006
「ここにいたんだ…」
何故か安堵したような表情で喋りかけてくる。
「どうして…ここに、いるの?」
「…色々事情があって」
「ふうん…」
南条はにっこりと微笑む。
僕にはその表情が恐怖の笑顔にしか見えない。
「駄目じゃない、ここ、学校の講義室でしょう。勝手に入ったら」
「…お前は何故僕をつけ回すんだ」
「へ?」
疑惑の表情を浮かべる。この女、とぼけているのか。
「私は君に用事があって探してただけだよ、つけ回してなんてないって」
「………」
なら振り向く度に隠れていたのにはどういう意図があったのやら。
「…兎に角、教室戻ろ。ホームルーム始まっちゃうし」
「…あぁ」
鍵をかけ、南条と共に教室へ向かう。
「………」
何故、講義室の存在を知っている?
四時限目終了。恐らく多くの高校生にとって一番の空腹時である。ここで昼食を抜いたら僕でなくとも多分卒倒しそうだ。
弁当を取り出す。本当は講義室で昼食をとりたいのだが、
「食堂、行かない?」
やはり南条が付いてきた。
また振り切ってやろうかと思ったが、後で面倒な事になるのでやめた。
「別に、いいけど」
渋々了承する。こいつ一体何者なんだ。
弁当を食堂に持参し、食べる。食堂従業員にしてみれば非常に迷惑な話だが、今はどうでもよかった。
少なくともこいつが僕にとって迷惑だ。
「なあ…南条」
「ん?」
南条が箸を止め、こちらを向く。その淀みのない表情に質問を一旦躊躇したが、我慢して聞く。
「用事って、なんだ?」
「………」
今度は黙るか。
「…捜し物をしていて」
「捜し物?」
「…というか、あまりここじゃ詳しく話せないんだけど、どこか人目につかない場所、無い?」
遠まわしに講義室へ入れろと言ってるのか。この女、恐るべし。
「…わかったよ、放課後、講義室へ来い」
「あ…うん」
ここで初めて、僕以外の人間があの部屋に入る事になった。
姉貴に知られたら殴られそうな話だ。