007
南条を連れて行った事により、あの講義室の惹句である自由空間という単語は早くも崩壊した。
部屋の在り処を知られた以上、報告されるのは時間の問題だと思った。寂れた部屋で何か物音が聞こえる、なんて噂を聞きつけた奴等が肝試しを始めそうだ。ということは情報の発信源はこいつという事になる。なんとかしなければ。
居場所はここしか無い。これを失えば僕の居場所はトイレの個室しかない。トイレで飯を食えと言うのか。おいしくないだろうが。
それか保健室登校か、それこそ丁重に断りたい。ガキじゃないんだから。
「それでなんなんだ。できれば手っ取り早く」
放課後、約束通り人目につかない場所、すなわち七ニ四五講義室へ南条を案内した。
…またヘマをおかした。
別に講義室じゃなくても良かったのに。
「………」
死にたい。
バナナの皮を設置して全力疾走して滑って転んで頭を打って死にたい。
元々は「来るのが遅いだけだ」の言葉通り遅くくればこんな事にはならなかったのだ。
無理して早く来る必要は無かった。やっぱり僕阿呆だ。いっぺん死んで馬鹿を治すかあるいは馬鹿でいいからいっぺん死んだほうがいい。
「…早く喋ってくれ」
「う、うん…」
おどおどした調子で話す。何を恐れているんだ、南条。
「その捜し物の事なんだけど」
「あぁ」
「その前に一つ、話していい?」
何故そこで勿体ぶる。
「私には兄がいたの」
かなり重々しい口調で、南条は話し始めた。
「この学校を卒業していて、在学中は射撃部に入っていたわ。兄弟自慢になるかもしれないけど、実力は持っていた。全国大会とかに出たって言ってたからね」
「………?」
凄いか凄くないかは別として、ここで僕はある疑問を抱いた。
「ただ、その日を境に兄は変わった。まあ運動部ではよくある話なんだけど、その実力を妬む人達が兄に対して嫌がらせをするようになった。最初は我慢できたんだけど、次第にエスカレートしていって…」
「部活を辞めた、という事か」
「そう…だね。結局続けてきた射撃もお開きにしちゃって、大学に入学しても履修登録した講義以外しなくなったんだ。それからちょっとして、大学三年の時かな、私が、もう射撃やんないのかって聞いたら、始めるって言ってくれたんだ。あの時は嬉しかった」
「そりゃ良かったな」
「ただ…」
「ただ?」
「そういった次の日、兄は交通事故で亡くなった。射撃を始めないまま、軽トラに跳ねられて…」
「………」
聞いてて気持ちのいい話ではなかった。
あまりこういった不幸は好きではないのだ。
「この学校には、多分兄が使っていた銃がある。それを遺品として持ち帰りたい。私はそれを捜しているんだ」
「なるほど…」
そう簡単に見つかる、というような物じゃなさそうだが。
「ん…?」
そういえばこの部屋、銃があったはずである。それじゃないのか、遺品って。
「南条」
「ん?」
「これじゃないのか?」
立てかけてあった銃を南条に渡す。しかし南条の顔は、決して喜びに満ちた顔、ではなかった。
「これじゃない…」
一回も改行使ってない…
いま気づいた
すげえ