雄王ジークの放つ鉄拳を盾で守り、前線で戦う味方をサポートする。
「東の国でこんなことわざがあります。あきらめがかんじんかんじん」
賢者あやめはそんなことを言った。
「諦めるな!!」
オレはすかさず、あやめにツッコミを入れる。
「どうして、こんなことになったのやら」
オレ達は英雄王ジークを倒すために廃墟ジグリントへ来ていた。
元々、亡霊である英雄王ジークは墓を荒らしていた盗賊の身体を奪い、この世へ生き返ると、近隣諸国の国々に対して宣戦布告を行った。
英雄王ジークが近隣諸国に戦争を仕掛ける前に彼を討つのが今回のクエストである。廃墟ジグリントの玉座の間で魔物たちと作戦を練っていた所で、不意打ちを仕掛けた。魔導具の爆弾を撃ち込んだ所までは良かったが、英雄王ジークは退屈そうに玉座の腕置きにもたれかかっていた。
不死者となる邪龍の血を浴びていたなんて、そんなのありかよ。考えてみれば、何の策を立てずに戦争を仕掛けるはずもない。想像力が足りなかったな、と、反省していた。
「こんなバカげたことをするヤツはきっと弱いと言ったから参加したのに!!」
シロリスはラグリマに文句を投げつける。
「私だって、愚王だと思っていたから! なのに、不死者で! 弱点がないなんて!!」
「そう、これはち~と。ち~とだから仕方がない。死んでも、そのままイベントが起こるわけじゃないからちょいと困った事態。だからち~とにはち~とで対抗するしかない。――ねえ、そうでしょう、カナタさん」
あやめはオレに尋ねかける。やはり、この賢者、オレがチートを持っていることを知ってやがる。
「何を言ってるのかな、あやめさん」
「カナタさんを責めているわけじゃない。ただ、この愚王を倒さないとあやめさんたち、おじゃんよ」
「おじゃんって」
「あやめさんが時間を作るから、カナタさんはそのたぶれっとぴーしーで、弱点でも作って」
あやめはオレを背にし、英雄王ジークの方を向く。
「どうして、そんなことができるってわかるんだ?」
「だって、あやめさん、賢者だもん」
あやめはそういって、英雄王ジークに、魔弾をぶつける。シロリスに翻弄されていた英雄王ジークはあやめに視線を向け、そちらに攻撃を仕掛ける。
――まったく、弱点を作れって。弱点のないヤツに弱点を作るチートコードって、あったけ。