82 このデッドラインを越えたら俺は
勇者「なあ、魔王的にはどうなの? 女性ランジェリーショップの店員さんが超イケメンとか、ダンディーなオジサマとかだったら」
魔王「……お、押すな押すなっ!? 知らねーよそんなもん。あのね、魔王はね、ランジェリーショップなんか行かないの。世界滅亡させてでも行かないね。恥ずかしいし、ね」
勇者「ランジェリーショップははずかしくないよ! 休日に、白くて大きなモフモフ犬のタロウを連れて、カツサンドの入ったバスケットとレジャーシートと読みかけのミステリ持って、家族連れで行けばいいと思うな!」
魔王「ドコ行く気なの、それ?」
勇者「決まってんだろ。ランジェリーショップだ! 下着買いに行くんだよ。あのね、魔王との最終決戦で、女神に加護された超かっこいい鎧の下に着るやつ。やっぱ、ピンクがいいな。レース多めで」
魔王「ーーお前、魔王城に何しに来んの? ピンクのひらひら下着で?」
勇者「……あっ。上下が揃ってないってのも、狙ってないぽくていいかな? 下だけ縞パンにしよかな。水色と白のボーダーのやつ。これなんかどう? ねぇねぇ魔王」
魔王「知るかよ! だから押すなって! 俺がこのデッドライン越えちゃうだろ!!」↓↓床
勇者「ン? この、タイルのつなぎ目? 店内の淡いクリーム色の床タイルと、通路の白いタイルの境目のこと?」
魔王「そうだ……、ば、バカッ、引っ張るな馬鹿者ぉお~。俺様は、そっちのタイル踏んだら自爆するって決めてんの! もうね~、この宇宙開闢の爆発に等しいから!
(※~)あのね、高温高圧のプラズマ(荷電粒子のガス)の塊だった初期宇宙が膨張とととに冷えると、プラズマ中の陽子と電子が結びついて、最もシンプルな原子である水素原子を構成できるようになったわけ。
光は、プラズマ中だと、荷電粒子が生み出す電磁場の影響でまっすぐ進めないわけ。
それが電気的に中性な水素になったから、光がまっすぐ宇宙を進めるようになったわけ。これを、佐藤文隆・京都大学名誉教授が、『宇宙の晴れ上がり(英語名はrecombination:再結合)』って呼び方を提唱したわけ。
ビックバンから38万年後に起きたこのとき解き放たれた光の残照が今では『宇宙マイクロ派背景放射』として観測できちゃうわけ。(~※)
俺大爆発も、数百億年経っても観測できちゃうから!」
勇者「ま……、まじで? 魔王は、やると言ったらやる魔王だからな。有言実行、不言実行、弱肉強食だからな」
魔王「そうだよ~、危ないから。だからね、俺様のマント引っ張るなっつの。」
勇者「……ほら、もうちょっとじゃね? もうちょっとで、世界が……」
魔王「ヒデエ! こいつ、俺様がランジェリーショップの床を踏む変態になるのを何とも思ってねえ! 最低だ! 爆発してやる!」
勇者「……まったく。何がそんなに恥ずかしいんだか。ま、いいや。俺はイケメンの店員さんから、このエロそうなパンツ買ってくるから」
魔王「やめろって! そんなパンツはいて最終決戦に来る勇者なんか俺ヤダ! 泣くよ! 泣いちゃうよ!?」
勇者「ーーあのな。俺は魔王倒したらパンツ一丁になって、オマエの死骸の上でダブルピースして写メ撮る予定だから」
魔王「ヤダ! そんな死に方ヤダ!」
勇者「は~、魔王。あまり俺を困らせるな。俺は、魔王を倒したら魔王の死骸の上でダブルピースして写真を撮るって、幼稚園の年少さんの頃から決めてんの。」
魔王「ヤダヤダヤダヤダ! そんな俺見たくないッ!」
勇者「……じゃあ、遺書でも書いとけば?」
魔王「……遺書?」
勇者「おう。あのな、遺書には、三種類あってな。自筆証書遺言と公正証書遺言と、秘密証書遺言だ」
勇者「一般的には、死後の安心度からいえば、公正証書遺言がオススメとされている」
魔王「……遺言」
勇者「ほら、書けよ。消えるインクのボールペン貸してやるから」
魔王「消されるパターンじゃん!! もうこの勇者やだ~!!」
(※~※ 日経サイエンス 2014年6月号116Pを参考にしました)
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