8 フローズンまおうぐると
ドドーン ドドーン ひゅるるるる、どーん
魔王「音だけ聞いていると戦争ちっくだな・・・」
部下A「わぁ、魔王様、きれいですね! 魔王軍のみんなにもーー見せないで、独り占めしておこうっていう発想をするのが、魔族的です!」
魔王「花火を独り占めという発想がそもそも分からん。あれをどう独占するのだ」
部下B「そりゃ・・・、あれっしょ。抱え込んで離さない。もうお前を離さないぜベイベー」
魔王「やけどするだろ、普通に。」
部下B「ですよね~」
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魔王「ども、魔王です」
勇者「いやっほー! 勇者です! 悪を求めてこの剣がうなる! 必殺、昇天竜華!!」
魔王「うわぉ、あぶなっ」 ひゅう
勇者「ちっ、かわしたか、だが次はないッ」 剣を構えて再び斬りかかる。
部下A「いけー! そこだー! 魔王様の呪文の詠唱中を狙うのがいいですよ、勇者さん! やれやれー!」
部下B「止めないのか、部下A。魔王様がいなくなったら俺たち集団で路頭に迷うんだぞ」
部下A「№2様がいるじゃないですか。あの人についていけば安心ですよ」
魔王「(なんだこの状況・・・。)」
勇者「今こそ積年の恨みつらみを晴らす時! たぁあああ!!」
勇者「もうすぐ夏休みが終わりだなんて俺は信じない! しゅくだい終わってないのも登校日が猛暑だったのも新学期が始まっちゃうのもみんな魔王が悪いんだ!」
魔王「なにその逆恨み・・・、いや、お門違いってヤツだ冤罪だ!」
*
魔王「・・・というわけで、魔王でした」
勇者「・・・というわけで、勇者ですよ?」
魔王「2人合わせて・・・」
勇者・魔王「「シルバー・ウィークの使者!!」」
魔王「・・・で、シルバー・ウィークって何さ」
勇者「9月の後半辺りの三連休のことです。お休みって、いくらあっても困らないよね」
魔王「・・・まあ、困らんだろうが、365日が休日になったらそれはそれで悲しいものがある」
勇者「えー、何でよ。俺は困らないね。試しに休んでみよう」
魔王「止せ。ひきこもりというのはな、好きでなるものじゃあないんだ。出たくても、出る理由がない。真夏の太陽も春の陽気も、彼、もしくは彼女を呼んだりはしない。いかな外部からの干渉も、彼、もしくは彼女を部屋のドアから引きずり出す理由にはならない。いわばーーマジックバリアー!」
勇者「いいじゃん、ひきこもって何の不利益があるというんだ。たしかに、履歴書に書くべき項目とはならないだろう。それはいわば人生の空白、履歴書上の黒点。採用官に首を傾げさせるワンダー・ポイントとなりはしても。」
魔王「十二分に不利益だろ。書いてないけどバイトしてましたって嘘つくくらいの根性は必要だね」
勇者「世間の風って冷てえなあ。あ、勇者っていうのは、アピール・ポイントになるのかな?」
魔王「魔王という人類の敵を探してフィールドを彷徨う冒険者・・・か」
勇者「毎日が苦労の連続だ。尽きかける薬草、迫り来るトラップ。押し寄せるモンスターの群れ・・・! ああ、なんて過酷な職業」
魔王「冒険家、とか、あるいは趣味の欄にサバイバル暮らし、とか」
勇者「エヴェレストを踏破するレベルにならないとダメだろうか」
〈部下Aが入ってくる〉
部下A「夏休み名物! 薄めすぎたカ●ピスですよ~」
魔王「なぜ薄めすぎる必要が」
部下A「お約束ですよ、お約束。この味を一度覚えちゃうと、夏が来るたびに飲みたくなるんです、薄めすぎた水っぽいあの味・・・ああ、夏。」
魔王「ヤな夏の思い出し方だな」
部下A「おばあちゃんとか大抵しみったれで、薄めまくるんですよ、ウチでは」
魔王「魔界の瘴気から生まれたガーゴイルに祖父とか祖母とか存在してたのか」
部下A「気分の問題ですっ」
*
魔王「どうでもいいけど、たしか東北地方とかだともう夏休み終わってるんだよね? その分、冬休みが長いとか」
勇者「らしいね。雪も積もるしね」
魔王「雪か・・・。いいよな。謎の業火で三日三晩焼けつくされ、焦土と化した故郷の村に降り注ぐ白い薄片・・・」
勇者「・・・ちょっと待て」
魔王「ん? 何か」
勇者「明らかにそれ原因お前だろ! ひどいヤツだな!」
魔王「魔王だからな。人間どもに恨まれるのが仕事なのだ。仕方あるまい」
勇者「おのれー、魔王めー、今ここで退治してくれ・・・る、ってあれ?」
部下A「勇者さんの剣なら、部下Bが持ってっちゃいましたよ。マニアに売ると高いんですって。近頃はネット・オークションが便利でとか言いながら。」
勇者「返せっつの」
部下B「いいじゃん、ケチ。」
*
魔王「あー、あれだな、勇者よ。お前は今年の夏のボーナスを何に使ったのだ?」
勇者「いきなりだな。装備を整えるのに使ったよ。剣に兜、鎧に盾。いやぁ、嫁さんに家族サービスってのも考えたんだけど。
やっぱさ、魔王倒さないと始まらないじゃん、この仕事」
魔王「ボーナスってのは私的に使うものじゃあないだろうか」
勇者「いいの。これはさ、俺の趣味でもあるわけ。分かる? 魔王を倒すだろ? →平和になる →嫁さんとラブラブ。ほら、最終的には、俺の幸福につながっているんだ」
魔王「それで鎧兜か。・・・へぇ」
勇者「なんだよやきもち? 嫁はあげないぞ」
魔王「くれるものならもらっておこう。何か使い路があるかもしれん」
勇者「人を道具扱いしちゃいけません!」
おわる。
勇者の年齢・職業・性別が不詳ですねw 学生なんだか会社勤めなんだか。
追記:
お気に入り登録ありがとうございますその2!! あんまり嬉しくて徹夜でマラソンとかできちゃいそうです。
…いや、そんな暇があったら、書いたほうがいいのか。
Thanks for your read !!




