89 勇者と魔王とドーナツと
勇者「なー、まおうー。魔王城にあれはないの? ポン・デ・リング。俺あのもちもちの食感が好きなんだよね! 食べる前に五分くらいつつき倒してからいつも食べんの。サイコー。ねぇ、で、どうなの。ないの?」
魔王「……。」
部下A「……。」
部下A「ゆうしゃさん……」
魔王「いや、いい、部下A。俺様が言う」
部下A「魔王様……! でも、」
魔王「いや、かまわん、部下A。ここは俺に任せてお前は掃除洗濯お料理を済ませるのだ」
勇者「もっちもち~、もっちもち~」
魔王「……勇者よ。よくぞここまでたどり着いたな……!!」ゴゴゴゴゴ
勇者「ん?」
勇者「たどり着くも何も、昨日お前の部屋に泊まったよね? 夜通し大富豪やったよね? PS4で、レーシング・ゲームやったよね? 落ちモノパズルゲームも遊び倒したし。あとなんかやったっけ?」
魔王「……うん。ごめんね勇者。魔王城にポン・デ・リングはないんだ」
勇者「ないのかー。残念」
部下A「魔王様……」ほろり
部下A「ていうか、勇者さん、毎日毎日、魔王城に何しに来てるんです。」
勇者「……え? だって居心地いいし」
部下A「なんか今、聞ちゃイケナイ台詞聞いたーっ!! ダメ! 勇者さんがそれ言っちゃダメ!」
魔王「そうだぞ、勇者。いくら魔王城が冷暖房完備で掃除も行き届いた親切設計とはいえ」
勇者「コーヒーとお茶飲み放題だしな」
部下A「炭酸飲料とか、甘いジュースもありますよ」
勇者「屋上にビア・ガーデンあるしな」
勇者「だから、あとドーナツもあればいいなーって」
魔王「……あのな。お前さ、世界を救う気あるわけ? 人間どもの希望なんだろ? お前の普段の態度見てるとさ、なんかもっとこう……。利己的なものを感じるんだ」
勇者「……はぁ?」
魔王「人間どもは、日々、我が魔王軍の猛攻にさらされ、街は陥落し、罪のない一般市民なんかも虐殺されちゃってるわけ」
勇者「うん。知ってる」
魔王「でね。お前は、魔王城に日がな一日居座って、俺様にドーナツ持ってこいとか要求したりしてるわけ」
勇者「うん。そうだね」
部下A「……、なにか、疑問とか感じないんですか?」
勇者「……、だから、なんでポン・デ・リングがないのかなぁって……」人差し指つきあわせてつんつん
部下A「人間たちは、人選間違えたんじゃないですかね」ひそひそ
魔王「なんかねー。たしかにね。コイツ見てると、真面目に世界征服してる俺ってどうなのって疑問感じちゃうなぁ……」ひそひそ
勇者「はむはむ。食パンうま~。何もつけないで食べる食パンうまー。あのね、白いところを、こうやってぎゅーって丸めて食べると美味いんだよ」
魔王「はー……」
部下A「はぁぁぁ」
☆
僧侶(勇者の仲間)「勇者さーん。今日も魔王城行ってきたんですか? いいな~。あたしも行きたい」
勇者「うん。冷房効いててサイコーだった。ウォータースライダーとか、流れるプールとかもあったし」
僧侶「わぁ! たのしそーですぅ。あたし、水着買っちゃおうかなっ! 勇者さんを悩殺しちゃいますよー!」
勇者「マジで!? 俺、僧侶にノーサツされちゃうの?」
僧侶「はい/// もうもう、スッゴいの買っちゃいますから!」
盗賊(勇者の仲間 その2)「……俺、孤児院のトモダチを救いたくて、勇者の旅に同行したんだけど」
勇者「おう、盗賊。お前のピッキング技能にはいつも助けられてる。世界を救うには欠かせない技術だよな!」
盗賊「……宝箱、な。人様の家のドアじゃなくて宝箱な?」
僧侶「盗賊さんは、ちょっと細かいと思うんですよぅ。宝箱も、誰かの家のドアを突破して預金通帳盗ってくるのも、世界を救うっていう大義の前には同じだと思うんですぅー」
盗賊「違ぇし! オレ、盗みからは足洗ったし! もうしないし!」
勇者「盗賊細かいな~。眉毛とか手入れしてそう」
僧侶「脇毛も欠かさず剃ってそうですよね」ヒソヒソ
盗賊「何のハナシだよっ!?」
勇者「え? だから盗賊の体毛の話」
盗賊「……。」
勇者「脱毛クリームとか使ってるのかな?」
僧侶「あぁ、ありえますね。エステも行ってるかも」
勇者「鼻毛も毎日抜いてると思う?」
僧侶「……う~ん。どうですかね。鼻毛って、そんなに伸びるの速くないじゃないですか? 一週間に一回くらいかもしれませんよね」
勇者「あー、なるほど」
盗賊「……。」
僧侶「あたし、盗賊のスネ毛が見たいんで、ちょっとズボンまくって見せてくれます?」
勇者「あ。俺も俺もー!」
盗賊「お前ら、世界を救う旅はどうなったんだよ!! 魔王城まであと300メートルじゃん!! 100メートル一分で進んでも3分じゃん!! 頑張れよ! 頑張ろうよ!! オレ、魔王を倒して世界救いたい! ヤツに苦しめられている人々を救いたい!!」
勇者「はー」
僧侶「やれやれですね」
盗賊「……んっ?」
勇者「盗賊、オマエは何も分かっちゃいない。テロリストの首領を倒したら、それで不運な人間がいなくなると思うのか?」
盗賊「うん」
僧侶「盗賊……。」
勇者「……違うんだ。原因は、人間社会の『歪み』そのものにある」
盗賊「ゆが……み?」
勇者「誰だって幸せになりたい。自分が幸せになりたいし、家族を、友人を、幸せにしたい。だけどその利益はどこかでぶつかり合って、それが争いを生む」
盗賊「……。」
勇者「魔王はさ、悪人じゃないよ。ただ、魔族の利益のためにそうしているだけなんだ」
僧侶「あたしの顔を食べなよ」ボソッ
盗賊「!? 食わねぇし!」
勇者「だから、俺は魔王に対して、ドーナツを要求してきた」
盗賊「……ホームメイドのやつか?」
勇者「……ああ。側近のお手製だ。一万とんで二億六千九百二十三個のドーナツを要求してきた」
盗賊「なんか数字がおかしいが?」
勇者「気にするな。」
僧侶「勇者さんは……。人類全体のことを、あたしたちの未来を考えてーー」
勇者
盗賊「魔王城で、ドーナツを」
勇者「食う」
僧侶「勇者さん……」
勇者「本当の闘いは、必ずしも腕力じゃないんだ。人間の未来のために、魔族の未来のために、ーー俺、がんばってドーナツを食うよ」
盗賊「……わかった。お前がそこまで考えているなら、もうオレは何も言わないよ。お前を信じて、待つだけだ」
僧侶「あたしも……。祈ってますから。勇者さんの試みが、上手くいくように、って」
勇者「(コクリ)」
勇者はひとつ頷くと、大地を踏みしめ、魔王城へと歩き出したーー
僕たちの闘いは、まだ、始まったばかりだ。
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◆ おまけ ◆
活動報告にて、『貼り付いたガムは、溶かしたチョコレートで溶けるよ!』という極秘情報をいただきましたので、バレンタイン的なものをちょこっと。
姫さま(仮名)、ありがとうございました♪
魔王(♀)「見よ、勇者よ! このように、床に貼り付いたガムは、溶かした ちよこれいと と化学反応を起こし、ナイナイするのだ!」
勇者(♂)「ねえ、そのチョコ、俺にくれたんじゃ…」
魔王「這いつくばって舐めるがよい! フハハハハ!!」
勇者 ばばっ! ←(這いつくばって超真剣に舐め始める)ぺろぺろ
魔王「…あの。勇者、ゆうしゃ? そんなにチョコ欲しかった? それとも私を倒せるほうが嬉しい?」もじもじ
勇者「決まっているだろう! 俺は勇者だ! 世界を救うに勝る願いなどあるものか!」剣を放り出し、這いつくばって床で溶けているチョコを必死でぺろぺろ
魔王「…あ、うん。そうだよね。勇者だもんね。チョコより世界かぁ」
勇者「」ぺろぺろぺろぺろ「うまい…っ! 魔王のチョコうめぇ…っ! やば。目にゴミが…」
魔王「そっきーん。例のあれ持ってきてー」
勇者「ぺろぺろぺろぺろ」
側近「わたくしが美味しくいただきました」
魔王「側近、貴様ァ!! わたしが勇者のためによーいしたてづくりちよこれいとを美味しくいただいただと!? その罪、プラダ(※ブランド)で償えェエエエ」
側近「…。ふん。勇者などにチョコを上げる魔王がどの世界にいるのですか! わたくしがいただきましたよ! 美味しく! 美味しくね! そして吐き出して、床に貼り付いたガムを溶かすのに使用しました!」
側近「最近の冒険者どもはマナーがなっていない! モンスターと戦いながらガムを噛むなど言語道断っ!」
魔王「側近のバカァアアア! もうやだ! 魔王やめるー えーん」
勇者 ぺろぺろぺろぺろ
(幕)




