008
「これじゃないのか?射撃部が使ってる銃って、同じように見えてどっか違ったりするのか?」
「半分正解かな…」
というか銃そのものが違うんだよね、と南条は付け足した。
「兄がやってたのはクレー射撃のほうよ」
「くれーしゃげき?」
なんだそれは。
「簡単に言うと、横切る物体に照準を合わせて撃ち落とす競技よ。確かにこういうビームライフルの競技もあったけど、兄がやってたのは違うほう」
「…高難易度の競技だな」
半端では無い動態視力が求められそうな競技だ。
「…ん」
僕はさっき浮かんだ疑問を南条に聞いてみた。
「そういえばこの学校、射撃部なんてあったっけ?」
「もう廃部になったわ。兄が学校を卒業して、すぐにね」
「ということは…」
「ほとんどの銃が処分されてると思うわ。兄のも、もしかしたら残ってないかも知れない」
廃部か。
いったいいくつの部活が生まれて潰えてを繰り返してきたのだろう。
「なんか、銃に特徴は?」
「引き金の上にS.Nって彫られてるわ」
「ふうん」
そして講義室を見渡す。
「………」
「………」
どうやら考えた事は同じらしい。
「探そうか?」
「捜そうね」
ここにあるかも知れない、という予想は見事にはずれた。出てきたのは精々埃だけである。
「無いみたいだな」
「うん…」
奇跡の確率にかけても出てこないだろうと思っていたので、この辺は予想通りだ。
普通講義室から銃が出るか。
出たら大問題だ。
「参考までに聞いておくが、仮に銃が見つかっても持ち帰れないと思うぞ?あくまで学校の所持物だ。難しいんじゃないのか」
「それは、なんとかする」
「まあ…兄の遺品だと言えば持って帰れないということもないだろうが…」
「言ったら確実に持って帰れないでしょ」
「…なんで?」
「だってクレー射撃は、物を撃ち落すのよ」
「………?」
いや、それはわかっているが。
すると、南条は途中途中間を開けて言ってきた。
「う、ち、お、と、すのよ」
「あっ、そうか」
それは持って帰れないな。
「実弾、か」
「危ないからね、先生は止めると思うよ」
「ふうん…」
下手すりゃ人が死ぬ、って事か。
「そろそろ帰るね」
「あ、そ。じゃあ」
「じゃあねー」
南条の背中を見送ったあと、僕は講義室の鍵を閉めて溜め息をついた。
「はあ…」
やっと肩の荷が下りた気分だ。よろめくようにしながら鉄の長イスに座る。
長イスと言っていいのかは甚だ以て疑問だった。だってそれは、鉄製の直方体が床に寝そべってるだけなのだから座る物かどうかさえ怪しい。背もたれはなく、オマケに表面はデコボコしている。尾底骨が当たって痛い。何とも座り心地が悪い。
「………」
他人の件だ。あくまでも他人の件だ。
なのに、
「銃、探すの、手伝おうか」
何故か僕は、銃探しに無性に協力したくなってきたのだった。
「ん…待てよ、この部屋が使われていた時代に在校していた姉貴だったら何か知ってるかも知れない」