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「ども、魔王です」「こんにちは、勇者です」  作者: 魔王@酒場
魔王様は玉座にて待つ。宅配便とかを。
7/162

7  通りすがりの、勇者様。

出稼ぎ魔王v.s.日雇い勇者


魔王「ちょっと人間どもを苦しめる簡単な仕事だって聞いてきたのに…!」

勇者「ちょっとモンスターの相手をするだけで時給1万Gだっていうから…!」

魔王・勇者「(騙された…!)」


   *


魔王「ども、魔王です。こう見えても魔族の中では一番偉いんです。自前のサイフを持って歩かないくらい」

勇者「マジか! リアルにか!? お付きの魔物がいるんだな。元・特殊魔物部隊のSPとかが付くんだな。そうに違いない」


魔王「え~、やだよ、そんなの面倒くさい」

勇者「魔王…、命っていうのはな、大事なものなんだ」

魔王「お前に言われたくないわい。お前のせいで何体の魔物がほふられたと思っているんだ」

勇者「アイタタタ、耳が痛い」


魔王「中耳炎かもよ? 耳鼻科行けば」

勇者「魔王には分からないんだな。これはーー、俺の心の痛みだ!」


魔王「心…だと!?」

勇者「そう、人間には"心"がある。これは魔族にはないものだ」


魔王「へー、すごいすごい」

勇者「ああっ!? 何、うらやましくならない?」

魔王「うらやんで欲しければ貴様のその首を差し出せー」


勇者「…いや、意味わかんないし。」


   *

   *

   *


側近「・・・魔王さま?」

 少し、ぼうっとしていたらしかった。側近の怪訝そうな声で我に帰る。


魔王「あ、ああ。ダルシア地方の部隊が壊滅した件について、だな」

側近「はい、そうです。どうも人間どものなかに、とてつもない力を持った者がいるらしいのです」


魔王「・・・ほう?」

 魔王ーー皆にそう呼ばれていたし、彼、あるいは彼女ーー『それ』自体の名はなかった。

 魔族たちがその技術の粋を集めて作った魔法人形には。


魔王「面白い。--そうだなお前、見て来い」

側近「・・・はっ? わたくしめがですか?」


魔王「他に、誰がいる。お前しかおるまい」

側近「し、しかし・・・ですね。わたくしには魔王さまのそば近くお仕えするという大事な役割が」


魔王「それがどうした。私はお前に『行け』と言っている」

側近「・・・クッ」


 側近ーー魔王軍のナンバー・2は、屈辱に顔を歪める。

(魔法人形ふぜいがーー)

 しかし、魔力、実力とも、それに敵わないのもまた事実。

 彼は顔を怒りに染めたまま、ばさりと、その背の、コウモリのような両翼を広げた。


側近「よろしいでしょう。わたくしの目で見た報告を信じてくださると、そういう意味ですね?」

魔王「貴様が嘘をつくなど、考えたこともない」

 つまらなさそうに、魔王は言う。


側近「・・・ふ」

 可笑しくて、側近は笑う。


側近「ーーいいでしょう。その《信頼》に免じてーー人間たちの好きな、たわいのない遊びのことですがーーわたくしが見て参りましょう」


   *


側近「ーーちっ」

 その、三時間後。側近は部下をその土地に差し向けたが、--苦い顔で舌打ちをすることになった。

(何だ、あの人間はーー。規格外だ。それも、桁外れのーー。計算が狂う。これでは、・・・)


 冷静に、頭の中の計画を整理する。描き直す。

(ーーあの魔法人形を仕留めてくれさえすればいい。)

 建て直したシナリオを、慎重に慎重に吟味する。


 ーーすべてはわたくしの手の内に。月や星すらも、この手の中で踊る一片の木屑と同じこと。

側近「《勇者》--か。・・・ふふ、良い駒だな。うまく使えばーー」


 キングを倒せる。それは彼らのキングであって、わたくしのキングではない。

 あれがただの、物言わぬ人形に戻る時。それこそが、わたくしの、栄光を、取り戻す時。


側近「く、くくく、・・・あっははは!!」


   *


魔王「・・・人間?」

勇者「『人間』ではない。私には勇者という名がある」


魔王「名はそれほどに大事か。名乗らねば存在もできぬのか。ヒトとは不便な生き物なのだな」

勇者「・・・あ?」


 まるで自分が人ではないみたいな言い方ーーそれに何だか、可笑しい。

 街道の壊れた荷馬車のそばにうずくまる人物を、怪我でもしたのだろうと思って近づいたまでは想定内だったが、これは予想外だった。


 《勇者》--人間たちにそう呼ばれるようになった少女は、首をかしげた。

勇者「怪我をしているのではないのだな?」

魔王「ああ、平気だ」


 側近の仕掛けた罠だ。触れた物の魔力を奪い取る。並の魔物なら身動きがとれなくなって衰弱死するところだがーー《魔王》の魔力は、自然界のそれを直接に引き出す。無尽蔵だ。

 罠のほうが破壊された。


 報告にあった勇者に関係のある場所を、魔王が自ら調査に来るだろうと知って仕掛けていたらしい。

魔王「あの阿呆、また小ざかしい真似を・・・。まったく。私の存在が不要であるのなら、--そもそも、作り出さなければよかったのだ。魔族どもめ」


 魔王がぼそりと吐いた独り言。それを勇者は聞きとがめる。

勇者「今、魔族と言ったか?」

魔王「言ったな」


勇者「魔族の本拠を知りたいのだ。私は魔族を討つ」

魔王「自分で調べたらよかろう」


勇者「だから訊いている」


   *


 一時間後、魔王城ーー。

魔王「帰ったぞ」

側近「魔王さま、その人間は」


魔王「勇者だ」

側近「・・・はっ??」


 その時の側近の顔は、必見に値した。

魔王「だって魔王城 見たいって言うんだもん。連れてきちゃった」


側近「い、いやいやいや、どこの魔王さまが物見遊山の勇者を連れて城を案内しに来るんですか」

勇者「おじゃましまーす。漫画、ほんとに借りてっていいの?」


魔王「もちろんだよー。側近とじゃ話し合わなくてさ。さみしかったんだー」

勇者「わーい。じゃあ全部借りてくねー」


魔王「ベルサイユのトリカブトも貸してあげるー」

勇者「じゃあ私、代わりにこの《勇者の剣》あげちゃおっかなー」


 ちょっと待て。側近は頭を抱えた。



 こんなはずじゃ。


魔王「夕御飯食べてくー? 今日、石狩鍋なんだ」

勇者「ほんとに? 悪いなぁ」


魔王「いいって、いいって、気にしなくて。作るの側近だし」

勇者「やったあ!」


 ーーこうして、ぐだぐだな日常は始まった。



おしまい。

あとがき


 ・・・読んでくださりまことに感謝感激雨霰。そろそろ投げ遣りになってきましたとさ。勇者と魔王のキャラが少し回想バージョンだと違ってますね・・・。


追記:

お気に入り登録&評価ありがとうございます!! もっとテンション下げてぐだぐだにしていきたいと思います!!

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