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「ども、魔王です」「こんにちは、勇者です」  作者: 魔王@酒場
魔王様は玉座にて待つ。宅配便とかを。
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64 魔王様、本気で侵略する

魔王「ちわーっす。来たよ~」ヨッ


王国兵士1「……え。おい、誰だ? お前知ってるか?」


王国兵士2「いや、知らん」


王国兵士1「誰だろうな……」


魔王「余の顔、まさか見忘れたとは言わせんぞ」ゴゴゴゴゴ


王国兵士2「あっ!? わかった! アレだ!」


魔王「……フン。今ごろ気がついたか、愚かな人間め……」


王国兵士2「宿場町で修道女のローブの中を盗撮した男だ!」


王国兵士1「なんだと!」


魔王「ちょっと待、違うの、俺は……アーッ!?」


   ◇


側近「……まったく。呆れて言葉もありませんね」


部下A「僕は止めたんですよ。桜音リミちゃんがいくら好きでも、そのコスプレをして人間界征服に行くのは、大人として常識に欠けた行動だ、って」


側近「魔王様、TPOってわかります? Time、Place、Occasionの頭文字です。時と場所と状況を選んで、服装は考えろということです。我々は、裸では社会生活を営まない。常に何らかの衣服を、ーー記号をまとっているのです」


魔王「……マジかよ。中学校の頃のジャージで玉座に座ってたらいけないの?」だらーん


部下A「……魔王様、中学校行ってませんよね……? そのジャージ、どっから」


側近「夜のパジャマ代わりにするのは中学校の頃のジャージでなければならんのだ!! とおっしゃるので、わたくしの私物を差し上げました」


部下A「わぁ。側近様は学校に行ったんですか? いいなあ。魔界には学校がありませんからね。僕も通いたいなあ」


側近「学校生活とは、部下Aの想像するような良いものでは」


部下A「美術室に、喜劇作家モリエールの石膏像とかあるんですよね。一日中眺めていたいなあ」←自分が彫像の魔物ガーゴイルなので、彫像好き


側近「……しごく不純な動機のようですね」


魔王「」だらーん


   ◇


魔王「……あの、本日はお日柄もよく、実に世界征服日和でありますなあ! ところでわたくし、こういう者です(名刺)。国王様にお会いしたいのですが……」


王国兵士1「マオウ? 最近は、商人たちも変わった商い名をつけるなあ……。国王はお忙しい。私が変わって用件を……」


魔王「用件とかどうでもいいんだよ! あのね、俺はね、俺、っつーか、魔王という存在をね、人間どもの脳裏に、恐怖の代名詞として刻みたいわけ」


王国兵士2「それはそれは。商売も大変ですなあ。やはり、ブランド・イメージがものを言うのでしょう?」


王国兵士1「だよなあ。広告で何度も見て、脳裏に刻まれる。それでつい、店に足を運んだ時も同じ商品を手にとってしまうわけだ」


王国兵士3「いや、やはり、品質だろう、大事なのは。実際、手に取って、使ってみる。でないと、本当に良いものは分からない。この間さ、カミさんが子供のオムツを買って言ってたよ」


魔王「……オムツとか、どうでも良いんですがねぇ」


王国兵士1「扱っているのはワインかな? それとも、布? 穀物かい?」


魔王「ちっげーーよ!! 恐怖と絶望だよ!」


王国兵士ズ「(笑)」


王国兵士1「そりゃなあ。売れないよ。お前さん、ビジネスの基本って何か分かるか? 相手が潜在的に欲しいと思っているものを差し出すことだよ。そうするとさ、つい買っちゃうんだなあ、これが」


魔王「欲しくないものを押し付けるのが魔王の仕事なんだっつーの! 怖がれよ! ほら!」


王国兵士ズ「(笑)」


   ◇


側近「魔王様。わたくしという者がありながら、申し訳ありません。事前告知というものを失念しておりました」


側近「やはり、何かを始める際には、然るべきメディア(媒体)で告知をする。そして、人間どもの期待感を煽っておく。ーーそうですね。王国に何か不吉な出来事が起こるのが良いでしょうね……」


部下A「地震。噴火。嵐。疫病。人間どもは恐怖し、来るべきさらなる災厄に脅える」


側近「そこで魔王様がまがまがしいムードを演出しつつ、姫を誘拐……!!」


魔王「……俺、考えたんだけどさ、人様のうちのご息女を、予告もなくさらってくるのって、どうかと思ったわけ。やっぱさー、同意を得てからでないと」


側近「同意を得てからさらったりしたら、賄賂だとか闇取引だとか汚職だとかいわれますよ」


魔王「まじで? そっかー。魔王として礼儀正しいほうが良いと思ったんだけどな」


側近「魔王に礼儀正しさは必要ありませんよ」


魔王「……え? そう? そっかなー」


   ◇


王国兵士1「おっ、魔王だったな! 今日は商いのほうはうまく行ってるか?」


魔王「……マジで何なの。馴れ馴れしくね? 俺、魔王なの。分かる? 魔界とか支配したりとかしてるわけ。そりゃあ、実務はほとんど側近がやってて、俺はお飾りだよ? ガ○ダムのプラモとか、お城の模型とか作って遊んでるよ? だけどさ、やっぱ、それなりの存在感っつーの? あるわけ」


王国兵士2「トップはそのくらいで良いんだよ。ムダにやる気があったりして部下の仕事をやっちゃうのはね、むしろ悪い上司なんだな、実は」


王国兵士3「カネを払っている以上、それぞれが、それぞれの仕事を果たしていく。その結果として、組織が巡り、事業が動く。そういうものなんだな」


魔王「はー。貴様ら。俺のことを、そこら辺にいる人間と同じだと思っていないか?」


王国兵士1「あー、あった、あった。中学二年生の頃とかな。自分を、この世に一人しかいない、特別な存在だと思いたい年頃ってあるよね」


王国兵士2「ある意味では間違っちゃいないんだがな。(一般的な)親や家族にとっては、その子は、紛れもなく、唯一無二の宝だからな」


王国兵士3「それが世間に出ると、途端に『大勢の中の取るに足らない一人』になっちまう」


王国兵士1「若い頃はそれが許せないんだよな。遮二無二頑張って、何とか、他人に認めてもらいたい、なんて考える」


王国兵士ズ「若さだよなあ」


魔王「……いや、俺、もう何百年も生きて……」


王国兵士ズ「そういう設定なんだな?www」


魔王「むきーーっっ!!」

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