58 邪神様からお電話です
『邪神様からお電話です』
勇者「勇者になりたい」
魔王「魔王になりたい」
勇者「そんでいつかノーベル平和賞もらうんだ!」
魔王「俺はねー、邪神様を召喚して世界を滅ぼしたいな!」
勇者「やっぱねー、夢は見てるだけじゃなくてさ、叶えないとな!」
魔王「全くだ。俺さー、毎日ちょっとずつ、邪神召喚の練習してんのよ、実は」
勇者「マジ? どうやってんの?」
魔王「まずはイメージ・トレーニングだね。魔法陣を描いて、人間どもを千人、生け贄に捧げんだよ」
勇者「ほうほう」
魔王「そうするとさ、邪神様もやっぱ、気分よくなるんだろうな。浮かれちゃって階段踏み外すわけ」
勇者「あっぶねーなー。そんで?」
魔王「人間界に落ちてくる頃にはチョー不機嫌になっててさ、イイカンジで暴れてくれるわけ」
勇者「へー。邪神様も大変だね。階段から落ちるとかwwwww」
魔王「勇者は何かやってんの? ノーベル平和賞もらうために」
勇者「寝る前に腹筋してる」
魔王「え? そんだけ?」
勇者「新聞は毎日、欠かさず読んでるね」
魔王「そんだけ?」
勇者「食事には気を遣ってるよ? やっぱ、高血圧とか怖いしさ」
魔王「他には?」
勇者「そうだなー。クロスワードパズルとかやってるね。長生きしてもボケないでいたいじゃん?」
魔王「ノーベル平和賞は?」
勇者「バッカだなー、お前。毎日の些細な違いが、50年もすると大きな差になるわけ。凡人はね、やっぱ、そこが判んないんだな」
魔王「……、世界平和は?」
勇者「あのさ、こういう名言、知ってる? 『その問題さえ見なければ何の問題もない』って」
勇者「皆さー、『魔王が世界征服してる』って思うわけじゃん?」
魔王「……実際、けっこう頑張ってるよ」
勇者「うんうん。でもさー、あのな、お前が人間たちの街を襲撃してる間にも、アリさんたちは頑張って越冬の用意してるわけ」
魔王「まあな、昆虫ってそうだよな」
勇者「太陽とかちゃんと昇ってくるわけだよ。地球とか、休まないで回ってるしさー」
魔王「あー、あれな。あれは俺も尊敬してんだわ。オゾン層とか簡単に破壊されちゃって根性ねえなあって思ったこともあったけど、やっぱ、奴はね、努力家だよね、そこんとこ」
勇者「だろ? 俺ね、最近、早起きして日の出とか見るわけ。で、そうするともう感動しちゃってさ、魔王が世界征服してんのも、まあ、どうでもいいか、って」
魔王「そうだな。俺は、まぶしい光はちょっとニガテたけどな」
勇者「俺、副業で新聞配達始めたんだけどさ、もう、仕事が終わる頃朝日が昇ってきてね」
魔王「おお、悪くないな」
勇者「地球って、ホント、回ってたんだなぁ……って。ちょっと噛み締めちゃったよ」
魔王「今朝のその時間、俺はとうとう、人間どもの王を倒したがな」
勇者「マジで? もう人間とか、やばくね?」
魔王「……まあな。やばいよなぁ」
勇者「うわー、大変だよ。俺、ちょっと荷造りしてくるわ」
魔王「どっか行くの?」
勇者「……うん。まあね。探さないでくれよ?」
魔王「10数える間だけな」
勇者「ゆうしゃはにげだした!」
魔王「しかしまわりこまれてしまった!」
勇者「ゆうしゃはにげだした!」
魔王「しかしまわりこまれてしまった!」
勇者「タイヘンだぁあああ!!! 誰か助けてーー!!」
魔王「まおうのこうげき!」
勇者「しかしよけられてしまった!」
魔王「まおうは火炎魔法をとなえた!」
勇者「魔王さーん! 魔王さーん! 内線で邪神様からお電話です!」
邪神様「準備できたよー☆ 今いくねー♪」
勇者「詰んだァアアア!!」
◇
『ピンポン・ダッシュ!』
王子「いよいよ、魔王城にピンポンダッシュをかける時が来た。皆の者、用意はいいか?」
大臣「王子、やはり無謀です! 魔王城に単身、ピンポンダッシュなど……。もし王子の身に万一のことがあれば」
王子「くどい! 何度言わせるのだ。人民の先頭に立って理想をーー人間のあるべき姿を示す。それこそが王族の務め」
兵士「王子……」
兵士「しかし……出てくるでしょうか?」
王子「出てきてもらわねば困る。押し売りを装ってでも、やつを引きずり出してみせるーーいくぞ!」
ピンポーン
王子「そしてダーッシュ!!」
魔王「……ん? 誰もいねえじゃん。なんだよクソ、野球中継見てたのに……」
王子「今だ!!」
大臣「総攻撃!!」
魔王「うわっ!? また新聞屋かよ!? いい加減しつこいっつの。」
魔王「イタタタタ、ナニコレ、劣化ウラン弾?」
魔王「やめて! 生タマゴはやめて! ヒドイ! ちょっと大量殺戮しただけなのに! 暴力反対っ!」
魔王「ぐおおおおっ! この、私が、こんなところで……!」
兵士「王子! 玄関前で魔王がゲロ吐いてます!」
王子「攻撃の手を緩めるな! 細菌兵器の投入を許可する!」
兵士「くらええええっ! ヘリコバクター!!」
魔王「ピロリ菌ごときにィイイイイ」
バシュウウウウ
兵士「やった……のか?」
兵士「やった! やったぞ! オレたち魔王を倒したんだ!!」
こうして世界は平和になり、人々は、幸せに暮らすことができるようになりました。
民衆「王権を倒せ! 横暴を許すな!」
王宮前に人々は押し寄せ、日々、さらなる幸福を求めて闘っています。
民衆「仕事をよこせ! 失業率の改善を!」
民衆「税制改革反対! 暮らし優先の政治を!!」
民衆「公務員の削減を! 無駄な公共事業の見直しを!」
魔王|(魂)「人間どもは争いが好きだな……」
側近|(魂)「……まあ、そういうものなのでしょうね」
Thanks for Reading !




