57 五十円玉を見かけたら
勇者「50円玉が嫌いだ」
勇者「あいつマジ何なの? ありえなくね? 財布に入ってると超イラッとくるんですけど。」
勇者「財布がぱんぱんだなー、と思って中見ると、たいていあいつが二枚以上入ってんの。超ムカツク」
魔王「……まあ、そう言ってやるな。あいつもな、頑張ってるんだよ。朝、早起きしてジョギングしたりな。あと、最近、犬を飼い始めたって」
魔王「ええと、何つったっけな、ああ、そう、プレーリードッグとか」
勇者「それ犬じゃねえじゃん」
勇者「第一、穴とかあけちゃって、あいつ調子に乗ってるよね」
魔王「五円玉だって穴あいてるじゃん」
勇者「五円玉はさー、何つーの。まだ可愛げがあるじゃん? 守ってあげたくなる。ああ、俺が頑張らなきゃ、みたいな」
魔王「まあ……、そうだな」
勇者「でも50円玉はさー、やつはダメだね。ふてぶてしい。」
魔王「ふてぶてしいかー」
勇者「そうだよ。それにさ、表の模様が良くないね。何あれ。タンポポ?」
魔王「菊だろ。」
勇者「菊かー。菊はね、ダメだ」
勇者「100円玉はさー、ツバキじゃん?」
魔王「桜だよ。」
勇者「……ああ、そう? そのね、桜がまあ、スペクタクルじゃん?」
魔王「スペクタクルかー」
勇者「そうだよ。気づかなかったのかよ!? そのスペクタクルが100円玉の魅力じゃん?」
魔王「ふむふむ」
勇者「50円玉はさー、やる気ないんだよね。100円玉と色、一緒だし。大きさもほとんど変わらないし。」
勇者「それによー、硬貨の裏ってみんな、『日本国 何円』って書いてあるけど、他のは丸のカーブに沿って曲がって書いてあるのに、50円玉だけ直線なんだよね。あれは、気合い入りすぎだと思うな」
魔王「いいじゃん。俺は50円玉のそういうところ、嫌いじゃないな。それにな、五円玉だって、他のと違って裏に『五円玉』って書いてないよ」
勇者「五円玉は、何をしても許される。つーか、『五円』って書いてあるほうが表じゃねーの?」
魔王「……え? うそ。マジ? 稲穂のほうが表なの?」
勇者「だと思うぜ。」
勇者「五円玉は、さ、そういうところが可愛いんだよな。抱き締めたくなる」
魔王「抱き締めてろよ」
勇者「ぎゅ~っ!」
勇者「……あ、曲がった」
勇者「……やべえ、コレ、銀行に持ってったら、替えてもらえる??」
☆
『テーブル・トーク・RPG』
ズビッ ズルズルズル ハーックション!!
魔王「あー……、やべえ、超アタマ痛え。喉とかも激痛。でも仕方ないな~、この仕事、休めないからな。はい、次の勇者さん、どうぞー」
ゆうしゃ「……。」
魔王「ゆうしゃさんは、25年ほど、自宅警備会社を経営してらしたんですね。この世界情勢の目まぐるしい中、個人会社の経営なんて大変でしょう。ーーそれで、今回はどういった理由で魔王討伐を志望されたんですか?」
グサッ
魔王「イタッ!! 超痛え!! 何すんだよ!! まだ質問の途中だろうが!! ーーまったく、最近の勇者は気が短いったらないな。はいはい、魔王討伐ご苦労様。帰りに出口でお給料貰ってくださいねー」
魔王「えー、ブツブツ。次の勇者は、マグロ漁船に乗っていた……、と。マグロ漁船ねぇ。昔も私はやりましたよ! 大変なんですよね、アレは! 海の中に引きずり込まれるかマグロを仕留めるかっていう、生死をかけた駆け引きのーー」
……ザクッ
魔王 パタリ
魔王「痛え!! 超痛え!! やだもう、こんな仕事やめてやるー」
勇者「おーっす! 来たよ」
魔王「おお。勇者か。待ちわびたぞ。今日はどうよ? 経験値の高い魔物狩れた?」
勇者「どーもこーもねーよ。『ふわ毛』が欲しいんだよなー。アレがあるとね、加工してバニーの耳が作れんの。レア装備なんだぜ!」えっへん!
魔王「……なんか、最近の勇者はまるでネトゲの人みたいだね。レアアイテムとか課金制なの?」
勇者「あれなー。一度、払ってしまうと、ズルズルズルズル……。ゲーム会社の良い奴隷だよ。人生を壊すよ、ネトゲの課金アイテムは。」
魔王「アナログゲームがイチバンだよな! TRPGやろうぜ、トークアールピージー。俺、水戸黄門がやりたい」
勇者「水戸黄門をロールプレイするの? いいよ。クトゥルフでいい?」
魔王「水戸黄門がクトゥルフで何すんだよ!!」
勇者「とてつもなくコワいものを見ると『正気度』が下がるんだよな」
魔王「仲間に伝えると仲間の正気度も下がってしまうので、迂闊に話せない」
勇者「忍び寄る恐怖。迫る邪神」
魔王「怖っ! クトゥルフ怖っ!! 俺には向いてない。いくら主人公を女子高生にしても、あの怖さは誤魔化せない」
勇者「じゃあ、ダンジョンズ&ドラゴンズ」
魔王「おお! 基本だな! いいね、それでいこう!」
勇者「んでね、シナリオ作るのが面倒だったから、代わりに、殺意の高いダンジョンを作ってみたよ。シーフを六人くらい作って、各自が壁、床、天井、扉、を調べつつ、最後尾は、ドワーフのじいさんとかに任すといいと思う」
魔王「おお! いいな! ウチの魔王城にはトラップとかないからな! 最近のRPGって、トラップでキャラクター殺すと文句言われるだろ? トラップこそダンジョンの醍醐味なのになー」
勇者「いいよねトラップ。落とし穴は定番として、壁が迫ってきたり、天井が落ちてきたり……」
魔王「そうそう! コンピュータ・ゲームにはないよな、あの恐怖は!」
勇者「まあね。俺の場合、主にコンピュータ関連で仕事してるから、あんまりダンジョンの仕事とかする機会なくてさ」
魔王「たまに、ゲームマスターのシュミで、意味不明な謎解きとかあったりな!」
勇者「そこはまあ、ご愛嬌だろ。コンピュータ・ゲームでも、制作者の趣味全開です、みたいなの時々あるじゃん」
魔王「俺は好きだけどな。そういうのは味があって」
勇者「命がけでダンジョンに挑むほうにはたまらないけどな。シナリオがトータルで三時間、内訳は、謎解きに二時間かかった、とか。」
魔王「もはや謎解きのためにシナリオがあるようなもんだな……」
勇者「でもまあ、TRPGってのは、そこらも含めて楽しむものなんじゃん?」
魔王「TRPGだと、魔王ってあんま出ないんだよな……。」
勇者「……勇者も影薄いよね。英雄っつーと、たいてい4~6人パーティーで」
魔王「……知ってるか? ソード・ワールド2.0のエルフは水属性で、水に浸けとくとHPが回復するんだぜ?」
勇者「ワカメみたいとか言われているな」
魔王「アリアン・ロッド・シリーズは、制作者の趣味で世界観が拡張されてどんどんわけのわからんことになっているんだぜ?」
勇者「きくたけさんは良いゲームマスター」
魔王「ダブル・クロスのリプレイでは、デザイナーが担当した主人公キャラはたいてい、ヒロインと良いカンジになると死ぬ」
勇者「頭の良い方だけに、わざとやっている感すら感じてしまうな。恐ろしい人だ」
魔王「以上、TRPGに興味のない人にはまったく意味不明な会話をお送りしました!」
勇者「まったくだ! サイコロの振りすぎで手が痛い! あのコロコロいう音が耳から離れない!」
魔王「興味のある人は、本屋さんで富士見ドラゴン・ブックシリーズを探すんだ!」
勇者「たいていデカい本屋なら、ラノベ・コーナーにあるぜ!」
魔王「魔王城の前の本屋では、店長の趣味でTRPGコーナーがあるがな……」
勇者「店長……。いいな、俺も本屋の店長になろうかな」
Thanks for Reading !




