95 もふ…もふもふもふ!
勇者「なぁ。魔王的には、良い魔王って、どんなんだと思う?」
魔王「毎朝ラジオ体操を欠かさない」
勇者「あー。それは大事だね、うん」
魔王「寝たきりになって部下にメーワクかけたくないからね~。終活もしてるよ。」
魔王「新聞も読んで、数独解いて~」
勇者「そうだね。ボケないために、頭も使わないとな」
魔王「犬を散歩して、猫に餌やって~」
勇者「猫は散歩しなくていいからな、うん」
魔王「亀を眺めて~、金魚に餌やって~」
勇者「うわぁ。お前、いっぱい飼ってんのな。他に何がいるの?」
魔王「ん? イグアナと九官鳥もいるね。みんな、家族みたいなものだよ」
勇者「・・・家族、か。俺の父親は、魔物と戦って死んでしまった・・・」
魔王「イグアナと九官鳥は、お前を置いて死んだりしない。いつも、励まし、慰めてくれる」
勇者「・・・イグアナ」
魔王「なんだテメエ。うちのイグアナの面に文句でもあんのかよ。火だって吹けるし、人間どものことだってバリバリ骨ごと食うし! 可愛いんだよ!」
勇者「へ~、イグアナって、そんなもん食うんだ? 知らなかった」
魔王「まあね。個体差もあるよね。九官鳥も、粟より稗が好きでさ。混ぜとくと、片方だけ残すのな。グルメだよな~」
勇者「ほほ~。九官鳥は、なんかしゃべるの?」
魔王「いつも言ってるよ。『・・・みんな、死んでしまえばいいのに』って。どこでそんな言葉覚えたんだかな~」
勇者「あはは。悪い言葉ほど、喜んで覚えちゃうんだね~、わかる、わかる」
魔王「お前ん家は、何か飼ってないの?」
勇者「飼いたいけどさ~、俺ほら、世界を救うために旅してるだろ? 勇者が自宅でパソコンいじってるってのも、ガッカリしちゃうだろうし。だからね、今のとこ、何も飼えないかな」
魔王「フェレットとか、どうかな? 連れて歩いても平気な動物だよ。もふもふでよくね?」
勇者「・・・ああ、いいな。いやされるな。世界の危機なんか、忘れてしまいそうだ」
魔王「『たとえ明日世界が滅ぼうとも、今日、私はリンゴの樹を植える』ってやつだな。一秒後に世界が滅ぶとしても、今、この瞬間だけは。ネコたんをもふもふしていたい」
勇者「」グサッ
魔王「痛い! 勇者っ! いたいいたいいたい!! 俺しぬ、しんじゃうっ!!」
勇者「ケモノ談義に俺が和むとでも思ったのか? ああん? 魔王。貴様がどれだけの人間を苦しめてきたのかーー思い知れ」
魔王「もふもふもふもふ」
勇者「・・・魔王。お前・・・」
魔王「ぜぇはぁ。死ぬ前に、ネコたんをもふもふしてくれるわ! ただではやられぬ! 我が滅びたとて、いずれ第2、第3の我が現れ、ネコたんをもふもふするであろう! 覚えておけ! 人間どもめ!!」
勇者「・・・くっ、魔王っ!」
魔王「フハハハハハ!!!」もふもふもふ・・・ぱたり
勇者「後味の悪い戦いだった」
勇者「ネコたんを連れ、俺は、崩れゆく魔王城から脱出した。犬と亀と金魚と九官鳥とイグアナも、もちろん、一緒だ。俺には、この動物たちを飼う責任がある。ーー動物の飼えるアパート、探さなきゃーー」
勇者「・・・魔王を倒しても、日常って、続いてゆくんだなーー」
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