9 勇者と魔王と山田課長
日本、東京のオフィスーー午後、五時。
部長「山田、今日飲みに行くから付き合えー」
山田「駄目です、部長。今日、僕は世界を救わないといけないんです」
部長「山田のやつ、相変わらずオタクなのか、変わらんなぁ」
山田「素敵な仲間たちが僕を待っているんです! じゃ、お先に失礼します」
*
魔王「魔王です」
勇者「勇者です」
山田「山田です」
魔王・勇者「なにごとっっ!?」
山田課長「わたしはつい先刻、不思議な体験をしました。
いつものように部長との呑みを断って早々に帰宅し、速攻でオンライン・ゲームにログインしたわたしは、不可思議な雷に打たれ、気づいたら、ここに」
魔王「あ~、よくあるな。誰かが異世界から呼んだんだよ」
勇者「俺の知り合いにもたまにいるな、異世界から呼ばれてきたやつ」
山田「ああ、安心しました。よくある症例なんですね。ということは、治療法も確立されている。そういうものですよね?」
勇者「治療法? 今すぐPCの電源を切ってドブに投げ捨てるんだ!」
山田課長「そ…そんな。給料3ヶ月分をはたいて買った新型Mocなんですよ? ひどい…それはあんまりだ」
魔王「でもちょっとないよなぁ、超魔法技術の箱に吸い込まれて異世界にinなんて」
勇者「ないない。ハマリすぎたヤツの妄想でしかない」
魔王・勇者「だよねぇ~」
山田「ひ、ひどい・・・、あんまりだ! 暗黒の魔力で大魔王を召喚してやる!」
魔王「うっわ、マジか・・・。あのおっさんの顔とか見たくないんですけどー」
勇者「魔王より偉い魔王か・・・。ちょっと興味あるな」
ドドーン ←落雷
大魔王「なに? 今、野球見るので忙しいのよ。後にしてくれない?」
山田「えっ・・・え??」
そこにはカップラーメンを片手、もう片手に缶ビール。テレビの野球中継を見ながらささやかな晩餐を楽しむ企業戦士の姿が。
大魔王「ちょっと魔王! なにやってんの。アタシのことは、アナタが倒されるまで放っておいてくれるって約束でしょ?」
魔王「・・・文句ならそこの山田さんに言ってください。」
大魔王「・・・誰?」
山田「まじっすよ・・・頼みます、みなさん。明日、無断欠勤とかありえないです。せめて電話、スマートフォンとはいいませんから公衆電話。それがなかったら電報でもいいんです。郵便局どこですか」
勇者「俺、ちょっと可哀相になってきた・・・」
魔王「俺も・・・」
大魔王「〔ずるずずず〕」
魔王「大魔王様、こいつを帰してやる方法とかないの?」
大魔王「アナタの魔力でちょっと弾いてやれば? 失敗すると、どことも知れないもっと異世界に行っちゃうかもしれないけど」
勇者「まあ、仕方ないな」
山田「ちょっとみなさん!?」
魔王「じゃあ、まあ、こんな感じでいいのかな」
勇者「いんじゃね? よく分からんけど」
山田「やめてたすけてゆるしてぇえええ!!! ・・・・・・・」
*
山田「・・・・・・・はっ!?」
窓の外では、スズメたちが平和な朝を告げている。
山田は身を起こすと、手元にあったリモコンでテレビのスイッチを入れた。
たわいない朝のニュースが流れてくる。
山田「ああ・・・、夢かぁ、だよねー、よかっ・・・」
ニュースキャスター「・・・・に現れた2人組みですが、『勇者』と『魔王』であると言い張っており、職務質問に住所も答えられない様子。現在、警察ではこの2人の行方を追って・・・・」
山田「・・・・平和だなぁ」
おしまい。
あとがき
お気に入り登録3件目&4件目、ありがとうございます!! かろうじてまだ続きます(笑)




